第5話 別れ

次の日、勇者とユリアは王都に旅立っていった。


ユリアはキョロキョロ周りを見渡している。


これで最後だ..異性として好きには慣れなかったが家族ではあったんだ。


良い思い出として残すのも良いだろう。



「ユリア、最後だから見送りに来たよ」


わざと昨日は寝なかった..これなら目を腫らしているように見える。


「セイル..あのね..」



「何も言わないで良いよ...幸せにな」


「ありがとう..」




「勇者ルディウス様、ユリアを宜しくな! 僕にとっては大切な家族だったんだ 頼んだよ」


「ああっ任せろ」


「それじゃぁな」


僕は背を向け村に戻ろうとした。


余り、長く話すとボロが出るかも知れない。



「待て、セイル..これをやる」


「えっ、スケルトンナイフ?」


勇者時代なら幾らでも手に入った。



だが、今の僕じゃ手に入らない..中級冒険者の装備だ。



「冒険者になるんだろう? やるよ」



思ったより良い奴だ。



「ありがとう、ルディウス様なら絶対に魔王を倒せるよ..応援しているよ」


「ああ」



僕は背を向け走り出した。





「セイル..」


「良い奴だな、ユリアが好きだったのも頷ける」


「今でも好きよ、それは変わらないわ」


「おい、ユリア!」


「だけど、ルディウスの方がもっと好き..安心した?」


「ああ」



こうして二人は旅立っていった。






さてどうするか?


僕ももう少ししたら旅立とう。


冒険者になるなら、ギルドのある街に行かないとならない。


この村から出て行き、街で暮らした方が良いだろう.


だが、その為のお金を僕は持っていない。


暫くは、猟師のように狩をしてお金が溜まったら出て行く、それが良いだろう。



そのまま今日も狩に出た。


この辺りは、魔獣はいるが魔物は余り居ない。


魔獣とは魔物はほぼ、同じだが魔物の中で獣形態の姿をした物を魔獣と呼んだ。




森の中で、いたいけな少女を大人の男が殺そうとしていた。


少女は貧相なボロボロの服を着ている。



助けに入らなければ..


だが、可笑しい、あの冒険者はロブさんだ、良く村に来るし、酷い事をするような人間じゃない。


良く様子を見ていた。


「キシャ―グググ、ギャォォォォ」



可愛い少女が恐ろしい声で唸っている。



僕は、持っている僅かなスキルのうち「鑑定(小)」を使った。


勇者の時には「鑑定(極)」を持っていた。


これはどんな職業でも持っていると便利だから、訓練して身に着けた。



(小)なので解かる事は少ない。


「ゴブリン」



それしか解らないが、充分だ。


僕が、綺麗だと思うレベルの人間はゴブリン並みに醜い女の子じゃ無いと駄目、そういう事だ。


ゴブリン相手なんだ..立ち去るしかない。






村に帰ってきた。


ユリアの両親が僕の所に来た。



「あの、セイル本当にごめんなさい...」


「娘が..本当にすまないな」



正直言えば、謝られる筋合いは無い。


今迄、育ててくれた、それだけで感謝だ。


しかも僕は、ユリアと別れられて幸せなんだ。



「気にする必要は無いですよ、今迄育てて貰えて感謝しかない」



「だが、ユリアが」


どう繕うか? 嫌いだったとか言っても信じないだろうし、余計罪悪感が湧くかも知れない。



「これで良かったのかも知れません」



「貴方だってユリアが好きだったんでしょう」



違う言えないよな..



「好きでしたが、ユリアの好きとは違う..妹としての好きが一番近いと思います」




「そうか..成程..だからか!」


「貴方どういう事なの!」




「いやぁ..ユリアが良く、キスしようとしたら逃げたとか言っていたし、妙によそよそしいから、これで解かった、兄妹そう思っていたんなら、思い当たる節が幾つかある」



「そういう事だったのね..それなら良かったわ」



これで上手く納まるだろう。



「そうか、それじゃこれを渡そう」


革袋を渡された、中にはお金が詰まっていた。


沢山の銀貨や銅貨が入っている。



「これは?」



「成人の儀式が終わって二人が結婚したら渡そうと思っていたのよ」


「ユリアはお金が必要なくなったから、セイルにやろうと思う、冒険者になる準備金にしてくれ」



「これは必死に貯めた物ですよね」


「良いんだ..持って行ってくれ」



土で汚れたお金..苦労が良く解る。



「これは受け取れない..」



「良いんだ..だって」


「そうよね、貴方」



どうしたんだ..


「だって、ユリアが聖女になったから、凄いお金が貰えたのよ」


「一生生活に困らない位にな」



何だかな..僕はお金を貰う事にした。



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