第25話追及する者3
「あったあった。6月の日記にとらしたさんとあごぶちさんと揉めたって書いてあるね。」
とらした?あごぶち?
先ほどのゆうかわときょうかわ、から推測するに、漢字のつくりの部分を音読みしているのだろう。とらとあご。なるほど、おそらくあいつらか。
自分の推察から心当たりがあるのか、雲龍は右手で頭を抱える。
「なるほど、やはりその二人とは上手くいってないか。それで、揉めたって具体的にはどんなことがあったんだ?」
そう問いかけられると、『大きな』執事はまたも人差し指を横に振る。
「雲龍、協定を忘れたわけじゃあるまい。既にドリア10杯分の情報は提供させてい頂きました。こちら側としてはペペロンチーノを要求します。」
「おいおいおい、まだ鯱下と鰐淵と何かあったことしか聞いてないぞ?」
「しゃちもと?わにぶち?」
確かにこの報質食量の協定には明確な定義が存在しない。
しかし情報の価値というのも明確な定義が存在しない。
通常は交渉にて決定する価値と価格であるが、相手が悪い。
普通ドリア10杯も食べれば量的に満足するが、この男は違う。
やはり食べ放題にするべきだったか?
しかし、食べ放題の利用は慎重にしなければ。
利用した店舗はすぐに出禁になってしまう。
チェーン店なら2店舗行けば3店舗目は行けない。
どうする?
こちらが主導にならないと破産してしまう。
先に情報の指定をするべきだったか?
いや、相手が何の情報を持ってるのかを把握してない状態での指定は危険だ。
具体的な何があったか?とペペロンチーノで取引するか?
いや、それだと具体的といいつつ抽象的に返されてしまうかもしれない。
揉めた原因と内容、結果。
これが聞きたい内容だ。
求めすぎか?ペペロンチーノと見合ってるか?
いや、そもそもさっきの情報とドリアが見合ってない。
しかしそれは俺の価値観だ。
あいつの価値観は大幅に食に傾いている。
「ねぇ、もう頼んで良い?」
『大きな』執事は待ちきれずに既にタブレットでペペロンチーノを10個カートに入れている。
こいつの注文の単位は10個が最小なのか?
雲龍は決断する。
10個でも3000円だ。
まぁギリギリありか。
「しかたない。ただ揉めた原因と内容、結果を話してくれよ?」
『大きな』執事はうんうんと聞き流し、注文ボタンを押す。
そして数分後、ペペロンチーノ10皿が運ばれてきた。
『大きな』執事は食べてる間は感想以外何も話さない。
手持無沙汰になった雲龍はタブレットの画面を眺める。
注文履歴にはドリア10個とペペロンチーノ10個が並んでいる。
金額にふと目をやると7500円と書かれていた。
おかしい、ドリアとペペロンチーノ両方300円だから6000円のはず。
もう一度履歴に目を戻すと、ペペロンチーノの後ろに(大盛り)と書かれている。
しまった。契約書をしっかり確認していなかった。
雲龍は『大きな』執事を侮っていたと猛省する。
今回は1500円で済んだが、次はどうなるか分からない。
「それにしても、大盛りでこの値段は素晴らしいね!」
その後この店は何度か報質食量協定の場として使われたが、翌年になると大盛りの提供が終了となった。
詳しい因果関係は発表されてないが。
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