50年後

街中にある小さな公園の中を白髪の老人と老人の孫である小さな少年が一緒に歩いていた。2人は仲良くかくれんぼなどをして遊んでいた。


「おじーちゃんこっちー!」


「あぁ、なんだそこにいたのか、お前は本当に隠れるのが上手いな。」


「ねえつぎはあのひろいとこいこ。」


少年はそう言って広い公園を指差した。


「ほう、こんな場所がまだ残っておるとはな。行こうか。」


 公園に着くと老人は少年にこんなことを尋ねた。


「ところでここは何をするところだったと思う?」


すると少年は少し考えてから答えた。


「かけっこ!!」


「それもいいな。だが違う。昔はここでよく野球をしとったんだ。」


「やきう?」


「あぁ、今はもう誰もやっていないがのう。とても面白いんじゃ。...よし、家へ帰ろう。良いものを見せてやろう。」


「いいものって?」


きょとんとした少年に老人は


「家に帰ってからのお楽しみにしておこう。」


と笑いながら言って2人でまっすぐに家へと帰った。

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「確かこの辺に...おっ、あったあった。」


そう言って老人は物置から一枚のDVDを取り出してきて少年のもとへ戻ってきた。テレビにディスクを入れるととても昔の野球中継が流れ出した。


「昔はみんな野球をやっとったんじゃ。」


「これがやきう?」


そういって少年は興味津々でテレビを観ていた。テレビからは実況の声が聞こえてきた。


「さあ9回裏の攻撃。2アウトランナーは2塁。やはりこの男には良いところで回ってきますね。バッターボックスには世界の北穂志が入ります!」


「お、北穂志選手か。懐かしいな。」


そう呟く老人の声も聞こえないほど少年は不思議とテレビに惹きつけられていた。


「打ったーーー!打球はぐんぐん伸びて、入りましたぁぁ!」


その古い映像の中にその日から今日まで閉じ込められていた凄まじい量の熱気を少年は不思議と感じ取っていた。


少年は居ても立っても居られなくなったのか老人が一緒に持ってきたバットを持って外に出ていった。


 部屋に1人残された老人はかつてあの広場で仲間達と野球をした日のことを思い出した。


 彼の心の中にはあの野球を楽しんだ日々の思い出がいつまでも大切にしまってある。


 「おじーちゃん!」


外から自分を呼ぶ声が聞こえた。外に出てみると少年は空を指さして楽しそうな目をしながらこちらを向いていた。


「あの星!光ってるの、あれなに?」


「あぁ、あれは北極星、ポラリスだな。」


老人が答えると少年はぽらりす?と反芻した。


「あぁ、ポラリスだ。あの星は一年中見えるんだ。どんな時でも見えるところで輝いて同じ方向を示しているんだ。」


「へー?行ってみたい!」


そう無邪気に答える少年に老人は白い歯を見せて笑いながら返す。


「それはまた今度じゃな。」


そうして少年に気をつけてバットを振るように諭すと老人は家の中へ入って行った。 

野球が全ての人の心から消えることはない。


そう改めて確信した老人の心の中にも、楽しかった野球はいつまでも残っている。


 そして時を超えて、また野球の楽しさを知った少年が満点の星空の下でバットを振っている。


その純粋で希望に満ちた目の先には野球と野球を大好きな人達の未来が確かに存在していた。


                 〜終〜

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野球が消える日 わちお @wachio0904

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