第15話実戦_青い空


銃口に吸いつくワタシの視線。


奴が、ゆっくり銃口を持ち上げる。

絶望に覆われ目を閉じるワタシ。


次の瞬間、小さな音。


「ぎゃっ」


奴の声?

ワタシは?


撃たれてない?

思わず目を見開く。


目の前で、奴が腕を押さえて蹲る。


背中から革靴で駆けてくる足音。

ワタシは、呆然自失。


奴が、再び立ち上がる。

銃を持ち替え、もう一度、構える。


ワタシは、後ろから抱きすくめられる。

誰かと、そのまま前に倒れこむ。


ワタシは仰向け。

が、地面を感じない。


誰かが、ワタシの下敷きになっている。


奴が、倒れ込んだワタシを跨ぐ。


誰かの上で、バスローブを開けているワタシ。


奴が、左手でワタシに銃口を向ける。


空が青い。

何故か、そんなことに気がいく。

目の前のことが、どうでもよくなっている。


奴が笑う。

ゆっくり指を動かす。


全てをスローモーションに感じているワタシ。


耳元で、また小さな音がする。


奴が銃を落として、腕を押さえる。


キャミソールのお腹に銃が落ちる。

不意の重みと痛みに咳き込む。


「ングゥ…フォへッ…」


奴が、ワタシから離れていく。

両腕を、だらりと垂らしたまま。


事態を飲み込めないワタシ。

まだ、青い空を見ている。


「そろそろ、いいかな、立てるかい?」


身体の下から、懐かしい声がする。


知らずに涙がこぼれる。

立ち上がらずに、身を捩って振り返る。


彼が、そこにいる。


思わず、胸に顔を埋める。

声を押し殺して、泣きじゃくるワタシ。


「うっ」


彼が呻く。


ハッとして、顔を上げる。


彼の肩のあたり。

上着とシャツが、赤黒く染まっている。


慌てて彼の上から降りる。

地面に座りこむワタシ。

ショーツだけのお尻が、ひんやりする。


開けるバスローブも気にせず、彼を覗き込む。


彼が、上体を起こして微笑む。


「かすり傷だ、心配しないで」

「…ワタシの…所為で…」

「その格好で、イーヴンにしよう、手を貸して」


彼が、赤黒い染みのない方の手を差し出す。


ワタシは、右手でその手をとる。

立ち上がりながら、一緒に彼を立たせる。


立ち上がる彼に、両手とバスローブを押さえられる。


「しばらく、眺めていたいな」


そう言ってウィンクする彼。


「…意地悪っ」


涙目で笑いながら、ワタシが応える。


いつの間にか、黒塗りの車が、滑るように横に止まる。

ドアが開けられる。


彼がワタシを促す。


が、バスローブの前を気にするワタシ。


彼が気を遣い、ワタシを庇うようにして乗り込む。


安心感に包まれ、車が発進する。


「きてくれたのね、ありがとう」

「ああ」


とだけ、ワタシの言葉に、ぶっきらぼうに応える彼。


さっきまで見せていた悪戯な表情。


微塵も感じられない。

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