第5話 実家

カイは、無事にオーマ強制労働工場から逃げる事が出来た。

カイは、自分の家に向かった。周囲を歩く無数の人間達と決して目を合わせないようにして、一人進んで行く。瞳の奥を見られたら、すぐに見つかってしまう。瞳を隠したいが、人間達は皆、目をオープンにして行動している。オーマが紛れ込んでもすぐに見つけられるように、暗黙の常識として目を隠さない行動様式が定着していた。人間と同じように行動しなければならない。決して見つかってはいけない。


カイは、緊張しながら、歩いて行った。

何日も注意深く移動して、やっとカイは自宅へ辿り着いた。カイの両親が立てた一軒家は、カイの記憶より薄汚れていた。庭には雑草が生え、母が大事にしていた花壇は枯れ果てている。家の前には大きな商業車が止められていた。

訝しく思いながら、カイは庭から侵入し、リビングの窓へ近づいた。


若い女性の声がする。

「今日はよろしくお願いします」


それに返事をしているのは、厄介者の叔父だ。

「ええ、なんでも聞いてください。」


父の弟の叔父は、借金をしてまで不動産投資に手を出して失敗した。こだわって購入したマンションの一室を賃貸に出して収益を上げようとしていたらしいが、入居が無かったのだ。叔父が購入した直後、同じマンションで飛び降り自殺が起きて問題になった。入居者を募るどころか、退去する世帯が続出し売ろうとしても売る事が出来ない。

叔父は、カイの父に何度も借金の保証人になってくれるように依頼をしてきた。カイの両親の家を売れば、叔父は助かるかもしれない。お願いだから頼むと言う叔父を、父は渋い顔で断っていた事を覚えている。


(どうして?叔父がここに住んでいる?)


叔父は、女性へ言う。

「兄両親が事故で無くなってからは、私が引きこもりの甥の面倒を見ていました。だが、甥は回復する見込みがない。医者からも匙を投げられ、社会の厄介者になった甥を助けてくれたのが、人間再利用法律です。オーマとなった甥は社会の為に活躍しています。迷う方や、どうしても同意書にサインができないご家族へ伝えたい。私は後悔していません。人間再利用法律は、社会を豊かに、我々の生活を楽にしてくれる素晴らしい法律です。」


叔父と話をしている女性は言う。

「ありがとうございます。今日は人間再利用計画の同意書にサインをされたご親族の貴重なお話を伺う事ができました。悩んでいる皆さん。貴方だけではありません。社会の為に、豊かな生活の為に、まずは公共機関に相談をしてみてください。」


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