多分、彼/彼女に『好き』と伝えれば色よい返事が聞けると思う。
深谷花びら大回転
両片想い
放課後。
「――雨田君、これ」
「ちょ、きっついな~こいつらも」
藍空が春真智の前にスマホを掲げた。ディスプレイに映っているのは高校生のカップルで、ショート動画にこれでもかと幸せを詰めていた。
「同じく。こんな中身スカスカの動画をよく世に公表できたものね。しかも自信満々な顔して……一体どんな神経しているのかしら」
「ほんとそれだよな~。ラブラブなのはいいけど、それ二人だけで共有してればよくね? って話だよな。いや、ほんと理解に苦しむわ、これ」
椅子の背もたれに寄りかかり、両手を後頭部に回して持論を述べた春真智。まったくもってその通りと藍空は首肯する。
二人は似た者同士だ。
天邪鬼。特に恋愛面に関して捻くれているところ、
(でも……野原となら、こういうイチャイチャもいいかもしれない)
(あぁ……いつか私も雨田君と頬っぺたくっつけたり、頬っぺたにチューチューしまくりたいなぁ)
好きな相手には捻くれないところ、不器用なところ、人一倍恋に興味があるのに異性と話すのが苦手なところ。
それともう一つ……春真智と藍空それぞれが何となく気付いている事がある。
「そ、そういえばさ、噂を耳にしたんだけど……野原、隣のクラスの奴に……その、告られたんだって?」
「え、ええ。そうだけど……それが何か?」
「……お、オッケーだしたのか?」
「そんなわけないじゃない。お断りよ、当然ね」
「そ、そっか」
ホッと安堵した春真智を見て、藍空は嬉しさを堪え切れずに笑みを浮かべる。
「もしかして雨田君……わたしが受け入れるんじゃないかとヒヤヒヤしてた?」
同じく恋愛下手の春真智も不慣れで、
「いや、別に? ヒヤヒヤなんか全然してないけど? ……あ、そう言えば俺もこの間、告白されたんだよね」
すぐバレそうな嘘で駆け引きに乗ってしまう。
春真智に興味がない異性なら微塵も関心を持たない、むしろイラッとさえするだろう嘘を、藍空は鵜吞みにしてしまう。
「だ――誰よそれッ⁉ 誰に告白されたのッ!」
「……誰でもいいでしょ」
「言ってッ! 言いなさいッ!」
バンッと両手で机を叩き、前のめりになって春真智を問い詰める藍空。
その気迫を前にして、春真智は内心喜びながら藍空に嘘だと明かす。
「え……嘘なの?」
目をパチクリとさせ真偽を問うてきた藍空に春真智が頷いて返すと、彼女の顔は見る見るうちに赤くなっていって。
「そ、そう――なら、いいのだけれど」
座り直した藍空は恥じらいから春真智と目を合わせる事を嫌い、自慢の黒髪を弄る振りして顔を逸らした。
(この分かりやすい反応……やはり野原は俺の事、好きなんだな)
藍空の横顔を眺めながら春真智は思う。
(雨田君……私が告白を断ったって伝えたらホッとしてた。ふふふ、やっぱり雨田君は私のこと好きなんだ!)
秒針の止まった時計を見つめながら、青空は思う。
前述したもう一つ――春真智と藍空それぞれが何となく気付いている事がこれである。
――互いが互いに思いの丈をぶつけたら、受け入れてもらえると何となく察している。
そしてその何となくは実際に当たっていて、どちらかが『好き』と伝えれば結ばれる状態なのだ。
けれど未だ二人は結ばれない。
好きな相手には純粋なのに……恋愛下手で不器用で何より――天邪鬼の性格が、関係を停滞させていた。
多分、彼/彼女に『好き』と伝えれば良い返事が聞ける…………が、
(こりゃ、野原に告白されるのも時間の問題か?)
(もうそろそろいいんじゃないかな? 雨田君。私はいつでも受け入れる準備、できてるからね?)
どちらも受け身の姿勢は崩さない……崩せない。
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