第4話 彼女の行方
先輩は彼女の携帯に電話をしてみた。『この番号は現在使われておりません』というアナウンスが流れた。社長が解約したんだろう。
「その人、何だったんでしょうね?」
「ねえ・・・」
結局、そのままになってしまった。
その後も、毎月新しい人が入り、また、2人くらいやめていくという状態が続いていた。その会社では、給料をもらっていなくなるというのが当たり前になっていた。
「あの会社、社会保険に入らなくていいんですかね。業務委託とかにした方がいいですよね。その方が会社も違反にならないし」俺は言った。
「だよね」先輩はコンサルタントのくせに興味なさそうだった。
***
それから数か月後のことだ。
「あの会社なくなってた」
会社に行くなり先輩から、そう告げられた。あの会社で通じるくらい、俺たちの間では共通の話題になっていた。
「え!顧問料大丈夫ですか?」
「まあね。最後の月はとりっぱぐれたけど・・・」
「じゃあ、うちで預かってる書類はどうしたらいいんですか?」
「でも、社員って何人いたかなぁ・・・電話のおばちゃんくらいじゃない?」
「そうでしたっけ?もうちょっといますよ。今月も新入社員もいたし・・・」
「まあ、社長があの世に行っちゃったからね」
「えぇ!まだそんな年じゃないですよね」
俺は意外過ぎて大声を出してしまった。
「いなくなった女の人ってのが、社長の愛人でプスっとやっちゃったらしい・・・」
「えー。でも、急にいなくなったって・・・」
「一度姿をくらましたけど、また会ってたんだって。あのボロアパート、借りてたらしいよ。逢引のための部屋・・・そこで亡くなってたんだって」
「ああ・・・だから、ポストも見てなかったんだ・・・」
「本当はあそこに住んでたのかもね」
「なんで、先輩を紹介したんでしょうね」
「本心では別れたかったとか・・・。確か別れ話を切り出されてかっとなって刺したってテレビで言ってたよ」
俺は会社のファイルをキャビネから取り出して、もう一度社員の書類を見てみた。会社に残っていたのは、6人だけだった。一番長い人で半年前の入社だった。
「不思議なんですけど・・・あの会社って、何で人がやめるんでしょうね」
「さあ・・・。社長が厳しいとか・・・」
「もしかして、もともといないんじゃないですか?この人たち」
俺はふと思った。
「え?どういうこと?」
「社員数を水増ししているとか・・・会社の規模を大きく見せるために。それか、架空の口座にお金を振り込んで、脱税してたんじゃありませんか?」
「へー、そんなことできるかな」
「税務署も給与明細とかあんまり見ないし・・・。その社員が本当にいるかとか気にしないと思います」
「はあ・・・。そういえば、あの会社現金手渡しだったね!すごいね。江田君、よくわかったね!」
「想像ですけどね」
俺は社員たちの書類の字を見てみたが、どれも同じようなボールペンで書かれていた。多分いなかったんだ・・・。俺たちは毎月、架空の人のために給与計算をして、明細を作ってたんだ・・・。
「テレアポのおばさんたちは実在してますよね」
「俺も見てるから・・・大丈夫」
社長の茶番に付き合わされた俺たちは、そこから働く意欲をなくしてしまった。
俺はそれから半年後くらいに会社を辞めた。
無断欠勤 連喜 @toushikibu
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