四.きんにくのなやみ

「筋肉がつかないんです」


 視線をめぐらせば、視線を落とし自信のなさそうな顔で肩を落とす少年が一人。アサギが子供たち相手にそう切り出しているところだった。


 アサギは本来ルーンダリアの国民じゃないが、同盟を結んでいる領主が懇意にしている医師の息子だ。社会勉強という名目のもと、今日は正式にルーンダリア城に訪問してきた。

 子供は子供同士で交流するのがいいだろうということで、国王の従者の息子と俺の娘の三人でおやつタイムを楽しんでいたところだった。


「筋肉、ですか?」


 従者の息子は首を傾げる。


「はい。ちゃんと栄養バランスのいい食事を摂ってますし筋トレも欠かしていないのに、全然筋肉がつかないんです。でもジェイクさんは背が高いし体格もいいですよね。どうしたらそういうふうになれるんですか?」

「そうですね……」


 口調が敬語なのも面倒見がいいところも父親に似たんだろうか。似ていないのは青い髪くらいなものだ。ジェイクは顎に手を添えて考え込んでしまった。

 なんと答えてやったらいいのか、考えているんだろう。


 アサギは妖精族だ。長穂のような耳を持ち、華奢な体つきのこの種族は肉がつきにくい。

 実際、アサギの父親は格闘の技術を持っているし、妖精族の中でも筋肉をつける者はいる。けど、たぶんアサギの場合は、単純に向いていないんだと思う。


「おそらく、アサギさんはすぐに結果を求めすぎているのかもしれませんね。食事管理もしつつ鍛錬を欠かしていないのなら、大丈夫。少しずつ身についているはずです」

「本当ですか!?」


 曇り空のようだったアサギの顔が晴れた。

 さすがケイの息子。言葉選びが上手い。


「あのね、ひめにもきんにくあるんだよ! ほら、しっぽうごくもん!」


 唐突に会話に入る娘。言葉の通り、水色もふもふ尻尾はぱたぱた動いていて、それを見た瞬間俺は見事に崩れ落ちた。


 俺の……、いや、俺たちの姫が可愛すぎる。

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