第6話 『これが俺のモーニングルーティンだ』
幼女の朝は早い。
何故なら彼女が目覚める前に日課を終えなくてはいけないからだ。
目が覚めると俺はシルを起こさない様に最上級の慎重さをもって、彼女の胸に顔を埋めながら両の掌でパフパフをする。
その柔らかく心地の良い感触を楽しんだ後に彼女の寝間着のボタンをはずし胸を露わにさせる。そう、可愛らしい寝息を立てている彼女を起こさない様に、慎重に、慎重にね。
布切れと言う実に忌々しい束縛から逃れ勢いよくはじけるその様は実に微笑ましいものだ。そうして現れた大きな双丘を少しの間、物憂げな瞳で見つめる。
さて、名残惜しい事、この上ないがお勤めを終わらせることにしよう。
忌々しい気持ちを振り払うように、それぞれの山頂に優しくキッスをする。お風呂に入って無味無臭のそれを味わうのもよかったし、少ししょっぱいそれを堪能するのも実に趣があるものであった。
「シルお姉ちゃん! 朝ですよ。 いい加減に起きましょう」
「ふふふ、くすぐったいですよぉ」
そうだ、日課の終わりに証拠隠滅とばかりに最後はそこでグリグリするのだ。こうすれば彼女はボタンが外れていた事を不思議に思う事などは無い。
「さて、今日は待ちに待った魔物退治の日ですよ。 がんばりましょー!」
「おー!」
数日後、ようやく魔物退治の依頼が掲載されたのだ。『ブロンズ』級の依頼としては破格の報酬である魔物退治なのだが実は人気がない。
依頼とは早い者勝ちで受けるものなのだが、俺たちが見つけたのは夕方。掲載されたのは昼前らしい。受付嬢の話によれば『ブロンズ』級の魔物退治の依頼は向上心のあるグループぐらいしか受けないらしい。
まあ、それは分らなくもない。何せ戦闘を伴う依頼は他の者と比べて格段に報酬が良い代わりに死ぬ危険があるのだから。生きる糧を得る為だけなら安全な依頼をこなせばいいだけだ。
「あ、私が手綱を握りますね」
「じゃあ、まかせます!」
準備を済ませると、早速出発する。馬が借りられると言う事なので遠慮なく借りさせてもらう事にした。シルがそう言って馬に跨ると俺はその前方に飛び乗ってヘッドレスト代わりの彼女のおっぱいの感触を楽しむ。いやあ、役得、役得。
「えっと、相手は魔獣でしたよね?」
「うん、目撃情報によると相手は一体で、ジャイアントタイガーなのかな?」
依頼内容はこうだ。森の中でネコ科の大型の魔獣を見かけるようになった。幸いな事に死者は出ていないが森に入る者たちが困っている。目撃情報では単体で活動しており、危険なのでこれを退治して欲しい。こんな感じだ。
これを見て俺は成程と思ったのだ。これは人気が出ないのも頷けると。こちらに与えられる情報が少ないのだ。かと言って依頼者に詳しく調査してから依頼しろとも言い難い。
単体だと思って挑んでみたら実は群体だった。こんな事もしばしばなのだろう。護衛任務における偶発的な遭遇であれば仕方がない事だが、こんな不確かな情報に命を懸けるのは命知らずと言われても仕方がないのだ。
「勝てますか?」
「まあ、大丈夫じゃない?」
「よかったですぅ」
勇者パーティーの依頼ってのは『どこどこの勢力を殲滅しろ』だとか『魔王の首を獲ってこい』とか兎に角、不特定とかそういうレベルの難易度ではないので、俺からしてみれば、それが単体だろうが百体だろうが対して問題にはならない。今の俺には町間を徒歩で移動する方が大変な位だ。馬がレンタル出来て本当によかった。
数日後、目的の村に到着すると俺たちは依頼者である村長宅を訪れた。
その道中、周囲を観察しながら移動してきたのだが、幸いな事に村自体は襲撃にあった形跡が見当たらなかった。
今日はもう遅いのでウチに泊まってくといい、と村長が言ってくれたので素直に好意を受ける事にし、目撃者を何人か呼んでもらい情報収集をしてその日を終えたのだ。
「うーん、黒い巨体と言ってたからジャイアントタイガーではないみたい」
「勝てますか?」
「大丈夫だと思う」
「頼りにしてますよ!」
そう言って俺を抱きしめるシルに、内心『ちょっと待ってくれ』と思った。ここは魔界とはまだまだ距離があるので、俺が倒せないクラスの魔物は出てこないはずだ。だから、戦闘については問題ないと断言する。しかし、こいつ……、俺に寄生する気か?
「ねーねー、シルお姉ちゃん。 適当に移動しながら大きな声でお歌を歌ってくださいな」
「別にいいですけど……、どうしてです?」
ちょっとイラっとしたので意地悪をする事にした。
「今からわたしは姿を隠してお姉ちゃんの少し後を付いて行きます」
「ふむふむ」
「別に歌でなくてもいいの。 例えば絶叫とかでもいいの」
「あれれ? それってもしかして……」
「正解です!」
意味を理解したシルの顔が青くなるのを見て俺は心の中でニヤリとした。
要するに、魔物に対して『ここにいる』アピールをしようって事だ。
昨晩、どうやって魔物と遭遇するかを考えたのだが、鶏の首でも刎ねて、それを持ち歩くのが一番だろう。血の匂いをプンプンさせて獲物をおびき寄せるのだ。
ただ、本人に確認したわけではないが、彼女が嫌がりそうであったし、俺も余りグロいのは好みではなかったので、この案を却下する事とした。
そうなると物音を立てるってのが次点となるだろう。まあ、これは向こうから襲ってきたって証言からの推測でしかないし、逆効果の可能性もあった。だが、その時はその時だ。
「えっと……、アンリちゃん? 本当に近くにいてくれていますよね?」
「お姉ちゃん、安心して!」
俺は光の屈折率を変化させて不可視モードとなる。そして、気配を消す。本能的に俺の力にビビって出てこなくなるのを防ぐためだ。
「なら、いいのですけど」
こう言うとシルは歌い始めた。戦闘一辺倒だった俺は芸術には疎いが、それでも理解できるほど美しい歌声だった。以前、聞いたことがある歌だった。それはエルフの言葉で紡がれて。森や大地、風や水、そう言った自然の恵みを賛美する歌だったはずだ。
――美しい……。
素直にそう思った。どこか恍惚に似た表情を浮かべ、優雅に舞いながら歌う彼女は幻想的で蠱惑的で、まるで物語で語られる妖精の様であった。
まあ、実際に彼女はエルフな訳だが……。
「うー、喉がガラガラですぅ……」
小一時間ほど経つとシルが疲れたような、面白いような顔でギブアップを宣言した。
このギャップよ! まあ、確かに頑張ったとは思うし、目的は達せられたのでよしとしよう。だが、先程まで彼女の余りの美しさに見とれていた俺の心を返せ!
「お疲れ様。 もういいよ。 次は警戒態勢を取りながら十時の方向にゆっくり進んでいってね」
「うひゃあ……。 私、戦いってあんまり得意ではないんですよね……」
そう言いながら何かを早口で呟くとシルは剣を抜いた。ふむ、度胸はあるようだな。
「安心して、敵はわたしが倒すから」
「信用してますよぉ」
ゆっくりと進んでいく。相手ももう、こちらに気が付いていた。
遭遇するのはもうすぐだった。
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