第10話 エピローグ

 暫くして、マリンブルータワーに、数人の人間が尋ねてきた。

カイは、マリンブルータワーのリーダーとして彼らを出迎えた。

目の前には幼馴染の女性リンがいた。肩まで切りそろえられたサラサラの髪に、大きな瞳、整った顔のリンは、以前より美しくなったようだ。リンの隣にいるのは、カイを虐めた大柄な同級生のグロウだ。幼馴染のリンはカイを見て嬉しそうに駆け寄ってこようとする。グロウはリンの腕を引き止めた。


「あいつは、オーマになったはずだ。」


オーマになった事は、極秘事項として扱われる。知っているのは、申請した親族だけだ。もしくは親族を唆した役所に近い人間か。目の前の男は市長の息子だった。オーマ推進派の当時の市長は、オーマ化させる人間を探していなかっただろうか。何もかもが、グロウの策略だったのかもしれない。さわやかな笑顔に隠し、グロウがどれだけ残忍かを、カイはよく知っていた。


虐められたのも、、、


オーマにさせられたのも、、、



目の前のグロウが、、、




人間達は薄汚れていた。10人程の人間グループでここまでたどり着いたらしい。


グロウの隣にいる細身の男がカイへ言った。

「食料を分けてくれ。オーマがいなくなり、食べ物が手に入らない。なぜここにはそんなにたくさんの食べ物があるのだ。頼む。死んでしまう。」


カイは笑った。


「ハハハ。俺はオーマだ。散々見下してきたオーマから恵んでもらいたいのか?人間も落ちぶれたものだな。」


男は、顔を赤らめ怒りを堪えるように小刻みに震えている。


何千、何万人ものオーマの犠牲の上で、遊びながら暮らしてきた人間達が、いまさらオーマに泣きついてきている。


カイは、言った。

「自分で、取ればいい。作ればいい。探せばいい。オーマを見下し、労働力を搾取してきたお前達なら容易い事だろう。俺たちは人殺しじゃない。道具ぐらいは貸してやるよ。」


リンは、涙目でカイへ手を伸ばす。

「まって、カイ。ずっと貴方を探していたの。」



リンの白絹のような美しい手。


カイが虐められ、絶望している時に、カイを無視して見捨てたその手を、、、


あの時、どうしても欲しかった手を、今更カイへ伸ばしてくる。






カイは、リンへ向かって微笑んだ。







END「逃亡オーマ カイ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る