第10話 師走を駆けるの巻
※去年の年末の、まだ比較的元気だった頃のお話です。
どこかで見た記憶がある……。
遅延した電車の乗り換えのため、狭い通路を大量の通勤客に交じり、途中にある階段を、ロングコートの裾を持ち上げ、必死で駆け上がりながら、人ごみに紛れたわたしは、頭の片隅で、デジャヴを感じていた。
『あ、そうだ、サバンナを走るヌーの群れ!(サバンナには行ったことないけど)』
弱い者は置き去りにされるのみ……それが野生と通勤電車の掟……。
『あの中に飛び込むのか……入るかな?』
もともと込み合っている時間帯だけあって、遅れながらも、なんとか遅延して到着していた電車も、出入口まで人が満載。
『ええい! ここは無理矢理!!』
出遅れたヌー(わたし)は、出入口の扉の上に手をかけて、電車内に無理矢理乗り込んで、かばんを抱えていると、乗客は、まだまだ押し寄せ……。
『わ――!!』
気がつくと、降りる予定の駅で開く扉の反対側まで、人でできた激流に流されていました……。
それからなんだか足元も覚束ないまま、揺られること数十分。
「すみませ――ん!! おりま――す!! すみませ――ん!!」
もう、駅のホームも見えない状態からの、無理やり人垣をかき分けて、なんとか電車から降りたときは、髪はホラー映画も真っ青にバッサバサ、息も絶え絶えでございました。
『そうだ! 今度の展覧会の待ち合わせ場所、連絡しとかなきゃ!』
思い出したのは奇跡? 合間を見てSNSでご連絡。
『今度の展覧会ですが、〇〇駅〇番出口でてすぐの“タリ〇ズ”で待っててください』
***
〈 それから展覧会当日 〉
「……と、まあ、この間は大変な目にあってさ」
「最近遅延多いよねぇ……ところでさ……」
「え、なに?」
「ここ、タリ〇ズじゃないの、気がついてた?」
「え……?」
「いや、駅の出口でてすぐのカフェは一軒だったから、ここだって気づいたけどさ」
「……ずっとタリ〇ズだと思っていた。お、おしゃれっぽいコ、コーヒー屋さんだったから……緑(ス〇バ)とは違うのは知ってた!!」
『ほんとだ。お店の名前に、タリ〇ズの『タ』の字もない……』
コーヒーには、まったく疎いわたしは、不覚にも、そのカフェをタリ〇ズだと思い込んでいたのでした。
「もういいよ……ちょうどコーヒー豆買いたかったし」
「……て、展覧会いこうか!」
「そうだね……」
「そ、そういえばさぁ! 今年は新券少ないんだってね! もうちょっとしたら新しいお札に代わるからって! 窓口、平日の3時までだし、姪っ子に渡すお年玉とかさ、もう新しめのお札にアイロンあてようかなぁなんて!」
「そうだね……」
露骨な話題ずらしをしつつ、会場入りしたわたしは、展覧会場の素敵さに救われ、無事に友人との友情は続くことに相成ったのでございました。
今年は皆さまにとって、幸多い一年でありますように……。
わたしはどうも、体が弱いので、今年は体力と健康を増やす一年を目指そうとおもっております。
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