第26話 『冒険者っていいものだ (下)』
「降りる道を発見した」
俺たちが合流地点に戻り、少し待っていると戻って来たイージスがそう告げた。
それは地下への階段ではなく崩落を起こし地下へと伸びている坂だった。
「降りてみます?」
「そうだね。 だが、また崖が崩れる恐れがある。 ゆっくりと慎重に下ってみようか」
「了解しました。 では……『エナジー・ボルテックス』」
俺は頷くと直径約1メートルの光の玉を作り出す。
「この子を先行させましょう」
「それで頼む。 しかし、凄いな。 その若さで上位魔法が使えるのか」
彼の称賛に俺は『エヘヘ』と照れ笑いをして光の玉に坂を下らせる。もちろん、これによって敵に発見される恐れもあったが、この面子なら問題はないだろう。
「随分と深いな……」
慎重に坂を下りながらイージスは一階に置いた持続光が発する光を見ながらそう呟いた。途中、所々で床が見えたが俺たちは一番下まで降りてみる事にしたのだ。
「地下七階ぐらいでしょうか?」
「それくらいだろうね」
坂の終わりに来ると、一階の床と天井の高さから、そう推測した俺に彼は同意を示す。
たどり着いた先は大部屋だった。そして、光の玉がその中央を照らすと見事な甲冑を着込んだ骸骨が三体、映し出されるのだ。
「アンデット・ナイトか!」
「『オーラセイバー』」
イージスがそう叫ぶ。それとほぼ同時に俺は彼らの武器に光の加護を与え、光の玉に攻撃支持を出す。
「ありがたい!」
彼らは残り二体のアンデット・ナイトに躊躇なく切り込んでいった。
「あの……、拙者は攻撃に参加してはいけないでござるか?」
「あの人たちの戦いを少し見てみたいから、我慢してね」
「ムキ―!」
そうカスミが地団駄を踏んでいる内に戦闘は終わりを告げた。
やはり見事な手際だった。
「先ほどは援助ありがとう。 改めて礼を言わせてもらうよ。 成程ね、上位魔法を使える天才少女だったとは……、君がリーダーだって理由がよく分かったよ」
「うちのアンリちゃんは凄いのです!」
「その様だね」
何故かエッヘンと胸を張るシルに同意するイージス。彼は俺を『正直、見くびっていた』と謝罪の言葉を述べると爽やかに笑った。
「さて、カシム。 偵察を頼む」
「了解した」
カシムと呼ばれた軽装の男が大部屋の扉を開けると注意深く左右を観察した。
「我々は右に行こう」
「心得た。 それでは君達は左に行ってもらいたいと思う。 既に『ゴールド』級でさえ危険な敵が出現している。 くれぐれも気を付けてもらいたい」
「有難うございます。 そちらこそお気をつけて」
やはり右が当たりなのだろう。イージスは俺達にそう告げると右に進んで行った。
「今回のアンリちゃんって随分と受け身なんですね」
俺たちが左の道を進んでいると、シルがそう不思議そうに呟いた。
「あのお兄さんたちが嫌な人ならグイグイいっちゃおうと思ってたんですけどね」
「確かに感じの良い人たちですね」
「うんうん。 それに実力も確かっぽいので、お任せしちゃって大丈夫かな?っと」
「拙者は欲求不満にござる……」
「まあ、その内に出番はあると思うので、今はがまんがまん」
こんなやり取りとしていると行き止まりにぶち当たる。
カスミは露骨に残念そうな顔をしたが、仕方がないと彼らと合流する事にした。
最初の部屋のあたりまで戻ると、その先から激しい戦闘音が聞こえるのだ。
「撤退を考慮している。 君達は部屋に入らないで欲しい!」
俺たちが慌てて駆け寄っていくと、その音に気が付いたイージスが警告をした。
おいちょっと待て。あれはエルダー・リッチじゃないか、それも五体もいる。
ここは所謂ボス部屋って奴なのか?
明らかに彼らは劣勢だった。
「シルお姉ちゃんは彼らの援護を。 カスミお姉ちゃんはいい感じに斬りかかって!」
「分かりました」
「心得申した!」
俺は二人に素早く指示を出す。そして、俺は……。
「『ホーリーライト』」
両手を前に突き出して聖なる光を放った。
――ちっ、陰になって全部巻き込まなかったか……。
俺の放った光は三体を消し去ることに成功をしたが、イージス達の背によって遮られ、どちらかと言うと消したい方を残してしまうのだ。
カスミの動きは俺の予想を上回った。
彼女は俺が光を放つ前にタンッと踏み切ると、まるで疾風のごとき速さで部屋に駆け込むと態勢を低くして彼らの横に回り込む。
そして、抜刀と同時に四連撃を放つのだ。ミスリルで強化された彼女の刃はリッチを防御さえ許さずに切り伏せた。
「『桜花夢想連撃』」
しかし、それで終わらなかった。カスミは勢いに任せて一回転すると奥義を放つ。
「お見事!」
最後のリッチの消滅を確認すると俺は素直に弟子を称賛した。
「欲求不満パワー炸裂にござる」
そう言って満面の笑みを浮かべる彼女は美しかった。
「一瞬でエルダー・リッチを五体倒すとは……、それでゴールドとは信じられないよ」
「まあ、イージスさん達が崩れなかったから出来ただけですよ」
「その通りでござる。 この戦いの敢闘賞はやはりお主らにござるよ」
「そう言ってもらえると助かるよ。 しかし……」
「俺達もまだまだと言う事だ」
重装の男が渋い声でそう呟く。
「その通りだ。 このお嬢さんたちに『プラチナなんてこの程度か』なんて思われないようにしないといけないな」
奢る事なく。嫉妬する事もなく。やはり彼らは爽やかだった。
推定七階の探索を終え。報酬の分配をすると別れの時がやってくる。
「今回は有難うございました。 とても勉強になりました!」
俺がペコリとお辞儀をすると彼らは少し微妙な顔をして「次に組む事があったら、今よりマシになっておくよ。 その時を楽しみにしておいて欲しい」と自嘲した。
そして……。
「そうだ。 パーティー名の話なんだが……、『ノルン』ってのはどうだろう? 君達を見ていて思いついたんだ」
「『ノルン』ですか。 『ハミングバード』が名付け親だって自慢していいのなら、そう名乗りましょう」
「是非、そうして欲しい」
そう言って微笑むと、やはり爽やかに彼らは去って行った。
「むむむ、向こうに悪い気配があるのだ」
パタパタと飛んでいたミュウは邪気を感じ取る。
「とても、とっても悪い感じなのだ。 マスターも見つからないし行ってみるのだ!」
彼女はそう言うと気配に向かって飛び立った。
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