第32話 ヒーローの巻・後編
そんなこんなで、くだんの正統派武道系男子も、思うことがあったのか、桃山の所業を道場の師範に、告げ口していなかったのです。
で、まあ、たまたまではありましたが、結果的には、『手のつけられない乱暴者・山田』は消えて、真面目な中学生「シン・山田」になり、『ヒーロー』はといえば、別に絡まれなければ、しごく「ご陽気」なだけの少女であったので、教室には、おだやかな平和が訪れていました。
そんなある日のこと、桃山は、珍しく弱腰になっていました。なぜ弱腰かといえば、全員参加のクラス対抗野球大会のせいです。
彼女は、バットを担いだまま、「野球とか分かんない!」と言っていましてが、「とにかく、バットにボールを当てて、全力で走ればいい」と、野球部の森にアドバイスを受け、トップバッターとして、持ち前の運動神経で、無事ヒットを飛ばすも、全力で三塁に走っていってしまいました。
「桃山、この大バカヤロ――!」と、怒鳴られたのは、言うまでもありません。
もちろん、その後も、わたしたちは、ボールを落とすわ、変なところに投げるわで、クラスの足を、全力で引っ張り続け、クラスは、もちろん最下位で、「ヒーロー」は、クラスの野球部には完全に、「バカヤロー」扱いになったのでした。
桃山も、わたしも、野球のルールには、まったくもって、明るくなかったのです。わたしのバットは、ボールに、かすりもしませんでしたが、多分、あのとき、同じ事態に陥れば、もちろん三塁に走っていたと思います……(最近は、まあまあ……ちょっとは分かります。ダブルプレーとか、隠し球とか……)
そんなこんなで、「ヒーロー」と「わたし」そして、生まれ変わった?「シン・山田」や、その他大勢は、順調に学年を重ね、最後の運動会で景気よく、あるいは渋々と、「沖」なんて、出たことのある人間の方が少ないくせに、ハチマキの尻尾? をなびかせながら、「ソーラン節」を踊り狂い、その裏では延々と塾に通い、わたしと桃山も塾に道場、ついでに学校へ通うという、当時はハードだと思っていた毎日をこなし、やがて中学を卒業し、それぞれに、「相応の高校」へと進んだのでした。
力というのは、いつの時代も、正しい使い方が必要で重要、というのが、前回と今回の、この「お話の元にあった主旨」のはずでしたが、あの時代、学校に携帯、スマホが持ち込み禁止で、本当に本当によかったです。
そんな、「無敵艦隊」ならぬ、「黒船」の桃山は、当然ながら、眼鏡を壊したときは、「イギリス」でも、「アメリカ」でもなく、「親御さん」に、こっぴどく叱られていましたが。
後日談としては、その次のお正月、お年玉を、すべて眼鏡代として、親御さんに没収されてしまい、グチグチグチグチ、愚痴を言って、お正月明けの桃山は、すっかり、しばらくの間、本当に「腐って」いたのです。
『沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり』
中学デビューで、驕り高ぶり、そして、いきなり自尊心が丸ごと、ペッタンコになってしまったらしき山田は、中学卒業以来、会ったことはないのですが、風のウワサによると、それからも努力して、某有名国立大学に進学し、一生懸命に勉学に励み、卒業後は、「世のためになるかも知れない」そんな仕事をしているそうです。将来、彼は、なにかの「ヒーロー」になるのかもしれません。
その昔、山田を改心させて?「ヒーロー」と呼ばれていた、「元祖ヒーロー」桃山は、こんなご様子ながら、実は、コツコツ真面目に暮らしており、最近の派手な話と言えば、コロコロ変わる髪の彩りくらい……少し体の弱い親御さんを気づかいながら、せっせと働く。そんな暮らしぶりです。(わたしが知らないだけで、偶然出会った石油王に、「わたしの108番目の妻になってくれ」と、夜景のきれいな港に停泊する貸し切った『さんふらわぁ』の上で、プロポーズされている可能性もありますが)
アホの子であったわたしは、「水分補給をたっぷり! 血液をさらさらに!」「膝の負担は大敵!」なんて、そんな有様ではありますが、コツコツと小説を書いては、『絶対に不幸なお姫さまたちはもちろん、マリー・アントワネットも、お幸せに! あと、大河で、また思い出し(ぶりかえし? 発作?)たけれど、光源氏、
などと、訳の分からないことを、無礼にも世界に広く知れ渡る、絢爛豪華な王朝絵巻物語に、心内で叫び、(葵の上奇譚は、そんな人格の人間が完結させているので、光源氏ファンの皆様には、誠に申し訳ございませんが、とても無理な内容です。パープルさまにも色々と飛び火が……あのように素晴らしい才能にあふれた方に……すみません……平安文化、王朝文化、大好きです!)
そして、仕事や小説を書くたびに、歯を食いしばり過ぎたのか、とうとう歯医者さんで、「マウスピース作る?」なんて言われてしまい、「アホの子」は、相変わらず「アホの子」のままなのでした。
古谷からは、「今回は無事にラップがもらえた☺」と、スタンプ付きで、連絡があったので、きっと嬉しげに、煙草屋さんをあとにして、ありとあらゆる、いわゆる桃山が羨む、一方通行な『好きピ』からのお誘いや告白を、すべてお断りして、相変わらずバイクのエンジンを吹かせ、外の景色を眺めながら煙草を嗜む、そんな気楽で楽しい、独り暮らしだと思います。
ひょっとして、来年あたり、誰かが宝くじの一等前後賞付きでも当てて、「3人でドバイ」にでも行くことになったら、また、ご報告いたします。
いつの時代も、『沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり……』なのです。
***
「アイムソーリー、ヒゲ、ソーリー」
「え?」
つい最近の休日、小学生らしき少年が、わたしですら、「昔、そんな言葉があったそうな……」そんな言葉を、大声で楽しそうに、道端で叫んでいました。
夏休みはもう永遠に戻っては来ませんが、謎に生み出された言葉は、付喪神ならぬ、付喪言霊として、子どもたちの間で、永遠に落ち着いているのかも知れません……。
そして、わたしは、あのとき、桃山の眼鏡を壊したのは、実は、山田ではなく、わたしだったと、今頃になって気付いていたのです……あのときのわたしは、「ぼんやり者」でもなく、「アホの子」でもなく、大切な友人に厄介を押しつけた、ただの「卑怯者」で、桃山は、わたしの代わりに、先生や親御さんに、叱られていたのです。行動すべきだったのは、わたしだったのに。
いまの時代では、おかしい方向の反省だとは理解し、もっと別の方向を模索するのが正しいのでしょうが、これは眩しいながらも遠い昔話で、わたしはそんな昔を何度も振り返りながら、雲行きの妖しい空を心配しながら、見上げているのです。
***
明日も更新あります。なぜか『紫式部一代記・パイロット版』付! よろしくお願いいたします。
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