第17話 聖女の死と勇者とお祭り
聖女が死んだ。
その事実は世界に思った以上に大きくのしかかった。
そして、その影響は勇者であるルディウスにも..
実際は生きている。
だが、醜くなった聖女では求心力は無い。
だから、廃棄せざる負えなかった。
だが、今考えれば..凄腕のヒーラーとして残すべきだった。
今となってはそれは出来ない、馬鹿なアルマンの司祭が追い出してしまった。
もう戻って来る事は無いだろう。
不格好だが教会からは高位のヒーラーと王家辺りから宮廷魔術師の中で回復魔法に優れた者を出して補うしか無いだろう。
聖女は最初は役に立たないが、育てば結界魔法に最高位の回復魔法を身に着ける。
その代わりとなれば、30人位は必要になるだろう。
「勇者ルディウス...今からでも彼女を戻す気にはなれませんか」
無理だ..性格的に好きになれない。
それにあの醜さが加わるなら..絶対に一緒に居たくない。
今でも、あの顔にうなされる位だ。
「お恐れながら、あの姿は魔物以上だ..無理だ!」
「王自らが頼んでもですか?」
「お許し下さい」
「それだと、貴方には聖女を失った罰を与えなくてはなりません」
あの女とこれで縁が切れるなら..構わない。
「謹んでお受けします」
「なら、魔王討伐後に与える爵位だが、侯爵から子爵に落とす、与えるべき領地も一部減らす、そうなるが構わないか?」
「構いません」
俺は彼女の顔を見た。
彼奴と一緒に居る事を考えたら..罰の方がましだ。
「仕方ありません」
どうせならと、宮廷魔術師率いるヒーラー部隊30人
剣聖率いる騎士小隊30人
賢者率いる魔術攻撃小隊30人
世話を担当する侍従部隊10人
合計100人で戦う事になった。
そしてそれを率いるのが勇者ルディウス..
勇者達が尊ばれるのはたった4人で魔王に挑むからだ。
それがこの人数で挑むとなると勇者は最早、ただの象徴に過ぎなくなる。
剣聖や賢者は、ほっとした反面活躍の場を奪われたとも考えていた。
「なぁ剣聖メルダ..あの勇者をどう思う?」
「あれは本当に勇者なのか? みすみす聖女を失って逃げ帰り、この人数で討伐に向う..私は納得できないわ」
「私もそう思うよ? 人海戦術で戦うならそれこそ、ゾディバ将軍辺りが率いた方が絶対に良い、あの人は歴戦の猛者だ」
小さな不満が溜まり..やがてそれは勇者へと重くのしかかってくる。
その事をルディウスはまだ知らない。
その頃、アルマンはお祭り騒ぎだった。
冒険者ギルドに口止めのお金が王城から支払われていた。
その口止めのお金をギルドは飲食店に使った。
ユリアの件はかなりの冒険者が目にしていた。
いちいち口止めするのも難しいので大きく「ここで見た事は口を噤め、その代わり3日間殆どの飲食はギルドが持つ」
そういうふれを出した。
事情を知る者、知らない者が全て恩恵に預かれる。
これなら、後から事情を知った者も口は噤むだろう。
最も洩れた所でギルドは手を打ったと言えるし、「死んだ聖女が生きていた」なんて信じる者は居ない。
更に保険として「ここで自殺した」そういう情報も流した。
その隠ぺいの為..そう思う者も多いだろう。
「これは複雑だよね」
「スワニーはミノが食べ放題だから満足だわ」
「まぁ気にしないで良いんじゃない、ここに居るのは聖女で無くただの幼馴染のユリアなんだから」
「そうだよね..気にしないで良いよね..お姉さんこっちにもミノステーキ」
「あいよ、今日から3日間、ギルド持ちだからたんとお食べ」
「はい」
スワニーは幾らでもミノが食べれると聞いてご機嫌だ。
ユリアにしても袋から口だけ出して器用に食べている。
僕も今日は肉を食いながら、エールを飲んでいた。
「よう、怪物王子、凄く嬉しそうだな!」
「ファング..楽しいに決まっているさ」
「そうか、そのなんだ、それで良かったのか?」
「はい、家族が一人増えましたから..」
「そうか、そのな、悪かったなあんな事して、恨まれても仕方ないな」
「恨んでいないから安心して..言った事に嘘はなかった、実際に私、セイルの横に居られるんだから」
「だが、女としてそのな..」
「結局は自分で選んだのよ! 最初は死のうと思ったけど...セイルの傍に居られるし..もう良いのよ」
ファングはその場で土下座をした。
「俺はあんたをいや、ユリアを過小評価していた、好きだなんて言っても、どうせ嘘だそう思っていたんだ、だがそこまでセイルの事を好きだったんだな..謝るよ」
「周りが見ているからもう良いよ..結局、今私はセイルの隣にいる、死ななければ手に入らなかった筈の物を手にしている..それで良いわ」
「そうか? ありがとうな! 何かあったらセイルと一緒に頼ってくれて構わないぜ」
「そう、それなら早速良い?」
「ああ二言は無い」
「回復魔法を教えてくれそうな人紹介して」
「ユリアって(聖女)だろう」
「これから教わる所だから、まだ何も出来ないのよ..」
「それなら簡単だ、ギルドで頼めば教えて貰えるぞ」
「そう、ありがとう」
「それじゃ、俺はあっちでエドガーさんと飲んでいるわ」
「あっ、それじゃ俺たちも挨拶に行った方が良いんじゃないか」
「良いって、明日で、エドガーさんから俺も家族団らんを壊すなって言われたからな..明日もどうせどんちゃん騒ぎしてるんだ、今日はせっかく取り戻した幼馴染と一緒に楽しむと良い」
「むぅ..スワニーが外れているわ」
「うわっ、ごめん、セイルとスワニーとユリアで楽しく過ごしてくれ..じゃぁな」
「良い友達ね」
「うん、スワニーにも優しいし、ここの皆んなは僕にも優しい..本当に過ごしやすい街だよ」
「だけど、何故か魔物使いが多いわね」
「うん、だからかな..多分ユリアも過ごしやすいと思うよ」
「そうだわね..化け物だもん」
「そんな事無いよ」
「セイルはスワニーにも、もっと構うべきだわ」
「ごめん、スワニーも大好きだよ」
「当然だわ、スワニーもセイルが大好きだわ」
「セイル、私も、好きなのかな」
「今はもう遠慮しないで言える..好きだよ」
「そう、好きなんだ良かった」
「むぅ..セイルはスワニーは大好きなのだわ」
「何が言いたいのかな? 鳥女」
「セイルはスワニーは大好きなのだわ..だけど袋女はただの好きなのだわ」
「セイル..私の事も大好きだよね!」
「大好きなのはスワニーだけなのだわ」
「セイル?」
「セイル!」
「ごめん、僕やっぱりエドガーさんに挨拶に行ってくる」
「「セイルー」」
その後、僕はエドガーさんの所に逃げ出そうとしたが、その前にケムさんとファングに捕まり戻された。
こんな幸せな日々を過ごせるなんて少し前の僕には想像がつかなかったと思う。
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