第24話 突撃通りがかりの理容室
最近は、うっすらとすら名前を覚えていれば、どんなに古くても、大概は動画サイトで検索できるので便利です。
しかしながら、なんとなく見ていた子ども時代を除き、ほぼテレビを見ないモネは、本当にテレビで放送されているのか、それともYouTubeチャンネル企画なのか、なにかの動画サイトのドラマの話なのか、話題についてゆけず、時々、訳が分からなくなるのですが、「ヨネスケさんが巨大な杓文字を持って、晩御飯時にやって来たらどうしよう?」そんなことを考え、やや怯えながら、夕飯を食べていた子どもの頃の記憶はあります。
内容は、ほとんど覚えていないのですが、広島ならば、あるいは売っているかもしれない……。そんな巨大な杓文字を持ったヨネスケさんに、ある日、突撃されたお寺のお坊さまが、夕飯に食パンを食べていたことだけは、いまでも覚えています。(たまたま、夕飯を食べるヒマがないほど、忙しかったのでしょう)
閑話休題
***
その頃(どの頃?)モネは、もう髪が長すぎて、もてあましてしまい、思い切って20センチくらい切ってしまおうと、そう決意したまでは良かったけれど、いきつけの素敵な美容室の予約が、いつ検索しても、何度確認しても、全く取れないという困難にぶちあたり、毎日々々、腰まである髪を、なんとかまとめ上げて、体裁を取り繕っておりました。
『ああ、面倒でしかたがない……』
一度気になってしまうと、どんどん気になってしまう。
そんな、大雑把なくせに、どこか神経質という、非常に面倒な性格の女であるモネは、少しイライラしながら、通りかかった大型ショッピングモールの近くを、明日のパンを買って行こうかな? などと考えつつ、ぷらぷら歩いておりますと……。
時々見かける「安さで勝負! 散髪するだけですけですどね!」そんな理容室を、道路を挟んだ向こう側に見つけていました。
「…………」
別に裾を切ってくれれば問題ない……。
少しの間観察していると、どうやら十分そこそこで、紳士のみなさんが、素早く出入りをしているのが、外からうかがえたのです。
『行ってみようか……紳士しかいらっしゃらないようだけれど、「男性専用」とは書いていないのが、運の尽きだったと思って、あきらめてもらおう……』
そう思い、店の自動ドアをくぐり、なれない券売機に四苦八苦していると、突然、紛れ込んだ謎のロングヘアに動じることもなく、数名の理容師さんのうちの誰かが、振り向きもせず、「右! そこの右下のボタンを押して下さい!」と、背後から大声で教えてくれたので、(たぶん鏡で観察されていた。)千円札を、券売機に無理やり押し込もうと、必死であがいていたモネは、無事に散髪券とやらを、手にしていました。
もうそのあとは、「ベルトコンベアにのった頭」そんな感じで、気がつけば椅子に座っており、「どのくらい切っちゃいます?」そう聞かれた耳には、「いつもより短く揃えてくれ!」「ナントカ刈りで! すっきり、サッパリ!」そんな感じの、景気良く髪を切る紳士たちの声が、耳に沢山入って来たので、わたしも思わず「肩、肩くらいで! こう、肩の上で、グルッと揃えて!」そんなことを、思わず口走ってしまい、秒で返事が返ってきました。
「前下がりのボブですね! 分かりました!」
(前下がりのボブってなんだろうか? と思い内心緊張して、暑さとは違う変な汗が出ていました。)
そして、そんな、プロフェッショナルな返事に疑問を持ちつつ、気がつけば、いつもは、あーでもない、こーでもないと、二時間弱かけて、美容室の椅子に腰掛けているにも関わらず、十分そこそこで、きれいさっぱり、生まれて初めて「前下がりのボブ」とやらになっておりました。
『これが前下がりのボブ! 見たことあるけど、名前があったんだ!』
さすが「切る」のが専門だけあって、めちゃめちゃ早かったです。しかも綺麗に揃っていました。
ビギナーズラックで、「当たりクジ」の腕前の人が担当だった可能性も? 真相は藪の中ですが。
***
〈 桃太郎バーガーに突撃する友人との後日談 〉
「いいじゃん! すっきりして! しかもやっすい! わたしも行こうかな!」
「カラーのメニューはないよ? あくまでも切るだけ、カットだけだからね」
「それは残念……」(南国の鳥のような髪色の持ち主。)
二千円でおつりがきて、その上大好評(お世辞?)に終わった突撃でした。
2024年 8月
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