第4話 Web小説が紙媒体になる時は?

 そして、いちばん悩ましいのはWebで公開された小説が、最終的には紙書籍になるケース。

 最近では、こちらがメイン。

 文学賞に応募して、受賞して書籍化された作品が電子書籍化されるといった順序の方が減少気味。

 今ではWebの公募で受賞した作品が、紙書籍で刊行されます。

 

 とりあえず、読者や審査する編集者にWeb上で読んでもらえなければ、話にならない。ですので、Web小説の書き方で書いたとします。

 その小説が、Webで公開されたままの形で紙書籍になった場合、読む人の脳は、どんな反応をするのでしょう。


 もしかしたら、脳はWeb小説であるにも関わらず、前頭葉で小説を読んでしまいかねません。Webでは後頭葉で読んだのに。



 それなら書籍化される前に、Web小説を紙媒体仕様に書き直したらいいじゃんと思いますよね。

 でも、そうなると、前述したように「Webで読んだ時には、こんな感じじゃなかったのに」と、違和感をもつ読者が出てきます。


 脳科学者の中野信子さんが、「ヒトの脳って、文明が進化するようには進化できない。すごく原始的なんです」と、明言されていたことが、一抹の不安を残します。



 人類にとって紙に書かれた文章は、千年も前から人から人へ想いを伝える手段でした。

 だから、ヒトの脳は紙に書かれた文字を見たら、情報処理器官の後頭葉ではなく、前頭葉を優先的に起動させてきた。

 そして前頭葉で、相手が何を伝えようとしているのかを推察し、考えようとし始めます。相手は私に何を伝えたいのだと。


 紙と筆と墨しかなかった平安時代。

 もし、恋心を詠んだ和歌が片想いの相手から届いたら、どんな気持ちになりますか?

 

 一方、お正月の年賀状がプリントされた印字と写真だけだったとするのなら、脳はそれを単なるとして後頭葉で処理するでしょう。

 極端な言い方をするのなら、ダイレクトメールと一緒です。


 ですが、手書きのメッセージが添えられていたとします。そうなると、その年賀状は情報ではなく、になります。

 文章を読めば、差出人に対して懐かしさだったり親しみだったり、私達は何かしらの感情を抱きます。


 何十行ものメールより、一行の手書きカードや手紙の方が、直に伝わるものがある。それは、千年もの歳月をかけて脳に刷りこまれたパターンだからだと、思います。


 このように、本来ネット上での読み物は『情報』。

 紙媒体で目にするものは『手紙』。

 ざっくり分けると、そうなります。

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