二人の出会い

 元々、春真智はるまち藍空あおぞらは放課後に集まって会話を楽しむ仲ではなかった。


 同じ高校ではあれど、一度も同じクラスになった事はなく、好きでも嫌いでもないどころかお互い名前すら知らなかったのだ。


 出会いは高校2年に上がってから間もなくの事。春真智と藍空がそれぞれの友人に誘われ参加した合コンがキッカケだった。



『――今度、合コンするんだけど春真智もくる?』


『ご、合コン……だとッ⁉』


『そそ、うちの高校の女子と会話の流れでそうなったんよ。春真智、女っけが全くないからこれを機にどうかなって』


『女っけがないんじゃなくて、この人と一生一緒にいたいと思える人が目の前に現れるのを待っているだけだから、勘違いしないでね?』


『とか言って、女が苦手なだけだろお前は……』


『苦手なわけじゃねーし! 俺だって本気を出せば女子の一人や二人――』


『あーはいはい、わかったわかったからそうムキになるなって』


『別にムキになってないが? あ、それと俺のスケージュールだが――明日、明後日、明々後日、今週、一ヵ月先まで空いてるから把握しておいてくれ』


『……わかったよ。詳しい日程はまた後で連絡する』


『おう』



 この時、春真智は内心浮かれていた。


 理想の女性とまだ巡り会えていないだけは単なる建前で、本音は彼女という存在が欲しかっただけなのだ。


 そしてそれは藍空も同じで。



『ごごご、合コンッ⁉ 今、合コンって言ったッ?』


『うん。同じ高校の男の子と話してたらいつの間にか合コンする流れになってたの。3対3でやるみたいだから、藍ちゃんもどう? 彼氏、できるかもよ?』


『か、彼氏…………いやいやッ! 私は、別に、そんな、積極的に彼氏を作りにいくタイプの人間じゃないし、どっちかって言うと白馬の王子様がやって来るのを待ってるだし。それに、合コンに顔出すような人って底が知れてるというか……』


『そっか。じゃあまた機会があったら――』


『待って。行かないとは一言も口にしてないけど?』


『え?』


『いやだから、行かないとは一言も口にしてないの。わかる?』


『う、うん……じゃ、じゃあ行けるって事でいいのね?』


『行けるは行ける。どうしても行きたいってわけじゃないけど、行けない事はない……わかる?』


『あ、うん。わかったよ……日にちが決まったらまた連絡するね』


『お願い』



 春真智と同様、彼氏ができるかもと内心舞い上がっていた。




 ~迎えた当日。カラオケに集った男女6名。





 初めましての段階に漂っていた緊張感は時間と共に緩和していって、マイクを握ればウェイウェイ盛り上がって、歌い終えればタンバリンやらマラカスやら指笛やらで称賛の嵐。


 最後の方では連絡先の交換が行われて、次回の予定の話もあがったりして。見ていて腹が立つ程仲良くなっているな……と、壁際で影を薄くしていた春真智と藍空は思ったそうな。


 スタートラインこそ一緒だったものの、男女交わる不慣れな状況に出遅れ、何とかついていこうと必死に頑張るも空回りして白けた空気を意図せず演出、気付けば蚊帳の外もいいところ。



(完全にあの4人だけの世界になっちゃってるし。隣の……なんだっけ? 野原さん? もさっきからずっと不機嫌そうに腕組んでるしで……なにこれ、俺の居場所どこ?)


(惨めだ……この上なくなく惨めだ。どうして――どうして皆と同じようなテンションでいってたのに私だけ引かれるのよッ! ……いや、隣に座っている雨田くん? も盛大にスベってたわね――てかこの人目つき悪ッ⁉)



 春真智と藍空、似た者同士が抱いた第一印象はお世辞にも良いとは呼べなかった。


 そして――、



(こんなとこ、もういられるかッ!)


(時間の無駄無駄! さっさと帰ろッ!)



 似た者同士は考える事も同じ。



『――ちょっと、お手洗いに』



 先に出て行ったのは藍空だった。


 少しして俺も俺もと春真智も席を立った。





『『――あッ』』






 そして二人は再び、駅のホームで顔を合わせるのだった。

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多分、彼/彼女に『好き』と伝えれば色よい返事が聞けると思う。 深谷花びら大回転 @takato1017

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