煙草を吸う女

出会い系

　以前、うちに一度来た女で、とにかくタバコをよく吸う人がいた。いわゆるチェーンスモーカーというレベル。若い人はタバコに関連した用語を使うことすらないかもしれないが、チェーンスモーカーというのは、絶え間なくタバコを吸い続ける人のことだ。

　部屋に来る１週間前に出会い系サイトで知り合って、会ったその日に部屋に連れ込んだ。あまりにすんなりいって俺は有頂天だったが、すぐに失敗だと気が付いた。

　ワンレンで茶髪。細眉メイク。ワンナイトで終わる典型的なタイプの女だった。化粧をしていると何とか見れるが、落とすと見る影もなさそうだった。その証拠に彼女はシャワーの時は顔が濡れないようにしていた。

　女はずっとタバコをふかしながら、俺とキスをしていた。そんな片手間でキスしていても、お互い楽しいわけがない。二人とも裸だから、やけどしそうで俺はハラハラしたが、やめろと言えなかった。部屋まで連れ込んで帰らせるわけにはいかないからだ。女は俺にキスをしては、俺の口の中にタバコの煙を吹き込んでいた。俺は息を止めてこらえていた。肺にまで吸い込んだら癌になってしまう。女は笑いながら、俺に跨っていた。機嫌を損ねると、そのまま帰ってしまうだけでなく、陰部に根性焼きを入れられそうだった。はっきり言ってヤンキーだ。俺は大卒サラリーマンだけど、こういう人が嫌いではない。別に彼女にするわけないからだ。

出会い系で知り合ったという得体の知れなさ。エステティシャンという接点のない業種の女でもあった。彼女は俺を最初から見下していた。

　二人の肌が触れ合って熱いのと、緊張で、俺のわきの下に汗が流れ始めた。ワキガだから臭いがけっこう強かった。さっきシャワーを浴びたのに、もう臭い。そこに、さらにタバコの臭いが混じる。そこでティッシュを取り出して拭いたけど手まで臭っていた。

「ちょっと体臭きつくない？」

　女は言った。

「ワキガでしょ？」事実だけど、はっきり言われるとショックだった。

「デオドラントつけて来るから待って」

　俺は彼女の体をどかして立ち上がった。

　そしたら、彼女は「ワキガとかあり得ない。まじで無理」と言って立ち上がった。まだタバコを吸っていた。やばい帰ってしまう・・・。

　女は俺の横を通り過ぎようとした。

「待てよ！」

　俺はかっとなって女の髪を引っ張った。すると、そいつは滑って、むしろ向きに転倒してしまった。頭を強く打ったみたいで、そのまま気を失った。フローリングの床で頭を打つくらい大したことない。だから俺は寝ている間に済ませてしまった。もしかして、目が覚めた後も、気が付かないかもしれない。

　これはもう時効だからいいだろう。

　俺は彼女を抱きかかえて、近所の公園に捨てに行った。外だったら置き去りにできるが、自分の部屋だったからだ。俺のすぐ家の近くにはちょうどよく児童公園があった。ブランコと砂場とちょっと腰掛けるだけの遊具がある小さな公園だ。昼間は小さい子や小学生がいるけど、夜は得体の知れないおじさんが座っている。

　俺は彼女をベンチに座らせて、近くにチューハイの缶を開けて置いておいた。酔っ払いに見せかけるためだ。女は目が覚めたら騒ぐだろうか？俺の予想では別の人にもう一回やられて、結局、犯人が誰かわからないという展開だった。遊んでる感じだし、騒がないで帰るだろう。

＊＊＊

　次の日、俺の所に警察が来た。俺は彼女が俺が汗臭いからと言って、怒って帰って行ったと話した。スマホに俺とのやり取りが残っていたから、聞きに来たようだ。俺はLineのやり取りを見られているから、お互い合意があったと隠さずに伝えた。

　彼女はあの後、公園で何者かに殺害されたようだ。

　うちにいた時、すでに亡くなっていたのか、致命的な傷を負ったのかはわからない。・・・・いや、そんなはずはない。フローリングで頭を打ったくらいでは死なない。前に医者から聞いたことがある。

　俺は彼女とそういう行為をしたけど、すぐ帰ってしまったとだけ言った。それから、しばらくして犯人として外国人が逮捕された。バングラデシュから出稼ぎに来ていた男だ。ずっと無罪を主張しているらしい。俺は彼の裁判を傍聴したことがあるが、彼が無抵抗の女性に襲い掛かったのは間違いなかった。

　しかし、彼女は眼を覚まさなかったし、そのまま立ち去ったと彼は訴えていた。第三の男がいるんだろうか？

　なぜこんな展開になったのか不思議でならない。

　彼女がタバコを吸っていたせいで、俺の体臭がきつくなって、それで彼女が怒って帰ろうとして・・・彼女は亡くなってしまった。

　一体、誰が悪いんだろうか？

　タバコ？

　彼女自身？

　公園で彼女を殺害した人？

　少なくとも俺じゃない・・・。

　だって、俺は何の罪にも問われないからだ。