第3話 ファミレスと嫌な思い出

学校の帰り道によくファミレス店で友人たちと和気藹々と話す。これが誰もが思い描く学園生活なのではないだろうか。俺が好きなライトノベルなんかも楽しく女の子達とキャッキャウフフなやりとりが繰り広げれており、いつかそんな学園生活が送りたいと考えていた。

ファミレスの店内は陽気な音楽がかかっており、学校帰りの学生たちが楽しそうに話している。そんな中、異様な組み合わせの二人がいた。片方は金色の綺麗な髪の先はくるっと巻かれている。少し開かれた胸元には学校指定のリボンはされていない。何回か折られているであろう赤と黒のチェックのスカートからは長くしなやかな脚が交錯しており思わず目が行ってしまう。そして、印象的なのは目がくりっと大きいのだが、その目が限界まで縮められており、不機嫌な顔をし、腕を組んでいる。もう片方は、顔が蒼白しており、蛇に睨まれたカエルのようにキョロキョロと目が泳いでいる。どこにでもいそうな出で立ち。そう俺だ。この違和感しか感じさせないアンハッピーセットの二人の空気だけが鉛のように重い。俺が描いていたライトノベルの展開のような場面だが関係性が最悪だ。早く帰りたい。俺は心の中で何度も呟いた。

「金城美香。あんたは?」

「一宮秀…です」

「一宮ね、あんたさ」

ヒヤリと冷たい口調で言葉を発する。俺に向かって突き刺すような目線を向けてくる。

「昼休み屋上にたよね」

俺は思わず、ビクっと体が反応してしまう。やはりバレていた。俺は、空っぽの頭でどうにか言い訳を捻り出そうとする。

「いや、人違いじゃあ…」

「あんたでしょ」

俺の言葉を遮って、金城は詰め寄る。側から見れば、刑事が容疑者に取り調べを受けているようだった。

「屋上で、私たちのやりとり見てたよね。

あのこと周りに言わないで。あんたあんまり友達居なそうだけど」

俺は、予想外の答えに面をくらった。てっきりパンツの件について、慰謝料請求されるのかとビクビクしていたが、自分が周りから虐められていることを知られるのが嫌だったのか。ギャルはプライドが高く、高圧的で下だなと思っている奴にはとことん見下す存在だ。俺みたいな陰キャにグループで省かれているということを知られるのが嫌だったのだろう。


「そうゆうことね。分かった。お前の言う通り俺は学校で話す友人はいないし誰かにペラペラ話す趣味もない。S N Sで呟く気もない。安心しろ」

「急にクールぶっててキモ。話したら私はあんたがパンツを覗き見したこと。叫んだことみんなにバラすから」

結局バレていたのかと絶望が押し寄せてくる。ギャルはそんな俺を横目に、荷物を持って徐に立ち上がり「あ、ここあんたが出しておいて」言い去って言った。

そこには、領収証と上の空になった俺が取り残されていた。



あの一件から数日が経った。屋上にはあれ以来、近づくことがなくなり、金城と会う機会は減っていた。学校には慣れ、休み時間は教室の外に出ることが多くなった。校舎と校舎の間の中庭のベンチに座っていた。柔らかな風が通り抜けていき、心を和ませてくれる。日陰者の俺にとっては絶好の穴場スポットだった。俺は、外が好きなわけではない。どちらかと言えば嫌いだ。なぜ、ここにいるかと言えばある深刻な問題にぶち当たっていた。

コミュニケーションが取れない!異世界での俺は、今の世界のアイドルや俳優たちにも引けを取らないようなモテっぷりだった。道を歩けば、求婚されるような人生だった。その弊害が顕著に出ている。この三年間ほとんど相手から話しかけられてきたのだ。自発的に話すことができなあ。明日は話そう。明日は話そうと思いながらヅルヅルと数日が経っていた。

俺は、空を見上げ、ため息をつく。

教室に戻ろうとした時だった。校舎の裏の方からうめき声が聞こえる。

嫌な予感がし、足音を立てずにうめき声がする方に近づいた。

「おい、早くどっちか選べよ!金出すか。殴られるか」

バレないように覗きこむ。するとそこには、正座をさせられている男子生徒と三人の体格のいいヤンキーがいる。一人は、腰をかがめ、正座している男子生徒の髪を掴んですごんでいた。金髪のオールバックでほとんど眉毛がない。

男子生徒は、ごめんなさいごめんなさいと謝り、財布を取り出す。それを受け取ると、

悪りぃ悪りぃと掴んでいる髪を離した。しかし、お腹を蹴り上げる。

「三千円しか入ってねえじゃねえかよ!明日、三万持ってこいよ」

上からゴスゴスと踏みつけている。悲痛な叫びだけが俺の脳内に入ってくる。

俺は、体を動かそうにも動けなかった。

俺は既視感に襲われていった。嫌な思い出が蘇る。ああ、これは思い出したくない記憶だ。

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異世界帰りの勇者。前世ではモテすぎたので現世へ帰還 比嘉君人 @hikakimito3

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