最終

「いっぱいいっぱい、愛して、噛んで、咥えて、優しくして、思い切り喘がせて、心の底から満足させて、あの子みたいに、八峡さま、八峡様ッ」


外法が世界を侵食すると共に、長峡仁衛が作り出した道理が世界を破壊し始める。

二つの世界が接触すると共に、崩壊が始まって、貪り合った。


そして、一つの世界。

いや、二つの世界が混ざり合った新世が、外法の理を悉く破壊していく。


〈銀姫収斂〉。

長峡仁衛の術式、その性質を、銀鏡小綿の術式に乗せる事で、一時的に道理を長峡仁衛の術式を乗せて展開させる事が出来る。


唯一人、銀鏡小綿では、世界を破壊する法則性を持つ力では、この世界から誕生した不従万神の外法とは均衡を保つ事しか出来なかった。


だが、長峡仁衛の術式。

その効果はあらゆるものを封緘する事が出来る。

長峡仁衛の術式が乗った道理は、外法の理を封緘による効果で弱体化、其処から銀鏡小綿の術式によって破壊していく。

そうして、道理が外法を上回り、その銀と、桜の世界へと、埋め尽くされた。


「愛して、八峡様、私を、私を」


長峡仁衛の方に手を伸ばす、しかし、長峡仁衛の後ろに居る銀鏡小綿が、長峡仁衛の体を強く抱き締めた。


「この人は、貴方のものではありません…そもそも、私の大切な方の名前を間違えないで貰えますか?不愉快です」


その時。

初めて、不従万神は、怒りを覚えた。

知らない女が、八峡義弥を抱き締めている。

汚らわしい女が、私の全てを独占している、これは決して、許される事ではないと。

両手を広げて、不従万神が向かい出す。


それに合わせる様に、長峡仁衛も手を伸ばす。

その手を、不従万神の方へと向けると。


「封緘」


その言葉と共に、四方八方から出てくる鎖が不従万神の肉体を拘束、道理の効果によって弱体化した不従万神では、長峡仁衛の術式効果を破る事は出来ない。


「は、あッ…一緒、これで、私も、貴方と」


だが、不従万神は理解している。

封緘されるという事は、その術師に取り込まれると言う事。

不従万神は、長峡仁衛の傍に居られるのならば、それも良しとするが。


「…二度目は言わないけど、忘れてるのなら、もう一度だけ」


長峡仁衛が、拳を握り締める。

不従万神の足元から、棺桶が出現すると、鎖が、棺桶の中へと引っ張られていく。

そこで、不従万神は理解した。その棺桶は、長峡仁衛とは繋がっていない、と。


「いや、いやぁ!ここ嫌、やめて、八峡様、八峡様ァ!!」


棺桶の中に押し込まれる不従万神。

最後に長峡仁衛は、指を一本だけ立てると。


「さよなら、だ」


その言葉を最後に、棺桶には蓋がされて、不従万神が封緘された棺桶は、塊を凝縮させた、小さな欠片となって、地面に落ちる。

長峡仁衛とは隔離されたもの、長峡仁衛の神胤が無くても、それは永劫に封緘し続ける。


不従万神は、未来永劫、一人で生き続けるのだ。












後日談の話。

不従万神の封緘を完遂した以降の事。


「それで、次期当主候補は誰となったんですか?前述の通り、長峡仁衛が選ばれたのですか?」


肉体に包帯を巻きつける女性、霊山雪継が霊山蘭に伺った。

当主の座に就く霊山蘭は、口にキセルを咥えながら、紫煙を吹いて首を鳴らす。


「あれは使い物にならん。銀鏡小綿を封緘し、限定召喚する際に、『今後一切自身の術式を発動しない』枷を結びおった。その結果として、自身の神胤の全てを消耗し、臨核の能力も失った。銀鏡小綿の召喚に全てを費やした。もはや、奴は神胤すら使えぬ一般人よ」


詰まらなさそうに、霊山蘭が言う。

ならば、と。霊山雪継は処遇を口にした。


「長峡仁衛は、今回の事件、その落とし前をつけるべきです。少なくとも、事件に対して不満を持つ祓ヰ師も居ます、そして今回の不従万神の暴走、これを恐れている咒界連盟に、長峡仁衛が黒幕であると証言する様に細工を行います。…あれが当主にならぬのであれば、最後には、その様に有効活用するべきです」


霊山雪継の言い分を聞く霊山蘭。

首元に下げられた、棺桶の様な封遺物に手を取りながら、言った。


「あれと関わるとろくな事にならん。その様な事を考えている暇があれば、早々に白純大社の復興、および結界の強化に当たれ、襲撃事件では、見積もりが甘かったからな…良いか?もう一度言うが、もう、長峡仁衛如きに構うな、当然、銀鏡小綿にもだ」


霊山蘭の決定である。


「もしや…長峡仁衛に絆されたのですか?」


心配する口調、霊山蘭は、キセルの火種を灰へと落した。


「…感情は既に置いた。記憶もな、…だからと言って、絆されたワケではない、優先順序を弁えろと言っている。長峡仁衛は最早、術式も使えぬ一般人。祓ヰ師としてはなんら価値もない、何処で野垂れ死のうが我らには関係ない。…霊山の名を要らぬと言った、その時点で、長峡仁衛は関係は切れたのだ、だから、これ以上、霊山家の祓ヰ師として格を落とすような真似をするなと、言っておけ、良いな?」


「了解しました」


当主の言い分であれば、仕方が無い。それ以上口を開く事無く、霊山雪継は口を閉ざすが、最後に一つだけ言う。


「それで、結局…次の当主は誰となったのですか?」


どうやら、気になっている所は其処であるらしい。

霊山蘭は、複数の次期当主候補を頭に浮かべて、結局、誰も秘宝を持ってくる事はなかった。


「ふはッ…まだまだ、ひよっこに、当主の座は渡せんなぁ」


結局。

霊山家の当主は決まる事無く。

時間は、流れていくばかり。












「おはようございます、じんさん、朝ですよ」


声が聞こえる。

長峡仁衛は、その声のする方に顔を向ける。

其処には朝日と共に光沢を帯びる銀髪を靡かせる、翡翠の瞳が、長峡仁衛を見詰めていた。

長峡仁衛は伸びをして体を起こす。


「ふぁ…あぁ、おはよう、小綿…って、今日、休みだろ、こんな、学校に行くような時間に起こしたのか?」


「はい、じんさん。休みの日だからと言って、ぐうたらしてしまうのはダメですよ?…さあ、起きてください、朝ご飯にしましょう」


銀鏡小綿に言われて、長峡仁衛は起床する。

顔を洗って歯を磨いて、そして食卓へと向かう。

長峡仁衛と、銀鏡小綿は、黄金ヶ丘邸から離れた。

これからは、二人で一緒に行きたかった、それを、黄金ヶ丘クインも了承してくれた。

そして、長峡仁衛は、自分を買ってくれた黄金ヶ丘クインに、金を返す様にバイトをしている。

幾らかと聞けば、黄金ヶ丘クインは首を左右に振った。月末に、黄金ヶ丘邸で一万円を渡してくれれば、それで良いと彼女は言った。


だから、こうして、二人で襤褸のアパートに住んでいる。

長峡仁衛は、彼女の作ってくれたご飯を口にする。

味噌汁と温めたごはん、そして、彼女の作ってくれた卵焼きをおかずに、ごはんを食べる。

テーブルを挟んで、銀鏡小綿も一緒にごはんを食べていた。

彼女を見る。長峡仁衛が肉体を形成した銀鏡小綿。

その魂の大多数は、長峡仁衛の体に残っている。

結局、全てを失ってしまった。

銀鏡小綿を形成した時に、長峡仁衛の使った神胤は消耗した。

霊山禊を解呪した時に得た神胤も、銀鏡小綿を経由した道理で全て使い尽くした。


長峡仁衛は、最早一般人。

そんな長峡仁衛に、銀鏡小綿はついてきてくれる。


「…どうかしましたか?じんさん」


銀鏡小綿の顔を見詰めていたので、長峡仁衛の視線が気になって彼女が言う。

長峡仁衛は、彼女になんて言おうか迷って、彼女の髪を見た。

三つ編みを解いて、長い髪の毛を流している。


「あぁ…髪、もう纏めないのか、と思ってさ」


「髪…三つ編みですか?そうですね。じんさんは、髪を纏めた私の方が、好きですか?」


彼女の言葉に、長峡仁衛は考える。


「…多分、性癖だったのかな、俺」


そう言うと、銀鏡小綿は笑う。


「そうですか…では、また纏めましょうか」


「そういえば、切れたんだっけ、ヘアゴム。…今日、休みだし買いに行くか」


「そうですね、ついでにお買い物もしましょう」


「うん、いや、むしろデートにしよう、色んな場所にさ」


「映画館はこないだ行きましたし、水族館は中止でしたし…どこに行きましょうか」


「まあ、何処でも良いさ。小綿と一緒なら、何処でもさ」


長峡仁衛は、そういった。

銀鏡小綿は、それに同感した。


長峡仁衛と銀鏡小綿の生活。

彼は、彼女は、これからも、人生を共にしていくのだろう。


「あ、小綿。醤油切れてる」


「では、それも買い物リストに入れておきます」























禍憑姫マガツキ/つう銀姫収斂ぎんきしゅうれんへん』・完

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無能術師覚醒・無限迷宮活動・無量式神契約 三流木青二斎無一門 @itisyou

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