第26話縄張り争い

始業式の翌日、本格的に授業が始まる日。

まだ夏休み気分が消えない生徒も多いだろう。

それは先生方も同様である。


始業式が早く終わるのも相まって、夜遅くまで遊んでしまう生徒も多い。

先生も同様である。

この学園は始業式の週は、登校時間を1時間遅らせている。

先生の遅刻が多いからだ。


そんな中、希美はいつも通りの時間に登校する。

そもそも希美は夏休みもほとんど6時起きであった。

生活リズムを崩したくないということでこの週も変わらず登校している。

人気のない朝の学校というのが好きだというのもあるが。


ゆっくり本でも読もうかと、教室のドアをくぐるとそこには今日も人影があった。

昨日もそうだが、1学期は希美より早く来ている生徒は誰もいなかった。

それが2学期に入ってから2日連続で先客がいる。

希美は不穏な空気を感じながら、影の主を窺う。


一心不乱にキーボードを叩いているその影は、保険委員の鮎ケ瀬紬であった。

おかしい。

少年探偵のように希美は勘案する。


彼女はいつも時間ギリギリに登校していた。

遅刻するときもたまにあったくらいだ。

さらに何かレポートのようなものを作成している。

夏休みの課題は昨日が期限で、今日は特に他の課題もない。

課題が提出してなかったのは2人だけで、鮎ケ瀬さんではない。


「鮎ケ瀬さんおはよう。めずらしいね、こんな時間にいるなんて。」

希美は自席に荷物を置くと、後ろから声をかける。

しかし紬は聞こえていないのか、パソコンの画面から背けずに作業している。

希美はこれだけ集中している中で声をかけるのは忍ばれるが、その異様な光景の方とで天秤が揺れる。

しばらく様子を窺うことにして、希美は座って文庫本を開く。


しかし、開いてはいるが内容は入ってこない。

どうして紬がこんな時間に何の作業をしているのだろう。

杞憂であればよいが、どうしても気になってしまう。

後ろの席から見てても、紬は焦燥感に包まれている。

時間が経てば経つほど、天秤がどんどん傾いていく。


しばらくすると、集中が切れたのか、紬は一息ついて伸びをする。

それを見て希美は紬に声をかける。

「おはよう。何やってるの?」

希美は紬の肩に手をかけながら、そう問いかける。

肩に手をかけられたころで、きゃっ、と放ちながら紬は後ろを振り返る。

「砂糖元さん、おはよう。びっくりした~。」


紬はそう言うとそっと画面を閉じて笑顔を見せる。

希美は再度、何をやっていたかを尋ねると、紬は困ったように口ごもる。


「んーと、ね。」

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砂糖元家のおデブ執事 西園寺 真琴 @oguchan41

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