妙案

「ではこうしよう。わしがこの辺一体に河には恐ろしい妖怪が住むゆえに近づかぬ様にふれまわるというのはどうじゃ?」


「……たしかにそれは妙案でございます、しかし妖怪などとふれまわって妖怪退治の類いが近づいてこぬものでしょうか?」


「いやいや、噂さえ立てばあの……まぁ、姿を見て腰を抜かさぬ者はおるまい」


「……そうでしょうか?」


「そうだ。河で泳ぐものを水中に引きずり込むというのはどうじゃ?恐ろしかろう?」


「たしかに、おそろしげでございますね。あと群れをなして住んでいるというのはどうでしょう?」


「おお!それはいい!一人みつけたら百はいると云うふれこみにしようか?」


男と女は一晩中そんな密談をしながら世を明かした。


びちゃっ


突然、閉められた障子の向こうで何かが叩きつけられた様な音がした。


男がギョッとして声をひそめると女はクスクスと笑った。


「わらしでございます」


「なんと、こんな夜中にも起きとるのか?」


「はい、たぶん魚を届けてくれたのでしょう私を気遣って届けてくれるのです」


女の目はまさに子供の孝行に悦びを隠せないそれであった。


「なるほど。二人の事はだれにも云わぬ。ここには河のわっぱという妖怪が住むと言いふらす事にしよう」


「よしなに」


「ところで……わしはたまに来てもよいかな?」


「……それは是非もなく」


そういって女はすこし顔を赤らめた。

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異形 ハイブリッジ万生 @daiki763

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