第3話 テンプレ使うと楽だよね

 読み進めると、まるで知人が上司の愚痴をまくしたてに来たような感覚に

陥ります。

 読者の中には、ちゃんと『似たような体験』が存在する。


 これがこの小説におけるフォーマットであり、テンプレです。



 Web小説慣れした後頭葉優勢の読者にも、親近感を抱かせます。

 だから、設定が古代ギリシャやローマだろうと異世界だろうと、わからなくても読めてしまう。


 後頭葉が「あれ? この感覚どこかで知ってる」と、共鳴してさえくれたなら、最初の方では小説の設定だったり、情景描写はいらないことが、わかります。


 Web小説では、自分の壮大な世界観を表現したいあまりにですね。

 一行目から微に入り細に入り、情景描写を書きたがる人もいる。

 ですけど、それは後頭葉にウザがられるから止めなされというセオリーを、太宰は忠実に守ります。


 そして今度も段落が、ひと区切りつこうとする間際。

 前頭葉が「そうか! この小説はもしかしたら……」と、雷にでも打たれたように発奮はっぷんする一節が、残される。



 私がもし居らなかったらあの人は、もう、とうの昔、あの無能でとんまの弟子たちと、どこかの野原でのたれ死じにしていたに違いない。



 主人公の『あの人』には『弟子たち』が。

 その弟子たちには、主人公も含まれる。

 この《《弟子たち》というキーワードから、読者は『あの人』が何らかの指導者なのだと、推測する。


 そして、ある日突然駆け込んで、『旦那様』に『あの人』の居場所を知っていて、案内人をかって出ようとする彼は。この物語の主人公とは。


 前頭葉が「そうか! これは……っ」と、膝を打ってうなずく場面になりました。


 そして自身が当たりをつけた人物が正解なのか、ハズレなのかを確かめたくなり、前頭葉は次のページをめくらずにはいられなくなる。


 これが、後頭葉と前頭葉を同時に動かす、太宰治マジックです。


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