第31話 ヒーローの巻・前編
思い出話が中心なので、現代とは違い、男女の差別的用語も出ますが、当時の時代的なものなので、ご容赦ください。
後編は明日です。よろしくお願いいたします。
※多分フィクションです()
***
【 ~前回の連れ去られ事件? から時は過ぎゆき、あっという間に新中学生~ 】
入学早々に、長く風邪で休み、久々に登校したわたしは、お昼の教室で、「なにかいい話ないの?」そんなこんなで、前回の「サラリーマンの人」の話をしていました。
「ちょっと、期待したのとは違うけど、いい話だったな――リーマン超いい人。目から水が……だれかハンカチ貸して」
「はいハンカチ、いつか持ち物検査で、引っかかるよ。あと、桃山……山田(男子)を、しばき倒したって? 大泣きしてたって聞いたよ?」
「あ――あいつ、ちょっと黒帯だからって、入学早々、見境なく迷惑(武道ゴッコという名前だけの暴力行為)かけまくっていたから、軽く注意してやっただけさ……もう、おとなしくなるんじゃない? 大泣きって、中学生で恥ずかし過ぎるよね?」
『けっ! いい話のあとに、嫌なこと思い出した!』
そんな表情の桃山(黒髪)には、すまし顔の「新しい眼鏡」がありました。
「メガネ大変だったね」
「そう、それが本当に大変で! その日に新しいの買いに、お母さんに連れていってもらって、この新型メガネに! あと、制服も汚れたから、近所のクリーニング屋さん(個人経営のお店)で、なんとかかんとか、拝み倒して超特急で、きれいにしてもらって、朝早くに、お礼を言いながら、開店前に引取りにいってさ……そっちの方が大変だった」
「そう……」
「山田――ワザと一撃くらってから、渾身の蹴りをかまして、そのあとボッコボコにしてやったからね。涙流して泣き止まず……いつまでも、い――つまでも、泣いてたよ。女々しいったら、ありゃしない。女が腐ったって、あそこまで泣きはしないよ。大人しそうな子ばっかり狙いやがって、ざまあ! わたしは、ヒーロー!」
「え?」
こざかしい桃山は、山田にワザと先に殴らせてから、怒濤の攻撃を開始し、正当防衛を主張して、わたしの知らぬ間に、山田の多数の被害者たちに、「ヒーロー」と呼ばれていたのでした。
知らない小学校出身の生徒は、つまり山田は桃山のことを、詳しく知らなくて当然でしたが、まだまだ、「新中学生」といえば、個体差はあれど、男女の力に、大人ほど差はなく、その上、桃山は、よく分からない理由を言って、まだワザと黒帯になっていない、絶賛グングン成長中、その上、「考えのあまりない丈夫で図太すぎる一本の硬い鋼の葦」だった上に、その時点では、山田に体格的にも勝っており、負ける要素がなかったのです。
いまは知りませんが、時代的にも山田のように、男子が女子を相手に、「全力で殴りかかる」ことは、まだまだ、許されない空気もあって、(いまは、どうなんでしょうね? そもそも、こんな状況は野放しには、ならないのかもしれませんが)それらも彼女に、正当性を持たせることになったのでした。
そのとき、ときを同じくして、桃山と同じ小学校、その他小学校出身、山田の小学校出身の「正統派武道系男子」たちが、どうしていたかといえば、「どうするアレ(山田)? でも、道場で、絶対、絶対に外では、暴力ふるっちゃいけないって、そう言われているし……」「ここはひとつ職員室へ!」「いつでもすぐに、とにかく先生に、ご相談!」なんて、正しい判断をしていたのに、彼女は、「いきなり現れた水陸両用の黒船」そんな感じで、さっさと正体がバレない間に? 山田を成敗していたのでした。
「先生に怒られた? どさくさで、扉に入ってるガラスも割れたんだって?」
クラスの扉の明かりとり用の窓? には、応急措置なのか、大きな画用紙が、両面に、べったりと貼ってありました。
「山田がぶつかって……扉が外に、ぐら――って、はずれて、廊下に倒れたときに、ガラス割れちゃって、それはそれは、怒られたの、怒られなかったのって。ガラスは危ないからって……でも、誰もケガしなかったから、大目にみてくれてたみたい。わたしまだ黒帯じゃないしね。黒帯持っているのに、女子相手にあのざま、恥ずかしくて、親や道場にも言えやしない……言ったら言ったで、怖くて思わずなんて、思いっきりウソ泣きしてやるよ……それより、お弁当でお腹いっぱいにならなくて……お弁当箱、カワイイ優先で買っちゃったから……」
桃山が自分で選んだお弁当箱は、とても可愛く、とてもとても小さかったのです。
「買うとき見てたから知ってる……だからちょっと小さくない? って言ったのに。あと、今度、山田が暴れたら、わたしも協力する。お弁当、よかったら、分けてあげるよ?」
「え、いいの? いや、山田は、どーでもいいけどさ、お弁当ほんとに!?」
「お母さん、張り切っちゃって……育ち盛りだからって、いくらなんでも……量が多くて……お箸つける前に、よかったら選んで」
「いいの!? じゃあ、コレとコレ、あと、これも半分もらっていい?」
「どーぞ、どーぞ! 毎日でもよかったら!」
わたしのお弁当箱は、早々に母が用意していて、それは、「お父さんが会社に持ってゆく」そんな感じの地味で、可愛くもなんともない、初めのうちは同級生が、入れ替わり立ち替わり、そんな様子で見物? にくるくらい、びっくりするほど、大きかったのです。(これが原因でふたりとも大きく育ったのかも?)
***
〈 それから、また数日後のとある道場 〉
「桃山さ、もう止めときなよ? 山田事件、聞いたよ。次は、師範に言うからね(小声)」
「えっ? なんで知ってるの?(小声)」
「まさか、まさか、師範に言いつけ……あんた、そんなところがさ――(小声)」
ダメ女子中学生ヒーローは、山田騒動のウワサを聞いたらしき、同じ道場の、そして、ちょっとだけ引っ越して、近くの別の中学に通う、「正統派武道系男子」から、「今回だけ黙っておくよ……なにせ山田だからね――」なんて、言いながらも、しっかり釘を刺されていたのでした。
「山田、有名人なんだね」
「知らなかった……」
それからしばらくして、教室の扉は元の姿を取り戻し、山田は、もう、こりごりだと思ったのが、変なスイッチが切れたのか、すっかり静かになり、理不尽な武道ゴッコも止め、真面目にコツコツと勉強をして、絶対に関わりたくなかったのか、最終的には、わたしたちより、遥かに偏差値の高い高校へと、進撃ならぬ進学をしていました。
「こんこんと言って聞かせれば、なんとかなったのでは?」
それは、当然の話なのですが、とにかく、それまでの「山田の評判」を聞けば聞くほど、入学式からの短期間を振り返っても、口で言っても、どうこうなるような人物ではなく、わたしも入学式が終わったあと、あれよあれよという間に、難癖をつけられており、「なにこの珍獣?」そう思っている間に、せっかくきれいに編み込んでいた髪を引っ張られ、くしゃくしゃにされ、受け取ったプリントなんかも、グシャグシャにされ、抗議をすると突き飛ばされて、大きめの新しい制服は、廊下に転がった拍子に、ホコリまみれになっていました。
そんな出来事も、彼女の苛立ちであったのでしょう。
初動が遅いわたし……そして、反応が遅いわたし……
思えば、新しい制服の心配ばかりしていたのが失敗で、あのとき、わたしが、山田に堂々と向かい合って、どんなに不利でも、わたしが、しばき倒すべきだってのです。
桃山の話した通り、山田は、あのときの先生の「お説教」なんて、なんにも効いちゃいなかったのでした。
***
明日は、桃山が、怒鳴られてます。なぜ? 笑
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