第28話 『わたし輝きたいんです! アイドルって女の子の夢ですよね!』



「うんうん、アンリちゃん、グゥウド。 良くなってきたわよぉ」


 そう、オカマ――もといコーチに褒められても俺はちっとも嬉しくはなかった。


「でもね、歌は技術じゃないの、心がこもっていないとオーディエンスには届かないのよ」


 そうニッコリと無理やり笑顔を作りながら言うコーチの横っ面を張り倒してやりたい気分であった。


「アンリちゃん、そうですよ。 収穫祭の時の事を思い出してください!」


「じゃあ、通しで一回やってみるわよ」


 二人が俺を挟んで所定の位置取りを作った。


 二人が俺の周りを踊りながら回り、それぞれのパート毎に歌う。曲はこんな感じの振り付けであった。



 これも俺には意味が分からなかった。何でこんなツルペタなガキがセンターなんだ?俺なんかよりシルの方がいいだろうに……。


 何か身長差によるバランスで決めた。みたいな口上があった記憶もあるが、やはり俺には意味が分からなかった。


「やっぱり、こういうのって憧れちゃいますよね」


「そうにござるな。 拙者の故郷でも踊り子は女児の憧れでござった」


「ふふふ、折角の機会ですしキラキラしましょうね!」


「うんうん」


 二人がノリノリの理由はこれらしい。中身が男の俺は納得するしかないようだった。



「はーい、『ノルン』のリーダーやってますアンリでーす!」


「補助役のシルです。 よろしくですぅ」


「拙者、前衛アタッカーのカスミにござる」


 当日、幌のない大きな荷馬車の様なものに乗せられると俺は覚悟を決めた。これは仕事だと割り切る事にしたのだ。


「町のみなさーん、これからもわたし達、冒険者をよろくねー」


 俺たちは満面の笑みで民衆に媚びた。


 気分はドナドナだった。


「お昼から広場でパフォーマンスをするので見に来てくださいねー」


 町人たちの反応は様々であった。俺たちの呼びかけに興味を持つ者、奇異な視線を向ける者。正直俺は恥ずかしくて仕方がなかったのだ。


「あ、お兄ちゃんたち! 見に来てくださいね!」


 しかし、俺はプロだった。


 視線が合った者にニッコリと微笑みかけてブンブンと両手を振ってアピールするのだ。


 二人も俺に倣ってアピールを欠かさない。


 美幼女に巨乳エルフに和美少女。属性はいい感じに揃っているのではないだろうか?


 俺達に微笑みかけられると、彼らは顔を赤らめて軽く手を振り返してくれるのだ。俺はそれを見逃さなかった。



「反応は上々といった所か?」


 宣伝が終わるとギルド長がそう言った。


 俺はオカマが舞台チェックを念入りにしているのを見ながら「さあ?」と心の籠っていない返事をするのだ。


「でも、ドキドキしましたよ」


「今回が一回目でござる。 まずは認知度を高めるべきでござるな」


「そうですね。 がんばっていきましょう!」


「冒険者達にも君たちの様な子がいるとアピールできれば今回の事はそれなりには意味があるだろう」


――え?もしかして二回目もあるの?


 三人の会話に俺は思わず絶句した。



 舞台にスモークが張られ、それが薄くなっていくと『パンっ』という甲高い音が鳴り響いた。


 俺たちの出番の合図であった。


「はーい、皆さん。 今日は集まってくれてありがとー!」


 俺の声に合わせて民衆に混じったサクラが大きな拍手やヒューヒューと口笛を吹いた。すると同調圧力って奴なのだろう。まばらにではあったが民衆もそれに倣って拍手を始める。


「それでわぁ、わたし達『ノルン』のお歌を聴いてください」


 曲は三曲。


 まずは国歌だった。チョイスとしてはアレなのは間違いなかったが『誰もが耳にした事がある』、これを条件としたらこれ以上の物はないだろう。


 俺たちはシルをセンターに代えて歌いだす。


 そもそも、これが何のイベントかが分かっていない人が大半だったろう。しかし、騒めき合っていた民衆がシルの美しい歌声に静まり返った。


 掴みは成功したようだ。俺たちの歌が終わると民衆は拍手で歓迎を表してくれる。



「次はわたし達の曲です」


 俺とシルが位置を入れ替えると三人は揃ってペコリとお辞儀をする。そして、楽団が演奏を始め、俺たちは歌いだした。


 少女たちが民衆の為に悪と戦う。そんな感じの歌だった。


 俺たちはダンスや歌でそれを表現する。


「ウオー―――!」


 割れんばかりの拍手。正にスタンディングオベーションって奴であった。


「皆さん、拍手ありがとうございました! それでは何かお困りの際は冒険者ギルドを頼ってね!」


 そう言って俺たちは舞台裏に逃げる。


「アンコール! アンコール!」


 この声が聞こえる頃には俺も気持ちよくなっていた。俺たちは部隊の成功にキャッキャと抱き合うと、オカマに催促されて舞台へと戻るのだ。


「それではアンコールにお応えして、皆さんも一緒に歌ってくださいね」


 俺の合図で曲が始まる。讃美歌であった。これも認知度の高い歌だ。


 俺たちが歌いだすと、何人かがそれに合わせて歌い始める。



 そして、それは大合唱とまではいかなかったが多くの人に伝播していった。




――執務室にて



――アンリちゃんがいる……だと……?


 ユリウスが驚愕の表情を見せると皇帝は満足そうなドヤ顔をした。


「いや、違う! 陛下、これは一体?」


「アンリちゃん人形だ。 素晴らしい出来であろう?」


 人形に近づき、下から以外の様々な角度からそれを熱心に見つめるユリウスを見て皇帝はやはりドヤ顔であった。


「なんと素晴らしい! これを作った名匠は未来永劫称えられるべきだ!」


「おい、爺や。 これが美を解する者の正しい反応だ。 分かったか?」


 膝を着いて涙を流しながら感激する彼を見ながらユリアノスはセバスチャンにそう告げる。


「流石は勇者。 鑑識眼も超一流だな」


 皇帝ならず勇者にも、そういう反応をされてしまうとセバスチャンとしては素直に頭を垂れるしかなかった。


「陛下! 是非、私に…」


「済まない。 お前のたっての願いとは言え、それはきくわけにはいかぬ」


 聡明な皇帝は勇者が何を言いたいかを察すると、それを手で制し予防線を張った。


「このアンリちゃんは一人しかいないし、量産させる気もない。 しかし、俺には勇者に報いる義務がある」


 そう言うと彼はどこかからそれを取り出すとテーブルにそっと置いた。


「これは……?」


「本家にはクオリティーこそ及ばぬが、この十二分の一アンリちゃんフィギュアも中々の出来だ。 お前にはこれを与えよう」


「陛下に一生の忠誠を誓います!」


 それを愛おしそうに手に取って感涙するユリウスを見てセバスチャンは思う。



――こいつらホント何なんだよ……。



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