第62話 観察中
「大井第6レースの結果を申し上げます」
機械音声の声が競馬場内に響き渡る。
「単勝3番100円 複勝3番100円」
と6Rの結果を淡々と読み上げていく。
「三連単3-4-8 430円」
その結果が表示される5分ほど前
目の前を3番、4番、8番の順で砂の上を駆け抜けていった。
アカネが師匠にどや顔で話しかけている。
「ほらな。うちらの言うた通りや。ここは堅いっていったやろ? なんでうちのいった推奨だしたん? こうへんで9番なんか」
「……なにが9番だよ。どこにいんだよ9番」
「うーん11着あたりやなあ。そりゃ3番についていったら潰れるで能力は足りへんよ」
「だったら9番とかいうなし! 丸乗りした俺たちがあほじゃないかよな! な! 圭一郎」
急に話をふられ慌てながら答える。
「お、俺は丸乗りはどうかなって言いましたよ。それを師匠が3連単450円なんてあててドヤるはどうなんだって言ったんでしょうよ。それにフォーメーションだから丸乗りじゃないって子供みたいなこと言って」
「いやいやいやそりゃ450円なんて推奨だしたらまたあのアンチがさあ。え?3連単400円台推奨してどやってんの? とか絶対いうに決まってる」
「そりゃアンチだから重箱の隅つついて言うでしょ……それに推奨なんて当たらなきゃ意味ないですよ……」
「そうだぞ当たらないと期待値もクソもないんだぞアカネ!」
「は?! なんでまたうちに飛び火してんねん! うちは期待値ないとこは買わへんって言うてるやろ。だからうちらは推奨してへんで?」
「コラボだから。これコラボだから俺たちとお前たちで当てないと意味ねぇんだわ。期待値とかなんなん? 当たらなかったら期待値もクソねぇから」
「なんやと! うちらが頼んでコラボしたんとちゃうわボケ!」
「はん! だったらもうコラボ解消だな!!」
師匠はそういってプイっとアカネから身体を背ける。
やばい喧嘩が始まった……これ止めた方がいいよな……
「まあまあ二人とも次のレースもありますしー」
するとアカネは
「うちらは11レースまで見やで。11レースに期待値ありそうな馬がおるんよなあ」
得意げに言い放った。
そっぽ向きながら聞き耳を立てていたようで師匠が口を開く。
腕を組んで偉そうな感じで答える。
「ほう……アカネくん詳しい話を聞こうじゃないか」
「え? コラボ解消したんやないんか?」
「君の話によってはコラボを続けてやってもいいかなと思っている」
「偉そうにいいくさりよってからに。まあええわ。ただ期待値があるだけやし、普通に負けることもありえる。ただあんたらの解析で馬の能力が分かれば買える根拠ができるかもしれへんなって思ったぐらいやな。でもあんたら当たらへんかったら期待値もクソもあらへんっていってへんかった?」
「ん? 当たればいいんだよ。当たれば。ようは11レースで穴馬の能力が高ければいいってことだろ?」
「まあうちの見立ての根拠が欲しいってことだけやな。うちの見立ては5割、いや4割かなぐらいで来ると思ってるで」
すっと右手を差し出す師匠。
「なんや」
「いや再コラボだアカネ。11レース取って爆勝ちやで!!」
「まあええわ……」
よくわかんないうちに喧嘩してまた仲直りしてるんだけどこの二人……
◇◆◇
11レースまでは時間があるので馬をみて予想をしてみたり軽食を食べたりする……
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
そういって師匠は一人でトイレに行く。
アカネが話しかけてくる。
「なあ。あんたあのおっちゃん捨ててうちらと組まへんか? あんなギャン中のおっちゃん何の役に立たへんやろ。期待値あらへんで。馬の能力みてるんはあんたやろ。どういう原理かはしらへんけど」
「……馬の能力はAIで解析を……」
「そんなAIあるわけないやろ。でうちらと組まへん? ザキのパドックとあんたの能力、そしてうちの買い目これ揃うたらもう負けへんで」
どうも冗談で言ってるような表情には見えない……
「……師匠は俺がいなくなったら多分来年死んでます」
「大丈夫やってギャン中おっちゃんなんかその辺いっぱいおって全然死なへんよ」
「アカネさんからみたらただのギャン中おっさんなんでしょうけど……師匠と一緒にいると面白いんですよね……あの生態が面白くてたまらないんです。だから俺はずっと師匠の観察を続けたいんです」
「ぎゃはははは。あんたひどいなあ。あんたも十分におもろいわ。たぶんあんたと一緒におったほうがあのおっちゃんの人生狂うて行くと思うけどな」
「大丈夫ですよ。競馬で大儲けするんで……でもすぐ師匠はお金なくなるとおもいますけどね」
そうこういっていうとズボンで手を拭きながら師匠が帰ってきた。
「ん?なんかい俺の顔についてる?」
異世界馬券師~ステータスが見えちゃうから競馬なんてイージーです~ ぽいづん @poizun417
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