16.9章 オークリッジ攻撃

 山田中佐の隊が爆弾を投下している頃、野中少佐の富嶽隊は東へと順調に飛行することができた。ニューメキシコ周辺の米軍飛行隊がロスアラモスへの攻撃で大混乱していたためだ。加えてクロービス基地のレーダーが停止したため、コロラド寄りを飛行している野中少佐の隊はしばらく発見されることもなく、飛び続けることができた。


 米大陸の更に奥地を目指す富嶽隊は、コロラド州の南端からカンザス州の南部へと飛行していった。ここからは、12機だけで飛行していかなければならない。野中隊が離陸したハワイ島から目標地点のオークリッジまでは、片道で約7,000kmもの距離がある。これでは12,000kmの航続距離を有する富嶽でも往復することはできない。それで、米大陸手前の3,500km飛行した洋上で空中給油を行った。従って、航続距離の上ではぎりぎり戻ってこられる範囲に入っていた。しかし帰路も海上での給油が可能なように準備はされていた。


 カンザス州に侵入すると、野中少佐はおとり弾の投下を命じた。富嶽隊は、12機のおとり弾を断続的に投下した。野中隊は隊長の方針により、全てのおとり弾には、飛行距離が多少短くなっても電探電波への誘導機能を備えることにしていた。それに加えて、富嶽には最新型の短波とマイクロ波を受信できる逆探知器を搭載していたので、電波の到来方向を知ることができた。おとり弾は投下時に受信している電波の方向を見定めて、受信した方角を設定してから発射した。


 このため、飛行経路の近傍にあったカンザス州南部の軍事基地のレーダーには、電波の発信源を探知しておとり弾が突入することになった。ガーデンシティ陸軍飛行場とドッジシティ陸軍飛行場、プラット陸軍飛行場の3カ所の基地のレーダーが電波誘導の飛行爆弾により破壊された。


 ……


 第2空軍司令官のジョンソン少将のところには、カンザス州に日本軍機が西から飛行してくる可能性があらかじめ伝えられていたが、事前にできることはあまりなかった。もともと、第2空軍は合衆国の東海岸と東部寄りの中部の防空を任務としていたが、防空の主正面は大西洋の東海岸だと考えられていた。ドイツによる東海岸への攻撃が最も高い脅威として、ニューヨークやワシントン、フィラデルフィアなどに戦闘機を重点配備していた。コロラドやカンサス、ミズーリにも基地はあったが、ほとんどが訓練基地や輸送隊の基地として使用されていた。


 それでも、ジョンソン少将は、プラット基地に配備していた24機のP-51に出撃を命じた。しかし、レーダーを破壊され、一時的に日本軍の編隊を見失って、発進した戦闘機は右往左往しただけだった。


 ……


 やがて、野中編隊はカンザス南部のウィチタ陸軍飛行場と飛行場に隣接する工場に近づいていた。野中少佐たちが、爆撃隊の飛行経路の検討をしていた時に、飛行ルート上のウィチタにボーイングの巨大な工場が建築されていることが判明した。大型機の生産をウィチタで開始したという情報をドイツの諜報網が入手して、ドイツの小島大佐を経由して日本に入って来たのだ。工場で働く多数の労働者の中には、ドイツ系アメリカ人も紛れ込んでいたので稼働開始時期まで知ることができた。


「ウィチタの工場でB-29の生産が大々的に開始されている。我々が行動している位置を暴露することになるが、これは座視できない。行きがけの駄賃で攻撃することとしたい」


 結果としては、富嶽の各機には、ウィチタの攻撃のために各1発の無線誘導弾を装備した。


 12機の富嶽がウィチタ工場の上空で、1トンの無線の指示で飛行する誘導爆弾を投下した。上空から見ても、巨大な屋根を有する組立棟が並んでいることがよくわかった。1棟の大きさが、ずらりと並んだB-29を収容できる大きさだ。しかも、組立棟の前には、おおむね完成した30機以上のB-29が並んでいた。


 次々と工場に1トン爆弾が命中した。工場の屋根や屋外のB-29の上に爆弾が降り注いだ。巨大な工場は12発の爆弾くらいでは完全には破壊できなかったが、それでも上空から見た限りでは、工場の3割くらいには被害を与えただろう。


 ……


 ジョンソン少将のところには、ボーイング・ウィチタフィールドのB-29組立ラインが爆撃されて、大きな被害が出たことがすぐに通報された。ウィチタは工場に隣接した陸軍航空隊の基地でもあったので、軍の連絡網がすぐに報告を上げてきた。

「B-29の工場が攻撃された。確かにB-29は、日本に対する有力な攻撃兵器の一つでもあるからな。帰路を迎撃するぞ。コロラドから、太平洋方面へと帰ってゆくはずだ。第4空軍のモリス准将にも連絡してくれ。遠からず、ユタかアリゾナを通過するはずだ」


 ところが、野中隊は太平洋にUターンして戻ることはなかった。そのまま東方に飛行してミズーリからテネシーの方向に向けて続けて飛行していった。カンザス州のレーダーの目がつぶれていたために、引き続き東に飛行している富嶽隊の探知が遅れた。


 ……


 野中隊の富嶽は、ミズーリを超えると、テネシー州へと飛行していった。直ぐにメンフィス基地のレーダーが捉えたが、おとり弾が突入して破壊した。さすがにジョンソン少将も日本の爆撃隊がまだ東に飛行していることに気がついた。

「いったい、日本の爆撃機はどれだけの航続距離を飛べるのだ。このまま大西洋に抜けてゆくつもりなのかもしれない。東岸の基地にも出撃準備を命令せよ。テネシー州のスマーナとメンフィス基地にも出撃命令をだせ」


 しかし、テネシー州でも配備されていたジェット戦闘機はわずかだった。それでもテネシー中央部のスマーナ基地から8機のP-80が離陸することができた。一方、野中隊の爆撃目標であるオークリッジは、スマーナ基地の東方近くに位置していた。直線的に飛行すると基地近くの北方を通ることになる。野中隊はスマーナ基地に向けて12機のおとり弾を発射した。続いて、富嶽隊自身は北に向きを変えて大きく迂回した。おとり弾がスマーナ基地中央のビルに突入してレーダーと通信機を破壊した。


 ブラウン管の表示をまじろぎもせず見ていた中村飛曹長が報告する。

「逆探に入力していた南東方向からの短波長の電波が止まりました」


「よしっ、敵基地の電探は停止したようだ。オークリッジに向けて南下するぞ」

 野中隊はレーダー電波が停止したのを確認して、一気に南下を開始した。


 オークリッジの工場施設は、森の中のくぼ地になっている地形の上に建設されていた。南東側には大きく蛇行したクリンチ川が流れている。上空からは、住宅地を除いて4カ所に離れ離れになった施設が確認できた。西側の川岸に2カ所の大規模な工場があり、北東側に一列に並んだ煙突と多数の建物から成る工場が配置されていた。くぼ地の中央には2本の背の高い煙突を備えた巨大な神殿のようなコンクリートの建物が見えた。煙突からの白煙が風下へと流れているのがわかる。


 野中隊の攻撃法は、ロスアラモスへの攻撃法とほぼ同じだった。先行した3機の富嶽が無線誘導の4号弾を9発投下した。真っ先に狙われたのは。川のほとりに建設された背の高い2本の煙突を有する巨大なビルだ。上空から見てもわかりやすい巨大なビルに2発の3トン誘導弾が直撃した。爆弾には爆薬に加えて焼夷剤も仕込まれているので、建築物が破壊されるのと同時に周囲に火災が発生する。敷地の北東部に建設された煙突が並んだ工場のように列になった多数の建物には4発が着弾した。西側の川岸に建設された工場らしい2カ所の大きなビル群にも3発が命中した。


 先行した3機に続いて、後続の9機の富嶽がそれぞれ12トンの爆弾を投下した。216発の50番爆弾は赤外線誘導により、先行機が爆撃で発生させた火災を目標にして次々と命中した。爆撃により、オークリッジ施設の入口に設置された看板も吹っ飛んだ。この施設の入口に設置されていた大きな看板には、工場の労働者に秘密を守らせるために、見ざる、言わざる、聞かざるの三猿の絵が描かれていたが、爆撃でばらばらになった。


 ……


 南下しながら爆弾を投下した野中隊は西南西へと方向転換して、太平洋を目指した。野中少佐は、往路よりも南側を飛行することにしていた。これはハワイ島への最短航路ではないが、カリフォルニア湾を横切るルートの方が早く太平洋上に出ることが可能なのだ。爆弾を投下して、しかも燃料を半分消費した機体は軽くなって、飛行高度をどんどん上げていった。ジェット戦闘機による迎撃を警戒して、富嶽の限界に近い12,000mまで上昇して、補助ジェットエンジンも噴射して最短時間で太平洋に抜けることを優先した。


 スマーナ基地を離陸したP-80は、野中隊が南下したので会敵することができなかった。米戦闘機をかわしてから、富嶽隊はテネシーからミシシッピに抜けると、一直線にテキサスの中央部を横断していった。


 野中隊が破壊したオークリッジの施設は大部分が、ウラニウム235を抽出して、それを爆弾として使用できるだけの濃度に濃縮するための工場だった。ウラン濃縮工場では、ガスと液体、電気を利用した3種類の分離精製システムが稼働開始したばかりだったが、どれもが十分な量のウラン濃縮を行う前に破壊された。本来はオークリッジの工場だけでも、ウラン型核分裂爆弾を作ることのできる十分な量のウラン235を濃縮できるはずであったが、それも不可能になった。


 巨大な2本煙突のコンクリート製の構造物は黒鉛型核分裂炉だった。巨大なビルは、ハンフォードの水冷式核分裂炉とは異なり、空冷式で設計された核分裂炉を格納した建物だった。核分裂炉が本格的に稼働すれば、プルトニウムについても確保が可能となるはずだった。しかし、核分裂反応が臨界に達したところで爆撃を受けた。炉が破損したために核分裂反応は緊急停止した。複数の爆弾が直撃したために、核反応炉の鋼鉄のケース自身が破壊された。このため、炉心部の多量の放射性物質が爆風とともに周りに飛び散った。オークリッジでもしばらく除去できないほどの放射性物質の汚染が発生した。


 ……


 野中少佐は、テキサス州中部を西から東に飛行しながら、おとり弾を北方に発射して、北側を編隊が飛行しているかのように欺瞞した。次々と米軍基地から戦闘機が発進するが、高高度まで上昇する以前に富嶽がどんどん先に行ってしまう。上空を通り過ぎる編隊を見守るしかない。


 野中隊は、ニューメキシコの南端を更に西南西に飛行して、アメリカとメキシコの国境を超えてカリフォルニア湾を目指した。もちろん、この飛行ルートを選んだ理由の一つにメキシコ上空に入れば、戦闘機の迎撃は減少するはずだとの読みもある。野中少佐のこの作戦は効果があった。アリゾナなどの戦闘機は、アメリカ国内での迎撃を優先して、メキシコ国内に入るのをためらったのだ。


 ……


 タワーズ長官は、米大陸に侵入した爆撃隊が太平洋へと戻ってくるのを予測していた。爆撃機の飛行ルートは、まだわからないが、アリゾナの探知情報を入手すればすぐに判明するはずだ。

「ウィルキンソン中佐、第4空軍に東から西に戻ってくる爆撃編隊の情報を、我々に通報するように要求してくれ。それとFJ-3セイバーの出撃準備を急ぐのだ。FJ-3ならば、あの大型機の迎撃は可能なはずだ。レーダーを搭載したPB4Yを西方に飛行させてくれ。東から戻ってくる敵編隊を、空中で発見させる。索敵機がメキシコ上空に入ってもかまわん。メキシコも日本に宣戦布告しているのだからな」


 着陸したFJ-3が出撃の準備をしている間に、最初の12機編隊はロサンゼルスの北方を太平洋に飛行していったが、次の編隊がまだ飛行してくるはずだ。


 やがて、カールスバッド基地のレーダーが日本編隊を捉えた。ニューメキシコの南方を飛行する編隊の情報が入手できた。そのまま西に飛行すればアリゾナ州かメキシコの北側を飛行して、サンディエゴの南方を通過して太平洋に出るだろう。もしかするとカリフォルニア湾の上空を横切って太平洋に出るつもりかもしれない。


 続いて、西に飛んでいたPB4Yがレーダーで探知した編隊の情報を通報してきた。案の定、カリフォルニア湾を目指してメキシコ上空を飛行してくる。アリゾナ州内の飛行体も探知されたが、目撃情報からおとりだと判明した。


「FJ-3セイバーを発進させよ。南下してカリフォルニア半島上空で待機だ」


 ……


 マカスキー大尉の4機のFJ-3セイバーはサンディエゴを離陸して、どんどん南下していった。東方から飛行してくる日本編隊の位置情報が司令部から入って来た。かなりの高高度を飛行してくる。やがてカリフォルニア湾の上空にゴマのような点が見えてきた。

「日本軍の爆撃機を視認した。我々よりも更に高い所を飛行している。高度40,000フィート(12192m)まで上昇するぞ」


 FJ-3セイバーは、推力2.5トンのJ-47ジェットエンジンを全力でふかすと、日本編隊よりも高いところまで、ぐんぐん上昇していった。サイドワインダーのシーカーがエンジンの赤外線を捉えられるように、日本編隊を一度上空でやり過ごして後方に回り込んだ。日本軍機はジェットエンジンも作動させて500mile/h(805km/h)以上の速度で飛んでいるが、FJ-3は600mile/h(966km/h)を超えてまだ加速していた。容易に距離を詰めてゆく。


 マカスキー大尉の耳にサイドワインダーのシーカーが赤外線源を捕捉したことを示す音が聞こえてきた。

「サイドワインダーを発射するぞ。各機ともよく狙え。繰り返す、赤外線を補足してからミサイルを発射せよ」


 列機のアダムスキー中尉も同じ機体を狙って、対空ミサイルを発射した。

 4機のFJ-3から8発のサイドワインダーが編隊後方の2機の爆撃機を狙って飛行していった。


 野中少佐は、後方から米軍機が接近しているとの報告を受けていた。既にエンジン全開で、ジェットエンジンの再燃焼器も作動している。橘花改や紫電改などのジェット戦闘機に近い速度が出ているはずだ。それでも米軍のジェット戦闘機は近づいてきた。


「こちら最後尾の宮前。後方から4機の高速戦闘機が接近。後退翼を備えたスマートなジェット戦闘機だ。明らかに我々よりも高速で、どんどん接近中です」


「各機に命令。敵の噴進弾攻撃に注意しろ。噴進弾を発射してきたら、熱線弾を発射せよ。もう一度言う。熱線のおとり弾を使え。但し、早まるな。敵の噴進弾を引き付けてから発射だ」


 宮前大尉の機は不幸にも2機のFJ-3に狙われていた。発射された4発のサイドワインダーが向かってくる。後方が良く見える尾部銃座の村山飛長が叫んだ。

「噴進弾が接近してくる。数は4。白煙を引いて本機に向けて飛行中」


 宮前大尉も負けないくらいの大声で叫ぶ。

「おとり熱線弾を全弾発射。全て発射せよ」


 富嶽は、熱線弾を戦闘機の2倍以上搭載していた。それを一気に射出した。二百を超える数のオレンジ色の熱線弾が、巨大な鳥が羽を広げたように胴体の左右に広がってゆく。宮前機を狙っていた2発のミサイルは、目標をおとりに変えて、下方へと飛行していった。しかし2発は欺瞞されずに右翼のエンジン排気に狙いをつけて飛んできた。1発は右翼の先端で爆発して、右翼のジェットエンジンに破片を撒き散らせた。更にもう1発が、右翼下方の6番ターボプロップエンジンの近くで近接信管を作動させた。


 爆発の瞬間、2度の猛烈な振動が機体を揺さぶった。右側のジェットエンジンと6番ターボプロップエンジンが直ちに停止した。


 機関士の須田上飛曹が報告してくる。

「右側ジェットエンジンと6番から火災発生。両方のエンジンの消火器が作動しました。5番エンジンにも回転数に異常あり。どこかに破片があたったのかもしれません」


 宮前大尉はうなずいて聞いていることを示すが、返事をしている余裕がない。

「阿部、左旋回しながら、降下に入れるぞ。操縦桿を押し込め」


 せーのという合図で、宮前大尉と阿部上飛曹が富嶽を急降下に入れた。本来、大型爆撃機では許容されないような角度での急降下だ。


 攻撃から逃れるためと、飛行を安定させるための双方の理由から、宮前大尉は富嶽の高度を7,000m辺りまで下げていった。幸いにも爆発の破片で胴体に穴が開いて与圧が抜けることはなかった。これ以上、敵機が出てこないことを祈るだけだ。


 宮前機の前方では、2発のサイドワインダーに狙われた富嶽が、熱線弾を放射して赤外線誘導弾を避けようとしていた。回避のために機首を右に向けて旋回を始めた。やがて、富嶽の左翼の外翼側で1発が爆発した。左翼から一時的に煙が噴き出すがすぐに消えた。左翼側のどこかに被害は出ているだろうが、富嶽は至近弾1発くらいで飛行に大きな影響が出ることはない。


 マカスキー大尉は、自分と列機が発射した4発のミサイルのうちの2発が爆撃機の右翼の右と下部で爆発するのを確認することができた。右翼のエンジンから激しく煙を噴き出すと、機首を急激に下げていった。大尉は、急降下する敵機を撃墜確実と判断した。


 アダムスキー中尉は、その前方の富嶽に2発の空対空ミサイルを発射した。うまいタイミングで赤外線フレアを射出したので1発が狙いを外したが、1発は左翼の外翼側で爆発した。左翼のエンジンに被害を与えたようだが、消火器が作動してすぐに炎を消した。それでも次第に高度を下げてゆく。


 マカスキー大尉とアダムスキー中尉は、脱落してゆく機体は無視して、更に前方の爆撃機を目指して接近してゆく。ミサイルは撃ってしまったので銃撃のために距離を詰めていった。


 接近すると、大型爆撃機の尾部から撃たれているのに気がついた。前方の2機の爆撃機の尾部銃座からオレンジ色の曳光弾が飛んでくるのが見える。大尉は、機体を一瞬左に傾けて銃撃を避けた。しかし、横を飛行していたアダムスキー中尉は回避が遅れた。一瞬、銃弾がアダムスキー中尉の機体を薙ぎ払った。FJ-3の表面で20mm弾が爆発するのが見える。FJ-3はクルリと背中を下に向けると黒煙を引きながら降下していった。


 FJ-3は、エンジン全開で上昇を続けたために、サンディエゴまで帰ることを考えると既に燃料が心配になっていた。マカスキー大尉は、後方の2機に向けて、バンクで知らせる。敵爆撃機が降下しながら残していった黒い煙が下方に伸びているのが見える。

「基地に帰るぞ」


 続いて、サンディエゴ基地に連絡した。

「マカスキーだ。カリフォルニア半島の北側上空で、アダムスキー中尉が被弾、墜落した。救助を願う。敵機は2機に被害を与えた。我々はこれから帰投する」


 ……


 宮前大尉はなんとかハワイ基地まで戻ろうと悪戦苦闘していた。ジェットエンジンと6番エンジンの被害ならば、なんとか帰れそうだ。しかし、調子の悪かった5番エンジンの温度が次第に上昇してきていた。ついに太平洋が見えたところで停止してしまった。それでも高度4,000mを維持して4発のエンジンでなんとかよろよろと飛行していたが、ついに全開を続けていた4番もおかしくなってきた。

「4番温度上昇。回転数が下がります。長く持ちません」


 片方の翼の全エンジンが停止したら、さすがに速度を落としても飛ぶことは困難になる。

「このまま行けるところまで行って、4番が止まったら海上に着水するぞ」


 須田上飛曹の予告通り、やがて4番ターボプロップが停止した。

「通信士、本機の着水を基地に通報。時間がないので、平文でいいぞ。時間と位置情報を忘れるな」


 水平飛行が不可能になって次第に高度が下がり始める。海面が迫って来た。あとはできる限り穏やかに着水させるだけだ。


 ……


 海上を2隻のゴムボートが波に揺られていた。何とか宮前機の全員がゴムボートに乗ることができた。太平洋の波に揺られていると、やがて潜水艦が近くに浮上してきた。潜水艦はゆっくりとゴムボートに近づくと、ロープを渡してゴムボートを引き寄せた。


「富嶽爆撃隊の宮前です。救助していただいてありがとうございます」


「この艦は伊号19潜で、私は艦長の木梨です。厳しい任務の遂行、ご苦労さんです。ハワイ島の基地から連絡を受けて、たまたま近くにいた我々が救助することになりました。これからハワイ島のヒロの港に向かう予定です。まあ、3日もあれば到着すると思います」


 宮前大尉たちの任務は終了した。

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