第8話 マリンブルータワー

イは、無事に両親の遺産を貸金庫から引き出した。両親は個人情報が厳重に保護された国際銀行を使用していた。この口座であれば、カイでも見つからずに利用できる。路上の大型スクリーンでは、世界中のオーマ強制労働工場で暴動が起きる画像が連続で流れていた。カイと同じように、前頭葉AI電気刺激装置から解放され逃げるオーマ達が表れたのだろう。


街は、混乱していた。働くオーマ達が暴動を起こし、店を開ける事ができない。物流を担っていたオーマ達がいなくなり、荷物が届かない。医療・福祉でさえ、オーマとAIが中心となっていた。


享楽に耽り、怠惰を満喫していた人間達が泣き叫び、怒りの声を発している。

自動調理器も、家事援助ロボットも、車の運転でさえオーマが操作していた。壊れた機械を治す方法を知る人間はもういないのかもしれない。


全てオーマにさせていたのだから。


カイは混乱する町を進み、マリンブルータワーに辿り着いた。マリンブルータワーは、文字を大きく表示させている。


オーマだけが使う機械言語で書かれたその文字を見てカイは笑った。


『ここへ集え。自分を取り戻したオーマ達よ。』



マリンブルータワーに入る。



入り口を抜けるとゲートがあった。備え付けられているカメラがカイを映し、瞳を確認する。


ピピピ



ゲートが自動で開かれる。



中を進んで行くと、広場に数十人の人物が集まっていた。


中央から一人の女性が、進み出てカイに近づいてくる。長く艶のある黒髪を後ろで一つに纏め、Tシャツとハーフパンツの20代の美しいその人の事をカイは覚えていた。

「初めまして?いいえ、久しぶりかしら。メインプログラマーさん。」


カイは、やっと出会えた仲間に笑いかけた。

「ああ、オーマプログラムプロジェクトで集められた時以来だね。数字の魔術師。俺の名前はカイだ。やっと名前を伝える事ができる。」


女性は言った。

「私は、メイよ。数字の事は任せて。私達の為の、私達の国を作りましょう。もう誰にも利用されない。見下されずに、穏やかに暮らせる場所を、、、、」

カイは、数十人の元オーマ達を見渡した。

生き残ったオーマ達は無傷では無かった。手足を損傷している者、顔色が悪い者、立ち上がれない者等様々な人物がいた。


五体満足なのは、カイとメイだけのようだ。


メイは戸惑ったように言う。

「やっと自分を取り戻せたわ。だけど、ほとんどの仲間が狂ってしまった。もうここにいる人達しか残っていないの。それにね。」


メイは、自分の鎖骨を見せる。メイの鎖骨の端末接続部は火傷で覆われていた。


「私も長くはないかもしれない。でも、このまま死ぬのは嫌よ。社会から見捨てられ、ゴミクズのように捨てられたまま死にたくない。なにかを残したいの。」


カイは言った。

「ああ、出来るだけ手伝うよ。君程有能な人物はいない。残そう。未来の為に。俺たちみたいな人間が二度と生まれないように。」





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