間章

セラファンの名

 エーデム王族は、親が子供に名を与える。

 親は多くの場合、古の偉人や祖先から名をもらい、子に授ける。

 魔族はエーデム族に限らず、本当の名前を偽るのは恥とされ、親から与えられた名前を大事にするものだ。

 だから、親は名をつける時は思いを込めて、希望を持って名前を付けるものだ。


 例えば……愛する人の名を。 


 父はエーデム王ファウル、母はセーナ。

 両親はいとこ同士、生粋のエーデム王族に生まれた子は、セラファンと名付けられた。

 セラファンが赤子の時、ウーレンの突然の攻撃により、首都イズーは陥落した。その際、両親は無残な死を遂げたが、赤子はムンク鳥に運ばれて生き残り、遠く人間の島でメルロイという名前を与えられて育った。

 長じて魔の島に戻った彼は、エーデムリングの力を解放して、ウーレンを退け、エーデム王国を復活させた。

 戦いの後、エーデムの民は、セラファンが戴冠し王となることを願ったが、彼は、歌うたいメルロイとして生きることを選び、長年エーデムを支えてきた摂政のセリスに王位を譲って旅立ってしまった。

 魔の島中を旅した彼は、人間の島からお茶の文化を広め、また歌の力によって種を問わず、民に癒しを与えた。王とは別の意味で、彼は人々の希望となったのだ。

 放浪のエーデム王子、癒しの歌うたいなど、彼の二つ名は数多くある。だが、エーデム国内では、未だ、彼をセラファンの名で呼ぶ者が多い。


 ゆえに、セラファンという名前は、エーデムでは英雄であり、また、自由の象徴でもある名前となる。

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