第5話 『女湯、それは目覚め。 俺はその時、新たな力に覚醒した(下)』

「思ったより地味……、ですねえ」


「お姉ちゃん、原因がどこにあるか考えたほうがいいと思うよ?」


 お屋敷の草をむしりながら、そう愚痴るシルに俺はこう嫌味を言ってやった。


「うう……」


 それから一週間ほど経った。


 『ブロンズ』級の生活って奴はかなり、まったりとしているようだった。仕事内容は主にドブ攫いとか害虫駆除とか、今まさに進行中の草むしりとか……。


 魔物の退治なんてのもあるにはあるが依頼が入るのは稀な様だった。『シルバー』への昇格は割と楽な様だった。草むしりなんかだと昇格まで数百回は掛かるのに対して魔物退治なら数回で上がる様だ。


 取りあえずの方針として『シルバー』級を目指そう、と言う事となった。


 なので金にはならないが依頼の数だけはある雑用で日銭を稼ぎつつ、魔物退治の依頼が来るのを待とう、と言う方針で日々を過ごしている。


「それにね。 お姉ちゃんの保護者になった訳だから、猫を被ったりしないよ? だから、言うべきことはちゃんと言います。 お姉ちゃんが泣いちゃうような事でもね!」


「うう……」



 本来は旅をしつつ依頼をこなして行きたかった訳だが、それが出来ない事情があった。


 何故なら……。俺たちのパーティーは極度の財政難であったからだ。




 話は一週間前、つまりはシルが冒険者登録を済ませた後に戻る。


 俺はこれまでの人生の殆どを戦いに費やしてきた。金を使う機会が碌になかったのだ。なので、お金というものが大切なものである事自体はもちろん知っていたが、どれ程、大事であるかを理解していなかった。今思うと、これが実によくなかったのだ。



「さてと、これから本格的に冒険を始めるから、装備を揃えようよ」


「私はお金持っていませんよ?」


「わたしが持っているので大丈夫なの!」


 そう言って俺はエッヘンと胸を張った。



 何の準備もなく冒険を始めてしまった俺はバッグに着替え数着、身だしなみを整えるための小物類しか持ち物がなかったし、シルも加えてナイフを所持している程度で大差がなかったのだ。


 武器や防具や旅に必要となるロープや火種、ランタン等は欲しい所だ。まあ、俺の所持金では最高級品で揃えるなんて事は無理だろうが、廉価品位なら大丈夫だろう。


 まずは消耗品となる雑貨類と女の子向けの可愛らしいデザインの厚手の服、そして丈夫なブーツを選ぶ。唯の旅であれば街道沿いを行けばいいので平服で構わないのだが、冒険者は道なき道を進む場合が多い。なので肌を守る為にこの手の装備は必須なのだ。


 そして武器。二人とも小剣を選んだ。色々と振ってみた所、悲しい事に今の俺の体格ではこのサイズが限界の様であった。


 最後に防具。子供用の鎧なんてもんは特注品以外にありえないので俺は断念した。エルフは金属製の鎧を嫌う習性があるようで、なめし革の胸当てと籠手に決めたようだ。


 さてと、支払いを済ませて一休みしようか、などと思っていた所、シルがある物を物欲しげにじっと眺めているのに気が付いた。


 マジックバッグである。冒険者は持ち歩く必要があるものが多いが、徒歩移動が基本なのでできるだけ重量を減らしたいものだ。


 皇帝から貰った俺のバッグは勇者時代に支給された物と同じ最上級の容量を持っているので俺たちの持ち物を全て収納しても、そんなものは無いのと同義ぐらいの収納力を持っているのだが、俺とはぐれたり、別行動をする場合もあるだろう。


 俺は仕方がないな、と値段を見てビビってしまったので最下級品ではあるが、それを買ってやる事にした。


 これが良くなかったのだ。俺は今日この時に所持金の殆どを使い切ってしまったのだ!




 さて、話を戻そう。


「あの……、お風呂行きませんか?」


 その日の仕事を終えて、僅かな給料をギルドから受け取るとシルがこんな事を言いだした。


「うーん」


「ダメ、です?」


 情けない顔をしながら上目遣いでこちらを見つめているシルを見て『まあ仕方がないか』なんて俺は思った。


 何せ俺たちは出会ってから風呂に入っていなかった。洗濯をする時についでに体を拭くなんて事はしていたが入浴となると十日位はしていなかったと思う。


 幸いな事に、この町には公衆浴場があるので比較的安価で入浴を楽しむ事が出来る。そんな額でも今の俺たちにとっては手痛い出費となる訳なのだけれども、確かにシルは女の子だしな。


「んー、そうですね。 流石に毎日は財政的に無理だけど……、これからは三日に一回位はお風呂に行こうか」


「さすが、アンリちゃんです!」


 俺の答えを聞くや否や、シルは俺の両脇を抱えて走り出した。しかも、速い!精霊術を使ってまで急ぐとは、そこまで行きたかったのか、と俺はちょっと反省した。



「アンリちゃん、そっちは男湯ですよ?」


「え?」


 シルはそう言って俺の手を引っ張って女湯に向かう。


「え? え?」


「どうしたのですか? いつもは大人びているのに、今日は変な子ですね」


 そう言って不思議そうな顔をしたシルに手を引かれて更衣室に入室。


 そこで目の当たりにしたものに俺は思わず反射的に前かがみとなり股間の当たりを両手でおさえてしまったのだ。


 当たり前の話なのだが、そこには服を脱いでいたり、半裸の状態で涼んでいる女性たちがいる訳で。俺はそんな光景を目にするのは生れてはじめてな訳で……。


「ホント今日は変ですよ? それとも恥ずかしがっているのです?」


 シルは俺の行為をそう捉えたようで、放心状態の俺をバンザイさせると服を脱がせていった。そして、それが終わると自らも何の恥じらいもなく脱いでいく。


 ロケット型の胸が俺の眼前に現れた。いや、胸なんて言うのはそれに対して失礼だ。シルのそれは綺麗な形の大きなおっぱいだった。


「女の子同士なんですから、恥ずかしくないでしょ?」


 その言葉に思わずハッとした。


 そうだ、あの時シルは躊躇いもなく俺の顔をおっぱいに埋めさせた。あの時シルは何の躊躇いもなく膝枕をしてくれた。


 何故なら、俺は女の子だったからだ!



「ああああああああああああああ……」


 そうだ俺は女の子だ。それもロリ美少女だ。俺の意識が目覚めてから、そこら辺が曖昧になっていたことを今更ながらに自覚した。


 だから……。


「具合でも悪いのですか?」


「ううん、お姉ちゃん、ごめんね。 ちょっと考え事をしていたの」


 などと嘘を吐きテヘっと笑顔を作ると今度は「アッ!」なんてわざとらしく言うと彼女のおっぱいにダイブしてみる。


「ちょっと、大丈夫ですか?」


「うん、ちょっと転んじゃった」


 だから、こんな事をしても大丈夫なのだ!


 二人の身長差だと、丁度、俺の顔の高さにシルのおっぱいが来るのだ。そして、俺はその二つの膨らみの極上の感覚を頬で味わう。


「ちょっと、くすぐったいです。 それに……臭いませんか?」


「エヘヘ、うん、いい匂いがするよ」


 少し顔を赤らめて頬を掻くシルに俺は上機嫌でそう答えた。


 だから、その程度は唯のスキンシップでしかないのだ!


「あ、そうだ。 せっかくだからシャンプーを使おうよ!」


「え? いいのです?」


「うん」


 そこら辺は別料金だった。それも石鹸、シャンプーの順で値段が高い。だが、そんなものは今の俺にとっては些細な出費でしかなかった。むしろ、その結果、例え野宿をする羽目になったとしても本望であった。



――ああ、幸せってこんな場所にあったんだな……。


 シルとの洗いっこを堪能した後、湯船に浸かりながら俺は心の底からそう思った。


 俺は多幸感に包まれつつ辺りを見回した。ここにはすっぽんぽんの女性しかいない。横にはこれまたすっぽんぽんのシルがいる。正におっぱいパラダイスであった。


 俺はこの時、俺の中で何かが目覚めるのを感じていた。



 そして、その夜。俺はシルのベッドに潜り込んだ。そして、シルのおっぱいに顔埋めて目を閉じる。彼女は「ふふふ」と優しい微笑みを俺に向けてくれて、俺は安らかな眠りについた。



 子供 + 美少女 = 最強



 この体が嫌だった俺はこの日、世界の真理に到達したのだった。



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