第10話:クラン

 椅子に座っていたのは10代前半くらいに見える少年だった。

 少年は本から目を上げるとニコリともせずに言った。


「おうジャック、と、そちらさんは?」

「新入りです」

「そうか。もうマスターのところには行った?」

「マスターは狩りに出てます」

「…………そうだったね」

「それでこいつの能力を測定したいんですが――」


 ……新入りって何のことだろうか?この人ジャックって名前だったんだ。どっかで聞いたことあるような名前だな。あの少年が戦闘団長ってことか?てか戦闘団長ってなんだ?マスターってなに?狩りって俺の知ってる狩りか?

 ジャックと呼ばれた背の高い男と少年は、完全にこちらを置いてけぼりにして話を進めていた。よく分からない単語が飛び交いドンドンと話が進んでいく。

 そして気がつくと、俺は目の前に置かれた水晶板に両方の掌を置いていた。冷たい感覚が体の中を抜けていくのを感じる。


「あと30秒くらいだ」


 なにがあと30秒なのだろうかと思ったが、まぁいいだろう。もし何かあったとしてもついてきてしまった自分がいけないのだ。人間と合うのが久しぶりすぎて冷静な判断力を失っていた自分に責任がある。

 それに最悪の場合は風の大砲を撃てばいい。出力を加減すれば多分2発くらい撃てるだけのMPはある。

 そんな事を考えていると、隣から聞こえてきた声で我に返った。


「もう良いぞ」


 その声を合図に手を水晶板から下ろすと、板はボンヤリと光った。少年はその板を受け取ると、もごもごと何かを呟いた。

 するとその板は強く光り、青い文字が浮き上がってきた。ジャックと呼ばれた男と少年は板を上から覗き込んだ。

 しばらくするとジャックが口を開いた。


「まあ悪くはないですね」

「うん。そうだね。5人目の可能性もある。ていってもこの測定器あんまりちゃんとしてないからね」


 二人はそう言ってしばらくコソコソ話した後でこちらを向いた。何を言っていたのか全く分からないが、自分が何かしらの5人目かもしれないということだけは理解できた。……一体なんの5人目なんでしょうか?


「カザマ・セロ、君を我々の仲間として受け入れる」

「はい……あの、ちょっといいですか?」

「なんだい?」

「仲間っていうのは、具体的になんの仲間なんでしょうか?」


 俺がそう言うと、少年はキョトンとしたような顔でジャックの方を見た。するとジャックは驚いたような顔をして俺の顔を見て、そして信じられないといった様子で勢いよく口を開いた。


「お、お前はとそう言ったじゃないか! あれは何だったんだ!」

「…………いや、あれは、そのままの意味ですけど」

「おい、おいおい冗談はやめてくれ。それじゃあお前は本当にただダンジョンを彷徨ってたら偶々火の消えた松明を見つけて、それを辿ってついたところの壁を何故か壊して、目の前の分かれ道をなんとなく右に向かって歩いてきたうえで、本当にただ道を教えて欲しくて扉をノックしたってのか!!??」

「…………はい」


 ジャックは目玉が飛び出しそうなほど目を見開きこちらを見て、そして少年の方を見て、そして頭を抱えた。

 少年は息も絶え絶えに爆笑している。

 しばらくして笑いが落ち着いた少年は涙を拭きながらこちらに向き直った。


「ひぃ~、面白い。まぁ結果オーライだねジャック。そして今の話からするとセロ、君は何も知らないようだから軽く自己紹介をしておこう」

「……はい」

「僕は火威ひおどしテオだ。ここのクランで戦闘団長をしてる」

「……クラン」

「ああ、【魔人会】だ」

「なるほど…………!!!???」


 魔人会といえば数多あるクランの中でもトップ中のトップ、世界最強クラスのハンターが集まるクランであり、ハンターであれば誰もが一度は聞いたことのある名だった。クランに所属する誰もが一騎当千の猛者であり、彼らに勝てない魔物はいないとまでいわれるほどだ。

 しかし魔人会はその知名度とは裏腹に本拠地も分からなければクランのマスターも殆ど知られていないという謎の多いクランでもあった。

 この少年はその魔人会の戦闘団長が自分だって言ったのか?

 そういえばジャックって名前どこかできいたことある思ったけど東都ギルドで魔物討伐数1位の人と同じ名前じゃん…………まさかね。いや、いやいやいや…………


「あの……ジャックさんてもしかしてアララギ・ジャックさんですか?」

「ああそうだぞ。なんで知ってるんだ?」


 ジャックは当たり前の事でも答えるかのようにそう言った。

 いや本人なのであれば当たり前のことを答えているだけなのだから当然と言えばそれはそうなのだが、しかしそれはそれで大変なことになっているような気がする。

 どうしてこんなことになってるんだ、いや魔人会に入れるのならばそれはそれで嬉しい?が――


「なにか分からない事があればそこのジャックに訊くといい。それとマスターが帰ってきたら話すことがあるから、まあそれはその時に説明する。何か質問は?」


 そんなことを言われても質問だらけで何から聞けば良いのか、と考えているうちにまた火威ひおどしが話し始めた。


「それじゃあ取り敢えずそんな感じで、じゃあジャック、

「……あの、一つ良いですか?」

「ん?」

「俺はこのクランで何をすれば」

「別に、普通にすればいいよ」

「普通に…………」

「よし行くぞ」


 ジャックはそう言うと俺をひっぱて部屋を出た。火威ひおどし少年は笑顔でこちらに手を振っていた。


 部屋を出るとジャックが話し始めた。


「まあもし嫌ならクランを抜けることも出来るから、その時は俺に言え。ただ、このクランはハンターが成長するために必要な物が全て揃ってる。抜けるのならそれを全て学んでからでも遅くは無いと思う」

「なるほど」


 そのあとの会話は全くなかった。すぐに酒場についてしまったからだ。

 正確には酒場なのか知らないが少なくともそんな見た目をしたところについた。するとジャックがその場にいた全員に向かって叫んだ。


「注目!!」


 殆ど全員がこちらを向いた。


「新入りを紹介する。カザマ・セロだ。風系統の魔力を操る。ということで新人が3人集まったので、正式に新人歓迎会をしようと思う」

「「「「「「「「「うおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」」」」」」


 全員が総立ちになって叫び始めた。手を叩いている者もいれば床をドンドンと踏みならす者もいた。

 何がということでなのか分からないし、新人の歓迎会ごときでどうしてそんなに盛り上がれるのか、この時の俺は知らなかった。だから照れくさそうに苦笑いなんかしてたんだ。

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風魔道士の育ち方 風の魔道士はレベルが上がりやすいと聞いたんですが7から中々あがりません。置いていかれたダンジョンで化物に食われかけたらレベルが上がって進化が始まりました ウォーカー @Inoshishi1114

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