第25話 『冒険者っていいものだ (上)』


 俺たちが町に戻ると冒険者ギルドに人だがりが出来ていた。


 珍しいな、と思いその群れを潜って中を覗き込んでみると何やらやたらと派手な装備を纏った男たちがいるのだ。


「あれって芸人さん達ですか?」


「いや、『プラチナ』級らしいぜ。 ギルドからのご指名でここに来たらしい」


「何か大事件でも起きたんですか?」


「ああ、何でも近くでダンジョンが見つかったらしい」



「ああ、アンリちゃん。 君たちも参加するかい?」


 詳細を聞こうと中に入ると、受付の人に声を掛けられた。


「ダンジョンの事ですか?」


「そうそう、新規に発見されたダンジョンなんでどれ位の難易度かが分らないんだ。 そこで彼らに来てもらったんだ。 報酬は出せないが、中で手に入れたものは、もちろん君たちの物にしてくれて構わないよ。 本当は後二、三組ぐらい上位者が欲しいんだが、今、滞在しているのは君たちを除けば『シルバー』級までなんだよね」


 つまり、新規のダンジョンは上位者が難易度確認の為に潜る習わしがあるって事か。


「えとえと、どうします?」


「拙者は訛った体を絞りたいので参加希望にござる」


「私は皆の意見に合わせますよ」


「では、断る理由もないし参加させてもらいましょうか」


 『プラチナ』級って奴の実力も見てみたい。そう思い俺はダンジョン参加を決めた。



「やあ、君たちが『ゴールド』級の諸君だね。 僕は『ハミングバード』のリーダーを務めているイージスだ。 よろしくお願いするよ。」


 そう言った彼は爽やかだった。格下であるはずの俺達に偉ぶりもせず、これまた爽やかに手を差し出したのだ。


「よろしくお願いします。 わたしはこのパーティーのリーダーをしているアンリです」


「君が?」


 俺が握手をしながら名乗ると彼は驚いたような顔でそう尋ねたがすぐに謝罪をした。


「いや、失礼。 事情というのはどこにでもあるものだったね。 アンリ嬢、侮辱したような態度を取って済まなかった。 謝罪を受け入れてくれるかい?」


「ええ、もちろんです。 あと、わたしの事は呼び捨てでどうぞ」


「では、アンリちゃんと呼ばせてもらうよ」


「そう言えば私たちのパーティー名、決めていませんでしたね」


「ん? 無いのかい? 成程、だから君たちの名前を聞いた時にピンとこなかった訳だ」


「あった方がいいんです?」


「ああ、勿論だよ。 我々はパーティーでやっている以上、その名誉や名声はパーティーにあるべきだとは思わないかね?」


 イージスの問いに俺は答えなかった。名声なんて縁のない人生だったからな。


 俺はその時、『そんなもんか』くらいの感想しか持たなかった。


「では、そろそろ始めようか。 今回はレイドという事でレイドとしてのルールを決めさせてもらうよ。 異論があったら言って欲しい」


 彼は真面目な顔を作ると続けた。


「まず、我々が先頭を行く。 分かれ道があったらそこで二手に別れよう。 別に君たちを見くびっている訳じゃないんだ。 それでも我々はプラチナだ。 これは譲れない」


 俺は彼の宣言に黙って頷いた。カスミは不満顔だったが彼らの実力を見るのも目的の一つだったので断る理由がなかったからだ。


「次に、これはルールというより僕からのお願いだ。 開いているものは別に構わない。 だが、閉まっている部屋はできるだけ見逃してやって欲しいんだ」


――ほう。


 中々の漢じゃないか。俺はこれにも同意する。


「では、最後だ。 別行動をしている時に降りる道を見つけた場合はお互いに戻って合流してから降りる事。 以上だ」



 俺たちは残りのメンバーとお互いに自己紹介を済ますとダンジョンへと入って行った。


 まずは天然の洞窟を進む。しばらく進むと壁が崩れていて、人工の壁が露出していた。そして、それの一部が崩れており、そこがダンジョンの入り口であった。


「ふむ……」


「えとえと、取りあえずイージスさん達に付いて行きますね」


「そうしてくれるとありがたい」


 少し進むと崖崩れで行き止まりとなっていたので逆側を進んで行く。


 通路に人骨が転がっていた。それを見た軽装の男が石を投げた。すると、人骨がカタカタと動き出して五つの姿を作り出す。スケルトンって奴だ。


「省エネモードでいくよ」


 イージスがそう言って抜刀すると他のメンバーもそれに倣った。


 彼らは実に手慣れていた。ほんの十秒ほどで、それら全てを片付けてしまうのだ。


「お見事にござる!」


 カスミが褒めたたえると彼らは爽やかに微笑み返す。ぶっちゃけ、とても強敵とは言えない相手ではあったが、その手並みの良さから察するにプラチナの名に恥じない実力を持っているので間違いは無さそうだった。



 更に少し進むと真っすぐと左のT字路と出会う。軽装の男が左を指さした。


「では、我々は左に進む事としよう。 そちらは真っすぐ進んで欲しい。 行き止まりまで進んだら……、そうだね、ここで合流することにしようか」


 俺はそれに了承する。恐らくは彼らの経験からそちらの方が危険だと判断したのだろう。



「所で、アンリちゃん。 どうして、部屋に入らない方がいいんですか?」


「それは彼らがトップ冒険者の矜持を持っているからにござる」


 なんだ、カスミも分かっていたのか。ならば解説は任せようじゃないか。


「?」


「ダンジョンの上層部ってのはお宝もしょぼいのが相場にござるよ。 だがしかし、もしかすると、それは他の者にとっては大金かも知れませぬ」


 ハテナ顔のシルにカスミはドヤ顔で語っていく。


 つまり、そういう事なのだ。俺が彼の提案に素直に乗ったのもこれが理由の一つだった。


 彼ら『ハミングバード』は間違いなく、心意気もプラチナの名に恥じない冒険者であったからだ。



「つまり、後進の為にダンジョンを荒らさないでおこう、と提案されたのでござる」



 結局の所、俺たちのルートは外れだった。


 いくつか部屋を発見したが、俺たちは素直にスルーして合流地点へと向かった。



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