お前の望むものはなんだ。

英賀要

女神様のエゴ

 俺の夢は昔から悪を無くして、平和な世界を作ることだった。

 この世はもっと良くなると信じていた。

 そして今も同じ。

 それを無くせるよう、努力していた。

 ――のだが、俺は残念ながら死んでしまったようだ。

 気がつくと、見たことのない空間にいて女神を名乗る綺麗な女性が佇んでいた。


「わたくしは女神アマテラスです」


 正直こういう時、洋風の女神様を想像していたのだが、すごく和風だ。


「貴方は若くして夢を追いかけていたのに不運な事故で亡くなってしまいました。そんな若さで夢ある青年が亡くなるなんて、残念でなりません」


 その女神を名乗る女性は、微笑みながらそういう。

 俺としてはもうちょっと生きていたかったのだが、死んでしまったものは仕方がない。


「そこで、そんな頑張っていた貴方に一つだけなんでも願いを叶えて生まれ変わらせてあげましょう。貴方には夢があったでしょう? それを叶えるための能力が欲しいんじゃないんですか」


 なんだって! 俺の夢を叶えられるというのか! それじゃあ叶えさせてもらおう。

 女神様も期待したような眼差しでこちらを見る。


「じゃあ――この世界から悪というものをなくしてください」

「はい。分かりました。そのための能力を――」

「あ、いえいえ、違います」

「えーと。じゃあどういうことですか?」


 女神様は、首を傾げる。

 可愛い――

 おっといけない、見蕩れてしまっていた。

 なんで伝わらないんだろう? 俺の言い方が悪いのかな?


「だから、僕が悪を無くすんじゃなくて、貴方が願いを叶えてくれるのか知りませんけど、俺の願いを叶えてくれる人が悪を無くすんです!」

「は?」

「だから――」

「二度も言わんでええわ!」

「そうですか。そんじゃあお願いします」


 そういうと女神と名乗る人はこめかみを抑えるようにして言う。


「はあ……あのね。私は主人公が悪を倒していくところを見ているのが好きなの! だからこの職に就いたのにそんなことしちゃったら面白くないでしょっ!」

「はい?」


 何が、「はあ」だよこちっがため息つきてえよ。

 何言ってんのこの人?

 エゴの塊じゃねえか、エゴエゴすぎだろ。


「なによ。何か文句でもあるなら口で言ってみなさい。まあ、何を考えているかわかるからどっちみちはったおしてやろうとは思うけど。今撤回したら許してあげる」


 アンタが悪じゃねえか! 俺は悪じゃなくてアンタを倒すべきなんじゃないか?!

 そう心の中でだが考えていると何か突き刺さるようなものを感じたため前を向くと――

 女神の目が親の仇を取るかの如く威嚇するように"キッ"と鋭くなる。

 

「女神さん女神さん。ちょっと落ち着こうか。目が、日本刀並みに鋭いよ?」

「あはは。そりゃそうよ?」


 ありゃりゃ。こりゃやっちまったな。生物としての本能がそう訴えかけてくる。

 殺される(いや、もう死んでるから殺されるも何も無いんだけど)。

 女神さんがこちらに迫ってくる。

 俺は目を瞑ることしかできなかった。

 楽しい女神さんとの時間もこれで終わりか――

 と思われたのだがそれ以上こちらに近づいてくる気配がしなかった。

 怖かったので一瞬だけ目を開ける。

 すると訊いてくる。


「た、楽しかった?」

「……??」

「楽しい私との時間が終わりそうで惜しいんでしょう?」


 と――

 あれ? 意外とチョr――

 おっと危ない。これ以上言っちゃダメなやつだ。


「うん。楽しかったんですよ。俺も」

「お、"俺も"って私は別に楽しかったなんて言っていないでしょ?」


 何この時代遅れのツン……なんとかは。


「女神さん。顔赤いよ? 熱でもあるんじゃない? なんでだろね?」


 そんな白々しい俺の質問が功を奏したらしい、女神は顔をリンゴくらい真っ赤に染めて言う。

 

「バ、バカそんな訳ないでしょ! と、とにかく私も仕事があるから願い事何か言ってくれないかしら?」


 そして俺はまたあの願いを口にする。

 今度は了承してくれた。

 多分女神なのにあんなにチョロいことがバレるのが嫌だったのか、だから早く俺を元の世界に戻すために聞いてくれたんだろう。

 そんなこんなでエゴエゴな女神さんとの時間も終わりを迎え俺の世界は救われたのであった。

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