第2話 金髪ギャルに出会う

異世界から戻ってきた俺は、今初めて「いじめ」というものに出くわしていた。異世界では、魔王を倒すのに奮闘していたために世の常である「いじめ」には縁遠いものだった。「いじめ」は、一定の人間関係のあるものから、身体的、心理的な攻撃を受けることだそうだ。俺は、中学までは二次元に没頭していたために周りのことを一切気にしていなかったが、周りで起こっていたのだろう。


「最近、調子乗りすぎじゃね?美香」

金髪のギャルを三人のギャルが取り囲んでいた。仲間割れか。俺は、覗き見ながら状況を把握する。

要するに、金髪ギャルの付き合いが悪いのか三人のうちの好きな男が金髪ギャルのことが好きとかそんなところだろう。

女子のグループは大抵足並みを揃えないものには厳しい。それはどこの世界でもそうだろう。一人の悪口を言えば、それに同意しないといけないし、悪口を一緒に言わないと爪弾きにされる。まあこれは、ネットの知識で知り合いの女の子に聞いたわけでもないが。


「別に、調子に乗ってない。私は、二浦先輩は好きじゃないだけ。

あの人は私のタイプじゃないだけだよ。」

金髪ギャルは立ち上がり、言い返した。思っているよりも声が高く、透き通る声だが震えている。

すると、三人のうち一人の青髪のギャルが声を上げて泣き出した。それを宥めるように黒髪のギャルが背中を摩った。

「琴音のことちゃんと考えてやりなよ!二浦先輩の事好きだって言っていたのに。

ひどい振り方をするなんて最低だね」

赤髪のリーダらしきギャルが前に出て声を張り上げて言う。


俺は、うつ伏せになりながら給水塔の上でそのやりとりを見つめた。二浦先輩はギャルたちにとって憧れの存在なのだろう。二浦のことが好きな青髪のギャル。二浦は金髪ギャルが好き。金髪ギャルはどうでもいい。恋の一方通行ってやつなのか。二浦先輩が好きなら喜べばいいのにそれは違うのかと頭を悩ませる。野次馬根性で見ていると、赤髪のギャルが手を振り上げる。あっと思い立ち上がる。

可愛い女子同士殴り合うなんて馬鹿なことを止めようとした。

すると、天の悪戯なのか俺に向けた恵みなのか屋上に大きな風が吹き、スカートをめくり上げた。3人のギャルは一斉にスカートを必死に押さえたが金髪ギャルは自分この時、俺は同級生のパンツなるものを初めて見ることになった。赤色のパンツだった。異世界ではパンツという概念は貴族階級にしか許されていなかったのだ。当然、異世界では女性の裸を見たことはあるもののパンツを拝む機会は俺にはなかった。

「赤色のパンツだあ!!」

俺は、叫んでいてしまっていた。芸能人を見かけたら、思わず叫んでしまう感覚と近かった。俺に時を戻す能力さえ残っていたなら、いち早く決断し、時を数秒前に戻すことを実行していただろう。そんな、もしものことを考えながら俺は自分のしてしまった重大さに後悔の念を抱いていた。学校で、パンツと叫ぶこと自体が憚られる行為なのに、それをギャルたちの目の前で行ってしまったのだ。一番やってはいけない行為だ。

俺は、ギャルたちが呆気に取られている隙に、ギャルたちとは反対方向に飛び上がる。そして壁を伝い、校舎の間の中庭庭の木まで飛び移る。そして、降り立った。

周りに誰もいないことを確認するとホッとする。そして、自分の行動に冷や汗をかいていた。異世界から帰ってきて、自分の能力を試す機会がなかった。校舎の屋上から壁を伝いながらとはいえ、自分の能力を把握もせずにした行為は愚かなことだ。

「まあ、誰にも見られていなくてよかった」

安堵するのも束の間、重大なことに気がつく。顔を見られたかどうかということだ。一瞬とはいえ男子にパンツだと叫ばれた経験がある女子は皆無だろう。そんな圧倒的に嫌なことをした相手は忘れるはずもない。

俺は俯きながら教室に向かうために階段を早足で登っていく。後悔と恥ずかしさが同時に襲いかかってきていた。


教室は、3階の一番奥の教室だった。まだ授業じゃないせいか廊下には何人かの生徒が座っていたり、立って話していたりしている。それをその隙間を縫うように俺は教室に入った。1年3組。自分の教室を再度確認すると窓際の一番後ろにある自分の席に座り、突っ伏した。机が太陽の光が吸収して熱くなっている。その熱さで誤魔化すように自分の頬にすりつける。金髪ギャルを助けようと声を発そうとしたのは事実だ。しかし、自分は自分の欲に負け、パンツと叫んでしまっている。異世界から帰ってきて普通の女子たちと楽しい楽しい学生ライフを送るはずが変態のレッテルを貼られかねない。


学校のチャイムがなり、教室に生徒が雪崩れ込み始める。そうだ。この学校には、三学年合計千人のマンモス校だ。そうなると、俺を見つけることは至難の技だ。きっと大丈夫な…ハズだ。俺は、教科書を開きノートを開く。そんなことよりも俺は、一ヶ月も穴を開けていたんだ。取り返さないと。俺は忘れるかのように授業に入れ込んだ。

ホームルームが終わり、何事もなかったかのように俺は帰宅しようとしている。教室では、部活をするであろうメンバーが颯爽と荷物を出て走り去っていっている。それを俺は横目に校門へ向かう。今日は、家には俺がずっと読みこがれていたライトノベル達が待っているのだ。異世界から帰ってきてからまだ読めていないものが山ほどある。俺はその使命感に駆られながら、スキップで校門をでた。

「ちょっと」

どこかで聞いたような澄み切ったような声とは裏腹に殺気を感じるような意思が感じられるようだった。俺は壊れたロボットのようにカクカクと首を横に動かす。するとそこには、昼休みの金髪ギャルがキーホルダーがジャラジャラついたカバンを後ろに携えながらそこにはいた。俺は、自分の顔が蒼白していくのを感じる。

「あんた。ちょっと付き合いなさいよ」

大きな瞳がこれでもかというほど細くなり、般若のような顔になる。これはもう、般若のお面をかぶっているのと等しいようなそんなご尊顔だった。

「は‥はい」

俺は小さくうなずき、金髪ギャルの後をついていく。正直俺のダムは決壊してしまいそうだった。

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