新・或る桃太郎と鬼

古木しき

新・或る桃太郎と鬼

 むかしむかしある人里離れた郊外の一軒家におじいさんとおばあさんがいました。

おじいさんとおばあさんは毎度、芝刈りに行くか洗濯をするのを交代制にしていました。今回はおじいさんが山へ行き、おばあさんは洗濯をすることになりました。


 おばあさんは川で洗濯をすると環境汚染になると考え、川辺で大きな桶で洗濯をしていると、川の上流から桃がどんぶらっこっこと流れてくるではありませんか。

 おばあさんはきっと上流の人がこの桃を落としてしまったに違いない、と考えて網を使って岸へ回収しました。


 おばあさんは困って、まずお巡りさんに相談すべきかと考え、問い合わせたところ、桃が紛失したという届け出は出ていないそうで、恐らく不法投棄されたものだと断定されました。おばあさんは仕方なく、この大きな桃を担いで家へと帰りました。


 山から帰ってきたおじいさんは驚きました。

「こんなにも大きい桃は見たことがない!」


 しかし、おじいさんは考え込みます。

「はたして誰かが育てたであろうこんなにもいい桃を勝手に食べても大丈夫なのだろうか・・・…」


 おばあさんも悩みます。

「でもお巡りさんは好きにしていいと仰っておりましたよ」

「お巡りさんが言うなら仕方ねえや。ささっ切って食べようじゃないか」


 おじいさんが包丁で大きな桃を縦から切り始めると、

「おぎゃあおぎゃあ」

と声がするではありませんか。


 おじいさんは包丁を落っことし、桃から離れました。

「たまげた。まさか桃の中に赤ん坊が入っているとは……」


 おじいさんとおばあさんはまず役所や関係機関に行って話し合った結果、この赤ん坊を引き取ることになりました。


「名前はどうしようか。桃から生まれたから桃太郎とはいいんじゃないだろうか」

「いいじゃない。桃太郎にしましょう」


 こうして桃太郎はすくすくと育っていき、勉学や武道に励みつつもおじいさんおばあさんの畑の世話の手伝いもして3人は仲良く過ごしていました。



 ある日のこと、村人からのこのような話を聞きます。

「最近、隣村やあちこちの村で鬼が強奪をしていっているという噂が広がっているようだ」

 その話を聞いた桃太郎とおじいさんは考えます。

「それは噂であって実際は違うのではないのではないんじゃないか? だいいち私たちはその話は聞いたこともない」

 村人は、

「いや、本当らしいんだ。現に困っている人もいる。その鬼たちは海の向こう側に見える鬼ヶ島と呼ばれるところに住んでいるらしい」

 桃太郎は考えます。そして、立ち上がり、

「おじいさん、おばあさん、私は鬼ヶ島に行きます!」

 おじいさんおばあさんは慌てて、

「無謀なことをするでない桃太郎や。鬼の本拠地に乗り込んでどうするつもりなんじゃ」


 桃太郎は、

「私は血を見たくない。鬼と交渉をしてまいります」

 その言葉に感銘を受けたおじいさんおばあさんは涙を流した。そして、おばあさんはきび団子を作り、道中でお腹が空いたら食べなさいとそのきび団子を桃太郎に渡しました。


「ありがとう。おばあさん。おじいさん。では行ってまいります!」



 桃太郎は道中、一匹の犬が現れました。

「あなた、そのお腰につけたきび団子を一ついただけないでしょうか。もう数日も食べてなくて腹ペコで……もちろん、お返しはいたします」


 桃太郎は快諾し、犬にきび団子をあげました。

「ところで、桃太郎さんっと言いましたか、いったいどこに行くおつもりなのでしょうか?」

「鬼ヶ島へ行くんだ」


 犬は驚きます。

「なんと! 鬼ヶ島は危険です! 鬼は屈強な者揃いで乱暴者と聞きます」


 桃太郎は、

「いや、自分の目で見て確かめてみないとわからない。あくまで噂の範囲だ。何かの勘違いでデマが広がっているようにも思えるんだ」

 犬はそれを聞き、

「私もついていきます。あれは何かの誤解かもしれません。それを私もこの目で確かめたい」

 こうして犬は桃太郎についていくことになった。


 その後も空腹な猿とキジにも道中で出会い、きび団子を差し出し、経緯を話して両者とも桃太郎についていくことになりました。


 鬼ヶ島は本土とは別に独立国家であり、昔から独自の文化風俗が発展している国と言われていました。


 さて、鬼ヶ島が見える岸の船着き場で一艘をレンタルし、桃太郎たちは鬼ヶ島へ目指しました。


 鬼ヶ島はイメージとは違い、花や草木が生い茂る豊かな島でした。

 桃太郎たちは鬼ヶ島の鬼が住んでいる城の門を叩いた。

「私は本土の使者、桃太郎である。鬼の頭領と話し合いをしにきた!」

 門番の鬼は困惑した顔で、

「あの、事前連絡……アポはとってきたでしょうか?」

「いえ、してません」

 門番の鬼は皿に困った顔をしつつ、

「とりあえず上の方に聞いてまいります」

 そうすると門番の鬼は足早に城の奥へと向かっていきました。


 そしてすぐにもう一人の鬼がやって来ました

「あなたが本土の使者ですか。アポなしは困りますが、首長が特別に良いと申しておられましたので、どうぞお入りください」


 桃太郎は鬼に先導され、鬼の首長がいる部屋に通されるかと思いきや、広い会議室でした。そこには既に鬼の首長と付き人、大臣のような鬼も揃っております。

「ようこそ。いらっしゃいました。あなたが本土の使者の桃太郎殿ですね?」

 鬼の首長は温和な表情で桃太郎たちを出迎えた。

「早速ですが、この度あなた方はどのようなご用件でご訪問されたのでしょうか?」

 桃太郎は今まで想像していた鬼の印象とは全く違っていて、服装もしっかりとして聡明に見えるのです。とても野蛮で村を荒らしているとは思えず、やはり、あれはデマだったのは……と桃太郎は考えこみました。

「鬼の首長、私たちが来た目的は最近我々本土の村などから略奪など悪逆非道を繰り返しているという話を聞いて確かめに来たのです」


 鬼の首長は悩ましい顔をしました。

「その話は我々の耳にも聞いております。全くの嘘です。我々は工業産業を中心に発展してきており、本土とは食料等との交換を条件に貿易を行っています。そのたちの悪い噂は本土での我々鬼の気に言わない方々が吹聴したものだと考えております。このことにより、貿易拒否をされたりと我々として大変由々しき事態であり、まことに遺憾であると思っております」


 桃太郎は驚いて、

「……ということは鬼が私たちの土地で悪さをしているというのは全くの嘘で、むしろ私たちの誰かの仕業により、貿易産業を妨害しているということなんですね」

「はい……」

 会議室で鬼の首長らと桃太郎たちは皆して頭を抱え、幾分が経ちました。


 沈黙の中、桃太郎が口火を切り出しはじめました。

「関係回復のためにも、私が本土へ戻って誤解を解き、デマを流した犯人を捕まえることが大事ですね。私はこのように鬼の皆さんとお話をするまで大きな誤解をしておりました。必ずや、関係改善をして正しい国交を結びましょう」

「ありがとうございます……。あなたは恩人です。英雄です……」

 鬼の首長は涙を流し、桃太郎と熱い握手を交わしました。

 鬼の首長は覚書をしたため、桃太郎に渡しました。


 帰り際、鬼からせめてものと鬼ヶ島で作られている工芸品や金銀財宝を桃太郎たちに渡し、海沿いで桃太郎を乗せた船が見えなくなるまで鬼たちは手を振っていました。


 さて、本土に帰ってきた桃太郎たちはこの事実を話し、村人たちは大いに驚きました。疑う者もおりましたが、桃太郎の住む国の殿様に鬼の覚書と金銀財宝を献上したところ、殿様はすぐさま、鬼ヶ島との国交回復とデマを流した者をひっ捕らえるよう命じました。


 幾日が過ぎ、デマを流した犯人も捕まり、取り調べによると村を荒らし略奪行為をしていたのはその人だったということが分かりました。


 こうして、桃太郎たち本土の人たちと鬼たちは互いを認め合い、正常な国交を結び、貿易産業で大きく発展をしたといいます。


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