異世界帰りの勇者。前世ではモテすぎたので現世へ帰還

比嘉君人

第1話

ゴールデンウィークが過ぎ、ジワジワと夏が近づいている頃、俺は現代に帰ってきていた。昼休みの教室は、蒸し暑さと訳のわからない遊びをしている同級生の声でうんざりしている。前の世界は、気温変動があまり無く、20度前後だった。今の気温にはまだ慣れず、頬から汗が流れる。うだるような暑さに嫌気が差していた俺は、逃げるように屋上へと向かう。屋上に続く階段には机が並べられ、バリケードが作られていた。ここは通るなってことだろうが、ルールを制定されたら破るのが人間だ。人一人分が通れそうな隙間を見つけて体をよじりながら通り、階段を上がる。そして重い扉をぐっと押す。教室くらいの大きさの屋上はガランとしていた。

「入学式以来だな。ここは」

屋上の柵に手をかける。俺は一ヶ月前、高校の入学式当日にこの屋上にやってきた。入学式が始まる前は、誰も知らない状況だ。そんな時、俺はひとりになれる場所を探す。俺は今日と同じ要領で屋上に出た。前と変わらずに風が吹いている。

俺は、この柵の前に立っていると突然、大きな光に包まれた。異世界転生と言えば、トラックに突っ込まれ、転生するのが通例だと思っていた。だが、俺の場合は違っていたようだ。そんなことを考えながら、真っ暗な部屋の中に俺は移動させられる。すると、全身光っている真っ白の女神が目の前に現れた。別次元の美しさを持つ容姿そして、能力を渡す代わりに世界を救ってくれと頼まれた。そして、救った暁にはなんでも一つ願いを叶えると。俺は、最強の能力7つを手に異世界に出た。

どんな相手が来てもバッタバッタとなぎ倒し、俺はついに魔王を倒した。世界を救った。

世界の人々には称賛され、魔王軍の残党達や、悪党からは畏怖される。

俺の名は世界を駆け廻り、そして一躍モテモテになった。なってしまった。

俺も、将来の夢の一つに女の子にモテモテになることを一度は願った。というか、大体の男はそう思うはずだ。女の子囲まれて、チヤホヤされたいと。俺も、一般高校生だった身だ。それは当然思った。

だが、モテるという行為は、自分では強弱がつけられない。自分の思っている以上のモテ期の到来が俺に襲い掛かった。

魔王を倒し、王都に帰って表彰を受けた後もそうだ。お姫様に大臣の娘、伯爵の妹に、歌姫。だけだったらよかった。居酒屋の看板娘、傭兵に山賊などなど。数えたらきりがない女の子からのアプローチ。またや、エルフやドアーフ。亜人族からも求婚を迫られる。もちろん美人だと思う人からあまり好みでない人まで様々だ。最初の頃は、モテるということから縁遠い俺だ。顔がニヤけて、どもどもと手紙を受け取り、ご飯を一緒に食べたり、デートをしたりしたものだ。しかし、それがどんどんエスカレートしていき、浴場には知らない女の人が欲情していたり、寝ようと寝室に行くとすると知らない女の人達が裸一貫で待っている。ロープで縛られ、集団で襲い掛かられた時なんかは、泣き叫んでしまった。

モテるという事は、俺は想像しているものはかけ離れているものだった。モテるということ、求められることはこんなに大変なものなのか。転移してもその先には女性が待っている。俺はノイローゼになってしまうほど悩んでいた。そして俺は、女神と世界を救えば一つ願いを叶えるという約束を思い出し、女神に愛におくことを決めた。

「世界を救ったけど、こんな世界になるとは思っていなかった!女の人は老若男女問わず俺に襲いかかってくるし。魔物たちは殺せるが、女子供には手出しできないし。どこに行っても俺が休まる場所がない!」

俺は、膝を叩きながら、涙目を浮かべ、女神に口を溢す。魔王城の前で野宿した時の方がよっぽどマシだった。この世界に安寧の地はない。

女神はその話をどうでも良さそうな顔をしながら頬杖をついている。

「モテるならそれでいいじゃない。

前の世界では全然モテない童貞アニメオタクだったくせに。

今はすっかり立派な勇者。英雄様じゃない。

パパッと済ませちゃえば〜。世界は変わるわよ。順応しなさい世界と」

世界を救ったからか最初と会った時と比べ投げやりだ。対応が全然違うじゃないか。

買わないと知ったら突然愛想がなくなる定員かお前は。

世界を救った俺に対して扱い雑すぎないか。この女神。

俺は、捲し立てながら話す。

「俺が望んでた形じゃないんだよ!なんかこうもっとあるじゃないか。

助けた女の子と恋に落ちたり。

世話をすごく焼く幼なじみの女の子と付かず離れずの関係だったりとかさ。

もっとこう恋愛したいんだよ。

恋愛経験ないのにいきなり卒業しちゃったら後悔する絶対!」

俺は、前の世界の漫画やアニメのあのキュンとしたシチュエーションでの恋愛を求めていた。俺以外の女性とのリアル鬼ごっこがしたいわけじゃない。もう、女性が追いかけてくるのは、トラウマになりかけている。

「じゃあ、現世に帰ったらいいじゃない。もうここにいるの嫌なんでしょ」

アホらしそうに右斜めを見つめている。

「帰れるのか?前の世界に」

「帰れるわ。最初にあなたに言ったじゃない。世界を救ったら、なんでも一つ願いを叶えるって。元の世界に帰りたいなら帰るといいわ。もうこの世界は救ってもらったし」

それは願ってもない話だった。この1ヶ月間ろくに眠れていない。一刻も早く安全な地帯で眠りにつきたかった。

「じゃあ、早く元の世界に返してくれ。元の世界で気長に生きたい」

「いいでしょう。まあ、あなたにはこの世界を救ってもらった恩もありますから。

特別に今の力を元の世界でも使えるようにしましょう」

それは、それで困る。俺の力は核兵器に匹敵するほどの力だ。そんな力を持って、元の世界に帰ったら各国の首脳たちとハーレムになってしまう。

「いやいや!!それはいい!能力を最小限に抑えてくれないか」

「わかったわ。ただし、10分1までしか抑えることができないから。それだけは覚えておいて」

「わかった」

「では、元の世界へ」

すると俺の体から光が発し、周りが光に包み込まれる。気がつけば家の目の前にいた。


母さんから聞いた話だと俺は、学校へ行ったきり、一ヶ月もの間行方不明だったらしい。

海外へ転勤している母さんの元へ警察から連絡が入っていたらしい。俺が家のドアを開けて中に入った途端、顔がぐにゃっと歪んだかと思うくらい綺麗に入り、俺は半回転した。

異世界では、こんなにまともに攻撃を受けていなかったので激痛が走る。俺は世界を救ったのになんでこんな仕打ちなんだと涙目になりながらも、母さんの立場に立って考えるとその気持ちも失せた。


一週間が経過し、母さんは海外に戻り、俺はまた前の生活に戻った。そして現在に至るわけだ。そんな長い回想をしながら、メロンパンを口にしていた。

入学してからの一ヶ月間間が空いたのは痛かった。もうグループは形成され、ぼっちになってしまっている。

「帰ってくるんじゃなかったな」

ぐっすり眠れるようにはなったが、友人がいないこの状況は寂しいものがある。俺は黄昏ていると、ドア越しに人の気配がする。誰かが来ることを察知すると急いで給水タンクに飛び乗った。

「やめて。やめてよ」

黄色い悲鳴が屋上に響く。金色の髪をガシッと掴まれていた。

「お前調子に乗ってんじゃねえぞ!」

女の声だがドスがきいている。おそるおそる覗くとそこには倒れている金髪のギャルと仁王立ちしているカラフルな髪の女子たちがいた。

「これ、いじめってやつか」

俺は、復帰早々いじめの現場に立ち会っていた。

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