五.深夜に交わした口約束
星空を見ていると、今でも時々思い出す。
子どもの頃、一緒によく遊んだ、星の目を持つあの双子のことを。
「だから、深夜に散歩なんてよせばいいと言ったんだ」
幼なじみの
「いいじゃん、深夜に散歩! オレたちにはいつだってミカド様がついているんだ。何が起こったって怖くねえだろ?」
「たしかに帝は俺たち民のために祈りを捧げ、導いてくださる。が、それとこれとは話が別だッ! 一体誰のせいでこうして野宿するハメになっていると思ってんだ、
「痛ってぇーよ! ゲンコツはなしだぜ!? 暴力はんたーい!」
「や・か・ま・し・い!」
獣の遠吠えがする中、二つの影が取っ組み合う。
こっちは膝を抱えて途方に暮れてるっていうのに、幼なじみの兄弟は喧嘩を始めやがった。どうでもいいから、ちょっとは静かにして欲しい。
生真面目な方が兄貴の
「だから朝になるまで待ってばいいって言ってんじゃん! そしたら
「おまえはまたそうやって、楽天的なことを。
おい、こっちに水を向けるんじゃねえよ。
「あ、ああ。聞けばいつも教えてくれるから、なんとかなると思うけど。つーか、トモダチじゃなくて精霊だからな」
「あー、そうだっけ?」
「むぅ、仕方あるまい。夜は獣が出るから火のそばから離れん方がいいしな」
一応納得したらしく、
「
「ははは、あまり期待しないでおくぜ……」
物静かな
夜の冒険だなんだと言って連れ出され、挙句の果てには森で遭難するとか最悪すぎると思っていたけど、発案者・
実際、朝になれば精霊たちは村までの道のりを教えてくれて、俺たち三人は無事に帰りつくことができた。親父と
絶対、なんて。
そんな不確かなものどこにもなかったのに、まだ子供だった俺たちは信じていた。それこそ疑いようもなく。
どれだけ時が経とうとも、バカなことをやったり言い合ったりしながら、俺たち三人はずっと一緒にいるものだと思っていたんだ。
外から来た海賊どもが、俺の故郷を襲うまでは。
❄︎ ❄︎ ❄︎
「…………ん、夢か」
意識がふいに覚醒した。夢は鮮明に覚えている。ひどく、懐かしい夢だった。
薄闇の中、身体を起こすと、腹のあたりにひっついて眠る娘の姿が見える。俺の太い尻尾に埋もれながらも、しっかりとその小さな手は俺の服をつかんでいた。規則正しい寝息を立てるその頭に、そっと触れる。
「絶対」なんて言葉は信じられなくなった俺だけど、今はほんのちょっとだけ、期待してもいいんじゃないかと思っている。
生き別れになった弟と再会できたばかりか、こうして家族ができたんだ。幼なじみの
そう思えるようになったのは、同性なのに俺を
(願わくば、一緒にいるなら仲良しな兄弟でいて欲しいけどな)
当時は軽く絶望したっていうのに、子どもの頃に巻き込まれた夜の大冒険のことを思い返すと笑えてくるんだから不思議だ。
口約束だから、あいつの「助けてやる」って言葉なんて、もう鼻から期待してねえけど。二人ともせめて無事で、元気でいて欲しいな、と。
俺はその晩、精霊にそう祈りながら、再び眠りについたのだった。
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