第4話 子供時代② 寝取ってくれてありがとう!
14歳になった。
ユリアのお父さんは農夫だった。
だから、僕はその手伝いをしながら、お父さんの形見の猟銃で狩をしていた。
勇者だった時のスキルの殆どは失っていたが、体の鍛え方や知識は頭にあった。
勇者にはならないと思うが、その知識を元に体は鍛え続けてきた。
多分、通常の人間の中では、そこそこ強いと思う。
恐らく、騎士とならやり合える位には強い筈だ。
多少独占欲が強いけどユリアは僕に凄く優しい、だが化け物にしか見えない。
だけど、幼馴染でユリアの家には恩がある。
9年近くも家族の様に接してくれたのだ、ユリアを傷つけるような事はしたくない。
だからと言って、結婚は無理だ。
幾ら優しくて良い子だって頭で知っていても..僕にはゴブリン以下にしか見えない。
そんな子と子作りが出来るのか..出来ない。
キスですら、無理だ。
子供の時に目を潰せば、そう思った時があるが、それも今更無理だ。
いまの僕には、醜いユリアの姿がもう沁みついている。
目を潰した所で、ユリアの声を聴けばその醜い姿しか思い浮かばないだろう。
成人の儀式まで後、1年。
ユリアは恐らく、その後に結婚を申し込んでくるかも知れない。
自分の性格が嫌になる。
全て捨てて逃げたいが、逃げられない..ジレンマだ。
15歳になった。
とうとう成人の儀式の日が来た。
「そうかー、セイルらしいね、私もセイルと離れたくないからお針子とか機織り娘とかが良いな」
セイルと離れたくない..恐らく、終わったらお互い大人になったからと結婚を申し込んでくるかもしれないな。
僕の番が来た。
冒険者だった、少し助かった気がした。
これなら、一緒に居る時間が少なくて済む。
よいジョブでは余り無いがギルドに所属して、護衛依頼を受ければ、家に居ない時間も沢山作れる。
いよいよユリアの番になった。
女神は僕を見捨てなかった。
ユリアは聖女になった。
これで僕は逃げられる。
多分、ユリアは勇者を好きになる。
僕が勇者だった時代は無かったが、勇者がパーティーを組む様になってから、大体の勇者は3大ジョブの女性とハーレム状態になる。
元勇者だったから理由は解る。
勇者には人に嫌われない様になる「魅了の祝福」という能力がある。
これにより勇者は無茶苦茶な事をしても嫌われない。
多分、これが三大ジョブには強力に掛るのだろう。
万が一にも、剣聖や聖女が裏切ったら大変な事になる。
だから裏切らない様に、好きになる..そういう事なんじゃないかな。
聖女になった時点で、そうなる運命が決まったようなもんだ。
本当に良かった。
次の日にはユリアの両親から僕に遠回しにユリアに近づかないで欲しいと言われた。
僕には家族が居ないし、ただの冒険者だ当たり前だ。
勇者は魔王を倒せば、貴族になる事は確定している、しかも領地持ちのだ。
そして、聖女は勇者と結ばれる事は少なくは無い。
そりゃ親からしたら、勇者と是非結ばれて欲しいだろう。
良かった、向こう側から言い出したのだ..これで僕は「恩知らず」にならないでユリアと別れられる。
しかも、相手は勇者、優良物件間違いなし、幸せに成れるだろう。
異性として嫌いなだけで、家族の様に思ってはいたんだ、「本当に良かった、おめでとう」
勇者と楽しんでいる声も聞けたし..うんうん順風満帆だ。
「お前が、セイルだな..決闘を申し込む!」
何でだ? ユリアなら譲ったし、俺が勇者に嫌われる要素は無い筈だ。
なぜこうなる?
「勇者ルディウス様に聞くが、何で僕が決闘しなくちゃいけないんですか?」
「それはユリアだ、聖女のユリアにお前が色目を使うからだ」
使うわけない..異性を感じて無いのにな..
わざと惨めさを見せる演出をした。
勇者である以上..弱い者いじめはしにくいだろう?
「これ以上..惨めになりたくない..惨めになりたくないんだ..」
こう言えば、被害者は僕にしか聞こえないだろう..
真実はともかく、当人も村の皆んなも「勇者がユリアを僕から寝取った」そう思っている筈だから。
ユリアは僕に未練があるようだったけど...自分から勇者に行ったんだ、これで終わりで良いよね...
「ユリア、これ以上男に惨めな思いさせるな..もういってよいぞ..明日には村を出て行く..じゃぁな」
勇者、君に感謝だ..ユリアを引き取ってくれてありがとう。
恩知らずにならずにすんだ、被害者にしてくれてありがとう。
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