第33話 見殺し
良かった、相手がマモンであれば..どうやっても勝てない。
これはマモンが「単純に強い」からだ、ウサギがどれだけ強くなっても熊には勝てない。
単純に強い...それこそ此奴を倒すには、相手がしたように「数の暴力」で戦うしかない。
しかも、1000や2000じゃない万単位じゃなくちゃ正面からは戦えないだろう。
その昔、正面から戦った猟師が相打ち覚悟で戦い、聖剣を打ったというハンマーと聖弾を使い重傷を負わせた。
そんな話もあるが、都市を丸々潰した後だった。
そんな手傷を負ったマモン相手に勇者達は苦戦した。
ジェイクと言う勇者の中の勇者が全盛期に戦い苦戦したんだ..今の僕じゃ逆立ちしても勝てない。
正面切って戦うなら...並みの勇者じゃ相手にならない相手、それがマモンだ。
しかし、魔族という者は怖い。
そこまでして殺したマモンが数百年たった今蘇ってきている。
恐らく、魔族側も僕と同じ様に転生して居るんじゃないか? そう思う。
それではゾルバはどうか?
魔将軍と言われていて、マモン程じゃないが単体でも強い。
恐らくマモンが10だとしたら7位の強さはある。
マモンのように単体で戦う事は無い。
しかも沢山の屈強な部下を連れ歩いている。
これは凄く骨が折れる。
「単体で強い」これがいまの僕にはどうする事も出来ない。
そして、その二人より遙かに強い奴が四天王に居る。
これは正体が解らない..だが魔王に容姿が酷似しているらしい。
どっちみち、マモンにもゾルバにも勝てない僕じゃ手も足も出ないだろう。
そして、スカルだ。
此奴は不死の軍団を率いている。
単体では強く無く、正に「数の暴力」を地で良く奴だ。
弱いと言ってもマモンが10だとしたら3位の力はある。
3じゃ大した事無い..そういうかも知れないが、四天王を除く他の魔族が強くても1だと考えればその強さが解るだろう。
だが、僕なら勝てる。
何故なら僕が前世で戦っていた時に此奴を倒した者が居たからだ。
しかし、人間側に何故こういった貴重な情報が失伝してしまっているのか..解らない。
王都に近づくにつれ、死体が増えていった。
村人、衛兵らしき者、冒険者、騎士、沢山の死体がある。
ファングが「戦場漁り」をする訳が良く解る。
高級な装備やお金が拾い放題だ。
多分、何処かの騎士なんだろうか..ミスリルの剣と軽装だがミスリルのハーフアーマーを着ている。
手を合わせてから、貰う事にした。
金貨も財布ごと頂いた。
僕には異空間収納(小)がある。
時間を見て修行してようやく(小)が身に着いた。
勇者の時には(無限)だったが、加護が無い今じゃ(無限)には絶対にならない。
だけど(小)でも馬車2個分位は入る。
商人なら涎ものの価値がある。
正直驚かせられる。
楽して金目の物が手に入るのだ。
ファングやケムさんが「暫くは働かないで遊んでいるからな」そう言っていた意味が解った。
折角だから、仲間の装備やお金も此処で集めて行こう、拾い放題だ。
その代り、これは死と隣り合わせの危ない仕事だ。
一式装備を着こんでみた。
これなら、上級冒険者か騎士に見える筈だ。
ようやく戦場に追いついた。
やっている、やっている。
加勢をしないのか?
答えから言うならしない。
此処で戦っているのはゾルバだ、恐らくしんがりを務めているのだろう、まるでおもちゃの様に騎士や兵隊が殺されていく。
勇者は本当に辛いと思う。
昔の僕ならあれに飛び込まなくてはならない..
逃げる選択が出来るのは、案外幸せなんだ。
更に進むとマモンが居たが..関わらない。
まだ、僕は死にたくない。
森を迂回しながら、ようやく先頭についた。
先頭集団の中央、そこにスカルは居た。
此処が一番戦闘が激しい。
そりゃ当たり前だ此処が最前線なのだから。
戦っている集団の中に飛び込んだ。
乱戦しているから僕に気を止めた者はいない。
スカルを殺そうと突き進む一団に加わった。
「お前は?」
「私はシルバー..助太刀する」
「ありがたい」
偽名を使い、仮初の仲間になった。
不死の軍団、確かに不死だが..脆い、ゾンビやスケルトンだこれ位ならどうにかなる。
「悪い、俺が先に行く」
この一団のリーダーが剣でスカルに斬りかかった。
ガキンと音がなり響くがそれまでだった。
三人で取り囲み斬ろうとするが斬れない。
「骨だから脆いと思ったか? わが体は鋼鉄並みに固い..勇者でも無い限り効かんよ..それに斬っても再生するから無駄だ」
あっと言う間に形勢は逆転して、4人はスカルの剣で切り裂かれた。
「スカル..僕が相手だ」
「ほう、人間の癖に? 面白い相手してやろう殺した後は実験体として..」
何故か、スカルの動きが止まった。
僕は瞬歩を使い近づき..後ろに回り込む。
そのまま、剣でスカルの首の関節部分から斬り捨てる。
「スラッシュ」
スカルの弱点の一つそれが首だ。
これは昔の英雄がスカルを倒した方法だが、知っていても普通は使えない。
その後、悲劇が起るからだ。
そのまま、首を袋に放り込み..僕は走り出した。
首を失い、体は暴走して暴れまわっている。
そして不死の軍団もそれ以上に暴れまわっていた。
今迄拮抗していた戦いは大きく魔族に傾くと思う..
ただでさえ狂暴な魔族が暴走して狂暴化しているのだから。
知らないな...僕にとって「知らない人間」が何人死のうと関係ないし心は痛まない。
それに「いつかは不死の軍団は瓦解する」から人類全体なら得な筈だ。
しかも、今の僕の目には人間は醜く映り、魔族が綺麗に映っている。
余計に心は痛まない。
無惨に殺されていく人々を無視して僕はその場を離脱した。
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