第30話 アイル

えーと私は奴隷な筈なんだけどな..


「古着やさんで買ってきたんだ、とりあえず好きなのに着替えてね」


「着替えて良いの?」



良く見ると皆の洋服が掛かっている、どれも上等な服だ。


貴族みたいな服では無いが平民が着るにしては上等だ。



「これは、全部 ルビナスの為に買ってきたんだから好きなの選んでね」


「解った..」


三着もある。


しかも、洋服掛けの中に私のスペースもちゃんとある。


更に言うなら、昨日シャワーを浴びさせて貰った。


正直、こんな醜い私に気を使う必要は無いのに、私や他の者が浴びている間は態々外出していた。


ユリア以外は全員奴隷だ..もしそう言う事がしたいなら、やっても誰も文句は無い。


最も、こんな醜い女抱きたいとは思わないだろうが...


それは別としても態々気なんか使わなくて良い筈だ。



これではまるで奴隷ではなく男と同棲しているみたいじゃないか?


昔の私なら解らなくはない..自分で言うのもなんだが、「青髪の美少女」とか「図書館の天使」なんて言われて告白も何回もされた。


まぁ..胸が小さくて背が小さい以外は..うん可愛いかった。


だが、今は..化け物なんだ、なのに..待遇が良すぎる。


しかも、食事に行くと聞いてついて行ったら..セイルが椅子を引いてくれたんだ。


奴隷は普通は立っているか床に座るのが当たり前の筈だ。


実際に、他の奴隷はそうしていた。


身なりの良い女、恐らくは性処理目的の奴隷だって同じだ。


こんな扱い、奴隷なら高額なエルフの奴隷位な筈だ。



だが、此処で更に驚かされる。


「スワニーはミノが食べたい」


「今日は新しく、ルビナスが入った記念だ良いよ..お姉さんミノのステーキ5人前、あとエールも5個お願い」


いや、可笑し過ぎる、ミノタウルスのステーキは高級食だ、奴隷が食べれる訳が無い。


多分、エルフの奴隷でも食べれない。


しかも、あの様子だと常に食べているみたいだ。


「あのご主人様」


「セイルで良いよ?」


「それじゃ、セイル様、私は奴隷なんですよね?」


「一応、そうなるかな?」


「なのに、この扱いはどうしてなのでしょうか?」


正直、信じられない..まるでこれは、そうまるで付き合っているような扱いだ..


服を買ってくれて、御馳走を食べさせて貰って優しくされて..他には考えられない。



「セイル殿はいつもこうだぞ」


「スワニーが大好きだからね」


「多分、当人はお金で家族を買った..そう思っているのよ」



他の奴隷が羨ましそうに見ている。


そりゃそうだわ..奴隷なのに良い服を着てテーブルについて最高のメニューを食べる。


しかも相手は美少年..羨ましいに決まっている。


だれが見ても奴隷じゃない..これって恋人扱いじゃないか?


少なくとも、今迄の人生でこんな大切にされた記憶はない。



この後、お小遣いまで貰った。


銀貨5枚..皆同じ金額。



賢者の時は色々な人が傅ていたが..それは戦うという対価があったからだ。


そりゃあ、命がけで戦うんだから当たり前の事。



恋愛にだって打算はある。


それが肉体が欲しかったり、優秀な私に養って貰いたいなど下心が一杯だ。



だけど、セイル様は..無償じゃないかな。



私は奴隷なのだから、抱きたければ何時でも抱ける。


こんな醜い女が抱きたいかどうかは別だけどね。


戦いに加勢して欲しいなら何時でも命令できるよね。


それ所か、私を働かせて遊んでいる事も出来る。


つまり、私は既に、セイル様の物なのだ。



それなのに..こんなに待遇が良い。


この醜い顔じゃ無ければ、解らない訳じゃない。


だけど...私より醜い女等、何処にも居ないんじゃないかな..そこ迄醜い私。


そんな女に優しくしたって何も....得なんかしない、絶対に得なんかしない。


それなのに..凄く優しい。



考えれば考えるほど解らない。


だけど、セイル様や..私と同じ様に醜い仲間が..私の居場所を作ってくれた。


何が返せるかは解らない..だけど返せる物があるなら何でも差し出したいと思った。




「さてと、これからどうしようか?」


私は賢者だ..まずは戦う事で返す事にしよう。


「セイル様さえ良かったらギルドで登録したいと思います」


「それじゃ今から行くか?」


「はい」



冒険者ギルドに着いた。


名前が同じだと賢者だとバレるかも知れない。


功名心がセイル様にあるならそれも良いが、静かに暮らしたいなら名前を変えた方が良いと思う。



「こちらに名前を書いて頂けますか?」


「はい」


私は名前の欄に「アイル」と書いた。


「アイル様ですね」


「はい」


アイルの名前は..「愛してますセイル様」から浮かんだ名前だ。


後ろのユリアさんから凄く冷たい冷気を感じますが..気にしません..私、賢者ですから。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る