第24話追求する者2

「いやぁ、ここのドリアは格別だよね!これで300円なんてどれだけ僕に優しいんだ。」

ここは安さが売りの某ファミリーレストラン。

『大きな』執事はそこの名物のドリアを水のように飲んでいる。

これはもちろん比喩表現ではあるが、飲んでいるのは間違いなく事実である。

1人前をひと口、ひと啜りで平らげている。

雲龍はいつもの風景を見ているかのように問いかける。


「おい、そろそろ情報を教えてくれないか?」

しびれを切らした雲龍は成果を求める。

『大きな』執事は既に10杯目のドリアを平らげている。


報質食量協定を結んでいるため、ドリア10杯分の情報を得られないと割に合わない。

『大きな』執事が持ってきた情報はドリア10杯以上の価値はないとの判断だ。

もちろん甘く見積もってだが。


『大きな』執事は手に持ったメニュー表を不満げに置いて、ポケットからメモを取り出す。

意外とこういうところは真面目である。

「さて、何が知りたいんだい?」


お腹が少し満たされて満足しているのか、『大きな』執事はメモを広げながら偉そうにそう問いかける。

確かに情報提供をお願いしているのはこちらだが、立場は対等なはずだ。

雲龍はその思いを押し殺し、まずは情報を得ることを最優先に考える。


「まずは希美くんの交友関係を知りたいなぁ。親友の鰈埼琴音と仲が良いのは知ってるが、それ以外で仲が良い友達はいるかい?」

「ふんふん、なるほどねぇ。」

いちいち態度が鼻につく。雲龍はあまり期待せずに返答を待つ。

『大きな』執事はパラパラとメモをめくりながら、人差し指と親指で顎を撫でる。


「確かに琴音という名前は良く出て来るねぇ。最近はゆうかわときょうかわの名前が出てるけど、そこまで仲が良いって感じではないなぁ。」

まるで文面でやり取りしているかのような発言に、雲龍は確認せざるを得なかった。

「名前が出てるって、それはなんの情報だ?確かな情報なんだろうな?」


『大きな』執事はその問いかけに、にやりと気持ち悪い笑みを浮かべながら人差し指を横に振る。

「チッチッチ、分かってないなぁ。僕はお嬢と一緒に住んでいるんだよ?」

ここは我慢だ、我慢。

雲龍はそう自分に言い聞かせ、心を落ち着ける。


「そうか、そうだよな。で、これは直接希美くんに確認した内容かい?」

「お嬢は僕には自分のことはあまり話さないんだ。だから直接聞いた内容じゃないよ。」

「じゃあ他の人から聞いた情報か?」

「残念ながら、他の人からは琴音との話はしてるみたいだけど、他の人の話はしてないみたいだ。」

「じゃあさっきの情報はどこから出たやつなんだよ!!」


こちらの質問に対して情報を小出しに出してくる『大きな』執事に、雲龍はついに堪忍袋の緒が切れた。

雲龍の大きな声と机を叩く音に驚いたのか、後ろの席の人がびくっとしたの察すると、『大きな』執事はいじわるしたのを反省したのか情報の出所を伝える。

「そんな怒るなよぅ。お嬢は日記を毎日つけてるんだけど、これはそこに書いてある情報だよ。だから確かな情報だよ。」


「日記?よくお前に見せてくれたなぁ。」

「僕に見せてくれるわけないだろう?雲龍は女心が分かってないなぁ。」

『大きな』執事はそう言った後、雲龍の目を見ると静かに話を続ける。


「お嬢は夜に日記を付けた後に机の引き出しに入れてるって調理スタッフに聞いたんだ。でもそこには電子ロックがかかってて開けられなかったんだ。そしたらお嬢は戦国武将が好きだからもしかしたら戦国武将の誕生日とかじゃないかって。そしたら案の定開いて日記をゲットしたんだ。」

『大きな』執事は先程とは打って変わって流暢に事の成り行きを話す。


それを聞いて満足そうに雲龍は続ける。

「そうか、仲良いのは鰈埼琴音だけか。それじゃあ逆に仲が悪い人は書いてあったか?」

『大きな』執事は再度日記を映したであろうメモをパラパラとめくる。

彼にとってメモは小さ過ぎるのか、なかなかめくれてない。

雲龍は初めて、メモに書いてあることを探すのに汗をかいてる人を見た。


「あったあった。6月の日記にとらしたさんとあごぶちさんと揉めたって書いてあるね。」

とらした?あごぶち?

先ほどのゆうかわときょうかわ、から推測するに、漢字のつくりの部分を音読みしているのだろう。とらとあご。なるほど、おそらくあいつらか。

自分の推察から心当たりがあるのか、雲龍は右手で頭を抱える。

「なるほど、やはりその二人とは上手くいってないか。それで、揉めたって具体的にはどんなことがあったんだ?」


そう問いかけられると、『大きな』執事はまたも人差し指を横に振る。

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