夜のモンブラン
猫野ぽち
わたしの至福
今、わたしは、重大な危機に瀕している。
ひっそりと夜風が吹く午後11時30分。冷蔵庫の中にあるのだ。大切に取っておいたコンビニのモンブランが。
はぁ、と切ないため息が溢れ出る。
この夜中にモンブランを食べるとどうなってしまうのだろうか。ダイエット中だというのに…。
「夜中に食べたら太るから絶対ダメ!」
と、念を押して聞かされた母の言葉が頭の中でぐるぐる回る。
たしかに夜中に食べたら太ってしまうけれど、食べたい時に食べることが一番幸せなんだよなぁ…。
でも、そうしてしまえば、いつもよりちょっとヘルシーだった今日の料理が無駄になってしまう。
悶々と考えるうちにもう11時45分。
"喉から手が出るほど欲しい"とはこのことかと少し自嘲気味に笑えてしまった。
しかし、日が経ってしぼんでしまったスポンジケーキみたいに理性はどんどん小さくなる。
どうすればこの食欲、もといモンブラン欲を対処できるのだろうか。
誰もいないリビングで思いついた方法は3つ。
1つ目は、もう歯を磨いてしまうことだ。
そうすれば後は寝るだけ。お腹の悲鳴に耳を塞いで無理やり瞼を閉じればいいのだ。
2つ目は、動画を見たり、ゲームをしたりして意識を他に向けること。そうすればモンブランのことなんて忘れてしまえるかもしれない。
3つ目は、カロリーの低いものでお腹をみたすことだ。家の冷蔵庫には、この前スーパーで割引されていたカロリーゼロのゼリーが潜んでいることだろう。
1つ目の方法は最も合理的だ。
でも残念ながら、その方法は、チロルチョコサイズになってしまったわたしの理性が批判の声を上げている。
そこで、わたしは2つ目の方法を試してみることにした。手元にあるスマホを取って、YouTubeでおすすめに上がっている動画を開く。
すると流れてきた広告は、美味しそうな料理の宣伝だった。
「うぅ〜。」
とみっともない声が口から漏れる。
なぜよりによって食べものの広告なのか。
仕方なく動画を閉じた。
残るは3つ目の方法しかない。
冷蔵庫の前に立って、いつものこげ茶色の扉を開く。ゼリーを探すつもり…だったのに、私の目線は冷蔵庫の一番上の棚の少し大きなパッケージ。
好物の栗が乗った大きなモンブランに釘付けだった。
1粒の砂糖のカケラほどの大きさになってしまった理性では、もう抗えない。
モンブランと緑茶とフォークを並べて準備万端。
12時にやっとありついた、ありついてしまったモンブランは至福だった。
サクサクのメレンゲ生地に、マロンクリーム、そしてビスキュイ生地とてっぺんを飾る大きな栗がわたしの最高値の幸せを構築する。
たまにはこんな日があってもいいじゃないか。
夜中に脂肪がたっぷりと付くだろうけど、この幸せと引き換えなら仕方ない。
今日は少しの罪悪感と幸福感に包まれながら眠ることにしよう。
夜のモンブラン 猫野ぽち @temi_1409
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