第16話 怪物王子と元聖女
「そうか、セイルに、そんな事があったんだ...」
今迄は一部の者しか知らなかった話だが、事件の後大きな話題になっていた。
「彼奴はジョブこそ魔物使いじゃないが、魔物使いみたいな物ですね」
「家族が死んで、幼馴染の聖女を勇者にとられて、行きついた先があれか!」
「魔物使いが「従魔は裏切らないから信用する」、彼奴にとって、「混ざり物で奴隷だから裏切らない、だから好き」似ていますね」
「だから、家族..俺らと同じじゃないか? そう思わないかファング!」
「そう思いますよ、エドガーさん」
「まるで、昔の「ミーシャとマモルの物語」みたいじゃないか?」
「盗賊ギルドの処刑人が勇者に恋人の混ざり物が殺されて復讐する話しですよね..俺も好きですよ」
「混ざり物か..まぁ俺も気には留めて置くとしよう..苗床があるゴブリンやオークには心当たりがあるからな」
「そうですね..例の女達も多分苗床にされて居るでしょうから」
今日もいつもの様にギルドに来ていた。
今日はユリアの登録と討伐証明、収集した薬草の買取りをお願いしに来た。
流石に、まだ休んでいた方が良いと言ったのだが、ユリアが聴かなかった。
まぁ、登録だけでもすぐにしたいのだろう。
ユリアが居るから今日はそれが終わったらお休みする予定だ。
最初は驚いていた物の、今ではスワニーを連れて歩いていても誰も驚かない。
この街は本当に住みやすい。
袋女状態のユリアも大丈夫だろう。
「あの、その袋を取って貰わないと登録が出来ません」
流石にボロ布じゃ可哀想だから、服を買って着替えて貰った。
この姿じゃ、幾らギルドの受付嬢と言えども同じ人物とは思わないだろう。
流石に人前じゃあの顔を見せるのは嫌だろう..僕にとって美少女に見えるという事は..物凄い醜女と言う事だ。
「訳ありなので、奥で登録して頂けないでしょうか?」
「解りました..何か事情がありそうなので特別です」
「ひぃ..聖女様」
「良く、解ったわね..この顔なのに」
「そのご事情は知っておりますから..」
「あと、聖女じゃ無くて元聖女よ..昨日正式に教会から言われたからね」
「そうですか、それなら..ただそれじゃ石級からスタートになりますが宜しいでしょう?」
「構わないわ」
「解りました、早速登録します」
ユリアが奥に行っているので、カウンターでスワニーと手持ちぶたさで居ると顔見知りが声を掛けてきた。
「おっ、随分と頑張っているな、怪物王子」
「ケムさん、おはようございます!」
「ケムで良いって言うのに..」
「流石に父親みたいな年齢のの人を呼びつけ出来ませんよ..」
「まぁ悪い気はしないが..」
「今日は誰を連れてきているんですか?」
ケムさんは銅級の魔物使いだ、当人曰く強い魔物を従えられないから三流なのだという。
だが、それでも俺からしたら羨ましい。
強い魔物を従えられない..だからゴブリンや小振りなオークが混ざっている。
10体位の従魔を持っているが...常時従えられるのは2体だ。
10体の中にゴブリンのメスが1体にオークのメスが1体混じっている。
どちらも、若干だけどレアだ。
僕から見たら、ゴブリンのメスは可愛らしい幼女、オークのメスがセクシーなお姉さんに見える。
今日は、ゴブリンの方が居た。
ケムさんに許可を貰って、高い高いをした。
ちなみにメスだけにしていると不味いのでオスにも同じ事をしている。
だけど、幾ら見た目が可愛くても「キシャ―」しか言わないからやはり、混じり物の方が良いけど目の保養にはなるのだ。
「しかし、セイルは本当に魔物が好きなんだな..ゴブリンを子供のようにあやしたり、オークを触りたがったり..まぁ事情はファングから聞いたが..」
流石に本当の事は言えないな..
「ええっ、結構1人1人表情が違っていて味がありますね...特にこのゴブリンや、この間の小振りなオークは愛嬌がありますよ」
「お前が魔物使いなら譲ってやりたいが..まぁ一般人じゃ無理だな、そいつが大人しいのも俺のスキルのせいだしな」
「解っていますよ..魔物と意思疎通が出来るのは、魔物使いだけですからね」
「ああっ..本当にセイルは..まぁ良いや、それじゃ俺はダンジョンに行くからな、またな」
ちなみに、怪物王子と言うのは僕の「字(あざな)」だ。
魔物を可愛がっている姿を見た人達から付けられた、字だ。
スワニーは僕が喋っている時は余り喋らない。
これももしかしたら、奴隷の教育なのかも知れない。
空いた時間に、昨日はユリアの事件があったので出来なかった、ショタ(ゴブリン)狩りの討伐証明の耳の提出、収集した薬草をギルドの買取りをお願いした。
「おめでとうございます、鉄級になりました」
「ありがとうございます」
石級から鉄級に上がるのは簡単だ。
石級が見習いだとすれば、鉄級は新人という感じだ。
ここから、銅級に上がるのが難しいのだ。
冒険者を続けていても、生涯銅級という者が大半だ。
そういう意味では銅級になれば、一人前、そう考えても良いのかも知れない。
「スワニー、ユリアが戻って来たら飯にするか?食べたい物はある?」
「お肉が食べたいわ」
「お肉か..野良猫庵で良いか?」
「うん..だけど、ミノが食べたいんだけど..大丈夫かしら?」
「昨日、頑張ったから、入荷していたら良いよ」
「ありがとう」
スワニーが言う、ミノとは「ミノタウルスの肉」だ、強い魔物なので肉の価格も高い。
どの位かというと、オークの肉の4倍位する。
ここの所調子よくいっているから、ご褒美には良いだろう。
そうこうしているうちにユリアの登録が終わったようだ。
「お待たせ、セイルにスワニー」
「ユリア、スワニーと話していたんだが、これから飯を食いに行こうと思う」
「そうね、いこうか」
ちなみに、教会の治療は凄い..聖女だったせいか、薬品が使い放題のヒーラーが使いたい放題だったからか治療は終わっている..ただ、醜い事を除き、痛みも無いそうだ。
「残念ながら、今日はミノは入ってないのよ、ごめんね!」
スワニーの顔がこれでもかって言う程落胆している。
何時もある物でないから仕方ない..
「ミノはないのね..仕方ないわ、オークを頂戴..」
「それじゃ、オークのステーキ3つとパンをお願いします」
「畏まりました」
「セイル、私..本当にごめんね..」
「何も言わないで良いよ、辛いのは解るからね」
正直、僕には言う資格はない昔のユリアだったら僕は仲間になんてしようと思わなかった。
今の姿だからこそ、仲間にした。
そう考えたら、他の男と何も変わらない。
「綺麗な女に優しく、醜い女に冷たい」ただそれが逆転しているだけだ。
「スワニーは思うわ、私は生まれた時から価値がなかったわ、そして怪物みたいに醜いわ」
「そうだ..ね」
「ユリアは元が綺麗だったかも知れないけど..今はスワニー位に醜いわ」
「何が言いたいのかな」
「スワニーは馬鹿だから上手く言えないけど、セイルが傍にいてくれる..それだけで幸せだわ」
「だから! 何が言いたいの!」
「ユリアはセイルが居てくれるだけじゃ幸せじゃないの?」
そうか、スワニーは元から今の私と同じなんだ。
「そうね、幸せなのかも知れないわ」
「だったら、スワニーみたいに明るい方が良いわ」
「そうね」
不思議だ、スワニーが凄く面倒見が良いように見える。
「オークのステーキお待ちどうさまでした!」
「さぁ、食べようか?」
「うん」
「凄く美味そう」
まさか、ユリアとこんな風に過ごす日が来るなんて夢にも思っていなかった。
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