鈴虫のエール 🏠

上月くるを

鈴虫のエール 🏠




 ありゃりゃ、オバハン、またしても増やしたんかいな~。

 近所の庭まで出張っていた鈴虫は、ため息をつきました。


 そう広くもない、正しく言えば狭くるしい庭に、見慣れない苗が、ふたつみっつ。

 樹木や草花がぎちぎちに立てこんでいるおかげで、鈴虫の入る隙間もありません。


 混み合った幹や枝や葉っぱをかき分け、ようやくひんやりした日陰に潜りこむと、まあ、しゃあないか、これがオバハンの病気やさかいな……鈴虫はつぶやきました。




      🤸




 生きていれば、悲しい出来事のひとつやふたつと無縁ではいられない。

 それは鈴虫の世界とて同じですが、なんせオバハンの悲しみは塊りで。


 オトン、オカン、夫、愛兎、愛鳥……ここ数年のあいだに、みんな天に召されて。

 「まあ、そういうときもあるさ」などという凡庸な慰めでは、とてもとても……。


 若いころは槍投げの選手として国体で活躍したアスリートだっただけに、いまでもプロポーション抜群の身体をふたつに折り曲げ、ただただ泣いて暮らしていました。



 

      🌺




 そんなオバハンを見兼ねた友だちが、せめてもの慰めにと自宅の牡丹を株分けしてくれたら、それがしっかりと根づいて、真っ白に清廉な花を咲かせてくれたのです。


 愛する家族の生まれ変わりと思ったオバハンは、飽きずに眺め、語りかけました。

 植物依存が始まったのはそれからで、狭い庭はすぐ立錐の余地もなくなって……。


 でも、ひとつひとつの樹木や草花に名前をつけ、熱心に手入れし、語りかけているオバハンを見ると、口まで出かかっているアドバイスも引っこんでしまうようです。




      🍁




 人の背丈より伸びたブッドリア、実が赤くなり始めたソヨゴ、来春に備える沈丁花の根元に窮屈そうにうずくまった鈴虫は、精いっぱいのかすれ声をふるわせました。



 ――リ~ン、リ、リ~ン……。(´;ω;`)ウゥゥ



 そうして鳴きながら、冬が来るまでオバハンを守ってやろうと考えているのです。

 できれば、それまでに少しずつオバハンが立ち直ってくれたらなおいいんだけど。

 


 

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