第13話 『俺から溢れ出すフェロモン。 それが人を呼び寄せるのだ(下)』


「しかし、アンリ師匠の連撃は実にお見事でござった。 あれは一体何連撃だったのでござるか? 八連までは知覚出来ましたが……」


「んー、十八連です」


 全く弱くなったものだ。頑張ればもう少しは行けたと思うが、体に痛みを感じ始めたので、あの時はそこで終わりにしたのだ。


「十八とな! それではまるで、かの英雄『勇者ユリシーズ』が使ったとされる剣の究極『無限斬』の様ではござらんか!」


「その勇者様には遠く及びません」


 褒められて嬉しいのと同時に、悔しさの様な感情が沸きあがった。それでも俺はエッヘンと胸を張ると、そう謙遜をした。


 もちろんユリシーズとは前世の俺の事であり、今の俺の連撃はとても『無限斬』などと呼べるほどの物ではない自覚があったからだ。


「それってどれ位、凄いのですか?」


「拙者が聞き及んだ所、十連を超えるのは『勇者の領域』だとの事」


「おお、アンリちゃん流石です!」


「ですので、まずは十連斬を目指しているのでござるが……、残念な事に今の拙者には四連までしか使えませぬ」


 目を輝かせたと思えば落ち込む。忙しい娘だ。


「んー、ちょっと体を見せて貰っていいかな?」


 俺はそう言うとカスミの体を上から順に肩、腕、腰、尻、脚と揉んだり、パンパンと平手で叩いたりしていった。


 彼女は「くすぐったいでござる」なんて照れていたが、どうやら師匠の命令には逆らう気が無い様だった。体育会系の上下関係って奴だな。


 ふむ、実に張りがあって柔軟な筋肉だ。同時に成程な、と思う。


「今からカスミお姉ちゃんのお尻を叩きます。 ちょっと痛いけど我慢してください」


 そう言うと彼女が許可を出す前に、ある角度からツボを刺激するように尻を叩いた。パンっという小気味よい音が響いた。


「ヒャンッ!」


 カスミは可愛らしい悲鳴を上げて跳び上がるが、俺はそんな事は構わずに黙々と何度も同じ事を繰り返した。流石に四度目かで彼女は逃げる様に動き回ったが俺は構わず彼女の背後に回り込む。


 フフフ、ボスからは逃げられない。これ常識ね。


「アンリちゃん、アンリちゃん。 そういう大人なプレーはまだ早いと思いますよぅ」


 何かを勘違いしたシルは顔を真っ赤にして俺を止める。


「んー、後何度かしないと分らないと思うけど……、まっいっか。 それではカスミお姉ちゃん、今の感覚を忘れないでください。 少し考えてから出来るだけ多く連撃をしてみてください」


「心得ました!」


 彼女は少しの間、目を瞑って瞑想をすると腰を低くして連撃を放った。


 ほう、かなりの素質があるらしい。


「師匠! もっと、もっと拙者のお尻を叩いてください」


 彼女も変化に気が付いたのだろう。俺たちは『何度かスパンキングをする』、そして『試す』この行為を何度か繰り返した。


「師匠、ご指導感謝にござる!」


「おめでとう! 何度も練習してものにしてね」


「はい!」


 ついには彼女は五連撃に開眼したのだ。まあ、実戦で使うにはまだ研鑽が必要ではあるが。つまり、俺は彼女の体を調べ、そして悪い癖のある部分を矯正してやっていたのだ。


 それなのに……。


「あの……、アンリちゃん。 お風呂行きましょう。 私、汗かいちゃいました!」


 薄っすらと額に汗を浮かべ、何故か少し息の荒いシルが両手をギュっとしながら、まるで懇願するようにそう言ったのだ。



 異論はない。むしろ、望むところだ。弟子の様子がより詳しく分かるからな。おっと、念の為に言っておくが、これはスケベ心からではないぞ。


「はぁー、先程から何故か暑くって堪りませんよぅ」


「拙者も早く汗を流したいでござる」


 ふふふ、観察タイムだ。


 シルはまだ頬が赤かった。そして、瞳も薄っすらと潤んでいて服を脱ぎながら時折、手櫛で金色の髪を撫でつつ何か考えるような流し目をする。相変わらず美しく、今日は何故か色っぽくもあった。


 カスミも中々だった。先程までは一ミリも思わなかったが、髪を下ろすと、その艶やかな黒髪と相まってか、どこか品を感じさせる実に整った容姿であった。


 また、大きくはないが小さくもない綺麗な弧を作り出しているお椀型のそれは先端が、ツンと上を向いており、やはりどこか上品さを感じされるのだ。


「師匠! もしや何やら新たなヒントが?」


 俺がガン見しているのに気が付いたカスミがワクワクしたような表情をしながら詰め寄ってくる。シルが物憂げな表情で自分のお尻に触れたのを俺は見逃さなかった。


「それを見ています」


 嘘を吐きました。フフフ、奴は例え俺がおもむろにそれを鷲掴みし、しゃぶりついたとしても何かあると考えて、されるがままになるだろう。


 これは信頼関係の構築に成功した俺の勝利だった。


「早くお風呂入りましょうよぅ」


 望むところだった。


 シルが俺たちを急かすと浴室に進んでいくのだ。


「カスミお姉ちゃん、洗ってあげるね」


 そう言って俺は彼女の体をまさぐる。彼女はくすぐったそうな表情をしていたが案の定、俺のする事をノーガードで受け入れていた。


 俺が時折、「んー?」なんて思わせぶりな表情をするとカスミの顔は期待に輝くのだ。


「アンリちゃん、私も洗ってください!」


 こんな事をしていると膨れっ面になったシルが自分も、と要求してくるのだ。俺は「はーい」と返すと彼女の体も洗ってやる。やはり、シルの肌と言うものはよいものだ。比べてみると一目瞭然って奴で。人間のそれと比べると明らかに細やかで手触りが良いのだ。


 しかし、今日の俺はモテモテだな!


 さて、俺は適当に済ませるか、と自分の体を洗い始めるとシルが無言で洗い出し、それが終わると、そのまま持ち上げられて湯船に入る。そして、彼女の膝に座らされると後ろから抱きしめられる。


「もー、アンリちゃんはほんとエッチなんですから……」


 などとシルは俺の頭に顎を乗せて不満そうな顔でそう呟いたのだ。



 今日の彼女は何かがおかしかった。




 どれ位、飛んだことだろう?


 どれ位、探した事だろう?


「うにゅー、マスターどこなのだー?」


 銀色の小龍は山を谷を時には砂漠を。自身の契約者を探して旅をする。


「クンクン。 クンクン。 むー、どうやらここら辺も違うのだー」


 そう言ってミュウは苛立ちながらパタパタと周囲を旋回した。


 契約者と回った場所は大抵、探し終えてしまい途方に暮れてしまったのだ。


 しかし、確かに存在するはずだ。何故なら彼との契約は切れていないのだから。


「しょうがないのだ。 町を探してみるのだ」


 小龍はそう呟くと光輝いた。


 輝きながらゆっくりと地面へと降りていくのだ。



 そして、光が消え去ると、銀髪のボーイッシュな女の子がそこにいたのだ。



「あ! あっちの方に気配を感じるのだ!」


 彼女はピョンピョンと跳ねながら喜びを表すと歩き出すのであった。




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