第6話 野良犬達も飼い慣らされた

 我が社の社風、特に地方支社の社風として、特筆すべき点としては、


 大分昔、地方採用により、大卒エリートよりも人間力を備え持った優秀な高校出の若者が採用されていた。


 それらの者は正に雑草魂の固まりであり、18歳からといった早い段階で社会の壁を叩き、淀む事なく仕事に熟知し、


 学歴だけのエリート共に対し、実力主義の牙を剥き出しに対抗していた。


 其れ等、言わば地方の野良犬達は、中央本社に尻尾を振ることはなく、臥薪嘗胆の志を共にした仲間と団結し、中央本社からの使者であるエリート支店長を下から突き上げるが如く、


 無用の指示には従うどころか、断固、正論を盾に反旗を翻す行動を率先して取っていた。


 そう、労働組合の幹部達である。


 中堅若手職員を中心にし、社員の福利厚生を目指し、無能の支店長や支店長代理を交渉の場で問答無用に論破していた。


 其れ等の野良犬達には出世欲もなく、上に媚びることもなく、反抗精神により、トップダウンの社内運営に対し、頑なに自身らの意志を保持し、立ち向かっていた。


 が、しかしだ…


 其れ等、野良犬達は、何故か、中堅から上のクラスになるに連れて、物を言わなくなって行くのである。


 我が社の社風


 若い時に元気の良い者達に限り、歳を取ると、要らぬことは一切言わないお利口さんに化てしまう…


 あれだけ、歯に物を着せずに、言いたいことを吠えていた野良犬達が、急に奥歯に物が詰まったように、言葉を選び出す。


 本社の巧妙な躾方策のせいか?


 いや、そうではないのだ。


『席が人を変える。』


 それに尽きる…


 ある日、偶然的に席取りゲームに勝った野良犬が、


 今まで家の外の犬小屋で寝起きしていたのが、温かい家の中で暮らし始める。


 すると、野良犬達はこう思う。


『もう外には出たくない。』と


『もう無理はしないでおこう。』と


『もう無闇に吠えるのはやめよう』と


 そう思うのである。


 次第に牙は口に隠して、御主人の躾にも従い、『お手』、『お座り』、『待て』の芸も覚えて行く。


 そうである。


 嘘のように、猛者たる強者から、聖人君子に化けてしまうのだ。


 そして、地方のトップの席取りゲームに参戦して行き、本社よりの考えに染まって行く。


 社内では無口になる。


 上に逆らうことはタブーとして、部下も抑える。

 

 本社は思う壺とばかしに、其れ等、野良犬達を飼い慣らし、ご褒美にエリートが空けた席を用意する。


 元野良犬達は、上の席に座れば座るほど、喋らなくなり、自身の本心を隠し、本社のマニュアルを充実に全うする。


 エリートのボンボン、腐れ切った屑の女にも忠実に従い、また、其れ等、本社の屑や無能な女が部下となっても、指導することはしない。


 無用なトラブルには決して首を突っ込まなくなる。


 隣の家が火事でもバケツに水を汲み駆けつけ、火を消そうとすることなく、マニュアル通り、通報のみして、避難する。


 そんな輩が時に油断して、こう宣う。


『若い時はなぁ~、血気盛んで、ダメなものはダメと言っていたよ!』


『俺ぐらいだよ、あの時、本社に楯突いてたのは!』


『おかしいことは、おかしい!と言わないとね!


 あっ、言い方は紳士的にね。


 今は直ぐにパワハラって言われちゃうからね~』


 おいおい!


 今がおかしな方向に向かっているのを知っていながら、寡黙を通し、保身に走るのか!元野良犬共よ!


 結局、自分が大事か?


 最後まで格好付けて、吠えまくれよ!


『ノーと言えない日本人』か、貴様らも…


 やってられるか!


 こんな会社!


 俺は愛想尽かして、おさらばしました!


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ペット・ドック ジョン・グレイディー @4165

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