第7話 廃棄奴隷

目的の場所とは奴隷商だ。


村を出たのは初めてだが、僕には前世の知識がある。


その為、奴隷について知っていた。


だから、奴隷商に向った。


当然、奴隷は高い..だから、スラムの近くの店構えの余り良くない店を狙う。


それでも...


「いらっしゃいませお客様....」


ほらね、嫌な顔になった。


そりゃそうだ、普通に考えて貴族でもない限り15歳位で奴隷なんて買わない。


しかも村民にしか見えない僕等は、お客では無い..そう思うだろう。



「見せて貰えないかな!」


「買うお金はあるのでしょうか? ご予算は?」


奴隷商と言えば、危ない商売を考えるかも知れないが実際は違う。


金持ち相手の商売をするのだ案外、しっかりしている。


「初めての奴隷で、僕は余りお金がありません..廃棄奴隷から見せてくれませんか?」


「ほぅ..廃棄奴隷からね..解った、それじゃついて来てくれ」



廃棄奴隷とは売り物にならない奴隷だ。


犯罪者で売れなかったり、女なのに醜い等買い手がつかない者をいう。



普通の奴隷なら、エルフの美しい女性なら金貨1000枚は下らないし、その中でも美しい者は3000枚付く事もある。


過去には2億枚なんて金額が付いた者もいる。



男の戦闘奴隷等で強ければ金貨500枚位。通常の戦士でも100枚前後が相場だ。


通常の村娘でも若ければ金貨10枚を切る事は無い...35歳位でも普通に女であれば金貨5枚はする。


その位奴隷は高価だ。



では廃棄奴隷とは幾らなのか?


大体が金貨1枚以下になる。



奴隷商はワザと高価な奴隷の近くを通る。


これは態と見せるのだ、例えば女の性処理可能な奴隷を買った人間が居たとしよう..最初に高価なエルフを見せていれば、満足できなくなり買い換える者も多い。



僕には..残念ながら 化け物にしか見えない。


ただ、明かにユリア以上の化け物が10人近くいる。


これは恐らく凄い美人なのだろう..価格は金貨5000枚に8000枚...スラムの近くとは考えられない品揃えと言える。


「凄いな..」


こういう所では褒めるのが礼儀なのだ。


「スラムの近くだから質の悪い奴隷が多い、そう思われましたか?」


「すみません、たしかにそう思いました」


「他の都市はそうかも知れませんが、ここアルマンでは当てはまりません..何しろ此処には奴隷商は3件しかありませんから」


「そうなのですか?」


たしかに僕はアルマンは初めてだ


「成程、もしかして、誰かに奴隷について習われたのですか?」


「はい、ですが教えて下さった方が、かなり高齢なので、知識が古いかも知れないとも言っておりました」



僕の知識は転生前の知識だから恐らくかなり古い、食い違いもあるだろう。


「ですが、間違っていません、お客様の姿から見て冒険者になるのでしょうか?」


「はい」



「なら、最初は、廃棄奴隷で病人じゃない者を購入して、使い方を覚え慣れたら次を買う..理に叶っております。 昔居た、奴隷王という伝説の冒険者もスタートは廃棄奴隷です」



リチャードの事か懐かしいな..僕に奴隷について教えてくれたのは彼だ。



「奴隷王リチャードの事ですか?」


「知っているのですか!」


「名前だけですが」


「一般の方からその名前が出るとは、かなり勉強していると見ました..つきましたこの奥が、廃棄奴隷です。 臭いは覚悟して下さい」


辺りを見回すと女が1人に男が2人居た。



「話しかけて宜しいでしょうか?」


「ご自由にどうぞ..おい、喋って良いぞ..」



3人と話したが、駄目だ。


女は性病持ちだった。


男の2人は片方が腕が無く、片方は足が無い..しかも冒険者経験もない人間だった。


容姿は僕の目から見たら真面だが..



「これはハズレだな..」


「そうですな、まぁ使い物にならないのが廃棄奴隷ですから」



此処で、奴隷商にもう一度聞いて見る事にした。



「混ざり物でも良いんだが体の丈夫な者は居ないのか?」



「混ざり物..かなり勉強されていますね..昔はともかく、最近は生まれた時点で処分する事が多いのでまず出ません、ですが今は1人だけいます」



「居るのなら見せて欲しい」


「最初に言っておきますが..人間です..ですが見た目はモンスターにしか見えません..良いですね」



混ざり物とは半分化け物の血が入った人間だ。



例えば、ゴブリンやオークの苗床にされていた女が子供を産む..普通は人間で無くゴブリンやオークの子供になるが..稀に人間が混ざったような子供が生まれる。


これが混ざり物..例外なく醜い者が多い、中には殆どモンスターにしか見えない者もいる。


本物のモンスターの力程では無いが能力に優れた者もいる、だが、誰もが醜いモンスターと一緒に居たいとは思わない。


その為、購入する者も少なく価値も殆どない。


これが、僕の知っている混ざり物の知識だ。


ちなみに「物」というのは人で無いから「者」じゃないというスラブでもある。


「あの、その前に教えて貰っても良いですか?」


「はい、なんなりと」


「混ざり物は今では処分されてしまうのですか?」


「ああっやっぱり、かなり知識が古いのですね..昔と違い今では、救出された女性が孕んでいた場合、お腹にいるうちに処分します。 また、産んでしまっても鑑定前に処分..そういう暗黙の了解が出来たのです、その為今ではまずいません」


「やはりかなり知識に違いがありますね」


「はい、私どもにしても売っても二束三文、更に置いているだけで顔をしかめるお客様も多く居ます。しかもどう考えても混ざり物は真面な人生は歩めません、鑑定前に処分する、そういう暗黙の決まりがあるのです..鑑定して人間という事になれば、混ざり物とはいえ人間です、そう簡単に殺せませんから」



「それでは、もう混ざり物は手に入らないのでは!」


「普通はそれで正しいと思います...今回の混ざり物は、人間の女で無く..モンスターのメスのお腹に居たのです」


「それはどういう事ですか?」


「ハーピーと言うモンスターは知っていますか?」


「はい」


「そのモンスターを討伐して素材を丸ごと納めた冒険者が居たのですが、そのハーピーのお腹に居たのが今回の奴隷です..しかも価値を調べるためにギルドの鑑定士が、ハーピーと共に鑑定してしまった為に処分出来ません..その為うちで引き取る事になりました」



そうか、ハーピーは男を攫って犯して食べる..そういう事もあるのか..だがハーピーの混じり物は初めて聞いたな。


前の世界でも、混じり物の多くはゴブリンかオークだ。



「知能はありますよね」


「普通に話もできます」



「ならば、見せて下さい」


「解りました..本当に覚悟をして下さいね..殆どハーピーにしか見えません」



今迄の場所も臭かったが、更に異臭がした。



その奥に彼女が居た..


背中には羽があり、天使や女神を彷彿するような長い金髪..彼女が女神を名乗ったなら僕は信じるだろう。


此処まで綺麗な女性を見た事が無い。


しかも、転生して初めて見た美少女..だから余計感動する。



「貴方もどうせ、見世物代わりに見に来たのね..どう醜い私が見れて良かったわね..見たんだから帰れば?」



まだ買う前だ...彼女を気に入った事を奴隷商に知られたら値が釣り上げられるかも知れない。


「流石に、混じり物は安いんだろう?」


「本当に欲しいというなら無料でございます」



マジか? 商人なら口に出した事はたがえない筈だが...幾らなんでも無料は珍しい。


前の世界の記憶では、ゴブリンとのハーフが銀貨2枚だったのに



「本当に無料なんですか?」


「はい、上等な奴隷を買い取る際ギルドに押し付けられて、正直、処分に困っておりました、ただ、奴隷紋を刻むのに銀貨1枚、彼女はどう見てもモンスターにしか見えないので奴隷の身分証明の首輪が必要です。それが銀貨3枚..銀貨4枚は掛かりますよ」



「だったら、買った!」


「本当に? 返品は効きませんよ..それでもどうして返品したいという時は金貨5枚貰いますが、その条件ですが宜しいですか?」


「構わない」


「その条件も、しっかり証文に書きますよ..本当に良いのですね」


「大丈夫です」




「ちょっと待って...本当に私を買ってくれるの?..嘘や冗談で無くて..」


「そのつもりだよ」



「そう、物好きね...」




「さぁ準備が出来ました、まずはこの証文を確認してください..問題無いならサインお願い致します」


僕は直ぐにサインした。


「後はこちらに血を1滴たらして下さい..奴隷契約をして奴隷紋を刻みます、これを刻む事で奴隷は主人に逆らえなくなります..ご存知ですよね」


「大丈夫です」



「後はこちらの首輪をして終わりです、この首輪は彼女が人間である事を現しています、見た目がモンスターなのでこれが無いと殺される可能性もあります。この首輪は教会が作った物で魔法が掛かり外れなくなっています、そしてここに所有者として貴方の名前も記載されています」



「この首輪は見た事がありませんので説明をお願い致します」


「モンスターと混ざり物を間違えないように作られた物です..昔は無かったし..最近は生まれない様に処分されるのでまず見かけないでしょうね..」



「有難うございます..それで、このままだと目の毒なので、お金を払うから安い服を譲って下さい」


「解りました、銅貨5枚で譲りましょう」


「お願いします」



こうして、僕は奴隷を購入した。




奴隷商を出た後..広場で串焼きを4本買った。


本当はお店に連れて行ってあげたいが..僕にとって美少女でも彼女は混ざり物だ。


多分、入れないだろう。


だから串焼きを2本渡した。


彼女は不思議そうな顔をした。


「それは..くれるの?」


「そう、君の分だ」


「そう、ありがとう..」



奴隷商で購入した服は奴隷用のみすぼらしい服だ。


服も買わないといけない。


スラムの古着屋に来た。



「ひぃ..ハーピー..何だ、混ざり物か」


「すいません、おばさん、彼女は僕の奴隷なんです..驚かせてすみません、彼女の服が欲しいのですが」


「そうかい、お客なら大歓迎だ、これなんかどうだい?」


「それじゃ、同じサイズで3枚下さい」


「あいよ、3枚で銀貨1枚だよ」


「はい.銀貨1枚です、それでこれから先彼女に買い物を頼む事もあるので、少し話を広めて置いて貰えますか?」


「解った、知り合いの店には言っておくよ」


「ありがとうございます」



普通の場所じゃこうはいかない、スラムだからこれで良い。


廃棄奴隷か混ざり物を買う、そう考えた時から此処を拠点にするそう決めていた。


生活に必要な物を一式買うと僕たちは部屋に戻った。


最初に、おかみさんに話を通した。


「契約の時に聞いてたからね..実際に見ると凄いわね、そうかい、それで1階の部屋を選んだんだね..うちは家賃さえ払ってくれれば問題無いからね..大丈夫だから安心おし」


断られたら、そう考えて1か月分しか払わなかったが、万が一払えなくなると困るから1年分前払いした。


まだ、お金は残っているが..そろそろ引き締めよう。



「さぁ、これで大丈夫だね、部屋に行こうか?」


「...本当に良いの?」


「勿論」


多分、今日は僕は眠れない気がする。



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