16.6章 サンディエゴ攻撃

 ロサンゼルスに向けて三航戦の攻撃隊が飛行しているころ、四航戦の昇龍と黒龍からサンディエゴに向けて攻撃隊の発艦が始まった。発進した攻撃隊は、三航戦から飛来した32機の紫電改と合わせて、圧倒的に戦闘機中心の編成となっていた。給油母機の流星と合わせて以下のような編隊が米大陸に向けて飛行を開始した。


 紫電改96機、流星(給油母機)12機、三式艦偵8機


 三式艦偵から、しばらく遅れて紫電改が4つの編隊に分かれて飛行していた。一部の最新型の紫電改は空中給油を受けられるように燃料受給用のパイプを装備している。


 紫電改の編隊は、50分ほど飛行すると、ハワイ島を離陸して先行していた連山の編隊に追いついた。日本全土からかき集めた28機の連山が洋上を飛行していた。サンディエゴ軍港に対する爆撃隊だ。


 カリフォルニア州のサンディエゴは、米太平洋艦隊の巨大な母港であると同時に、艦艇を建造するための大規模な工廠でもあった。日本海軍に例えれば、呉に相当する西海岸最大の米海軍基地だ。あるいは、大西洋のノーフォーク海軍基地に匹敵する太平洋岸の基地と言った方がわかりやすいかもしれない。


 ……


 紫電改に護衛された連山が東に飛行してゆくと、海上を哨戒していた海軍のPB4Yのレーダーに探知された。直ぐに基地司令のクレイグ大佐に報告が上がってきた。ジョーンズ中佐が走って報告にやってくる。

「サンディエゴに接近してくる編隊を探知しました。レーダー反射からは、大型機を含む大編隊です。明らかに攻撃隊だとのことです」


「ロサンゼルスへの攻撃はおとりだったということなのか?」


「残念ながら、ロサンゼルスへの攻撃は陽動作戦でしょう。サンディエゴの我が軍の基地と湾内の艦艇が主目標と考えられます」


 すぐに大佐は決断した。

「サンディエゴ基地に残った戦闘機を全部上げてくれ。すぐにバウアー中佐の隊を呼び戻せ。陸軍の基地からも迎撃機を上げるよう要求するぞ。モリス准将につないでくれ。私から陸軍に戦闘機の出撃を要請する」


 ……


 コーク大尉は自分の基地が攻撃されたのは、遠方からでも知ることができた。基地の上空に次々と爆煙が立ち上ったのだ。被害の程度ははっきりしないが、着陸ができるかどうかも怪しい。しばらくロサンゼルスの南方を飛行していると、モリス准将の怒鳴るような声が聞こえてきた。

「敵の狙いはサンディエゴの軍港だ。西から日本軍の大型爆撃機が接近している。直ちに南下して迎撃せよ」

 どうやら、海軍のバウアー中佐も同じ命令を受けたらしい。一斉に南方に向けて旋回している。


 バウアー中佐は、日本軍の誘引作戦に引っかかったことがわかって、機内で歯ぎしりしていた。ロサンゼルスの飛行爆弾は、北に戦闘機隊をおびき出すためのおとりだったのだ。どんなに急いでも軍港まで戻るには、10分以上かかる。その間に軍港に対する日本軍の攻撃が始まってしまうかもしれない。


 ……


 96機の紫電改の編隊が西方からサンディエゴ港に向けて飛行してゆくと、米大陸の西側の海上で最初に遭遇したのは、西岸の海軍基地から飛んできたジェット戦闘機だった。


 紫電改は、4群に分かれて飛行していた。前方の編隊を指揮する昇龍戦闘機隊の牧野少佐に無線が入って来た。

「こちら、電探警戒1号機の篠崎だ。方位80度、12浬(22km)、米戦闘機が上昇してくる。注意せよ」


 牧野少佐が警告を受けた方向を注視していると、しばらくしてシミのようなものが見えてきた。すぐさま、少佐は前方に見えてきた米軍編隊に対して攻撃を命令した。

「前方に米軍ジェット戦闘機だ。一旦、南方に回り込んで、側面から仕掛けるぞ」


 40機の紫電改が米編隊の南側に回ってから、北に向きを変えて側面から攻撃を仕掛けようとした。


 フォス大尉が率いていたFO-2の編隊は、緊急発進したために崩れた編隊で飛行していた。編隊の形がおかしいのは、必ずしも急いで発進したことだけが理由ではない。まだ戦闘機に慣れていないパイロットが、編隊を乱しているのだ。ロサンゼルス方面に向かったバウアー中佐が連れていった腕のいいパイロット達がいれば、こんなことにはならないはずだと思ってもどうしようもない。日本軍との太平洋の戦闘の結果、いつも海軍機は大きな被害を受けていた。さすがの米海軍もパイロットの訓練が追いつかなくなっていた。


 正面に見えている大型機の編隊とは別行動の日本軍機が南側から襲ってきた。日本軍機の後方に回り込むために、左旋回を指示した。

「7時方向から敵機だ。左に回避せよ」


 30機のFO-2は西に向かって飛行していたが、南西に向けて方向を変えようとした。結果的に、日本と米軍の双方の戦闘機が水平旋回で、相手の後方に回り込む形になった。


 牧野少佐は、中途半端な旋回をして遅れ気味になる米軍戦闘機を見逃さなかった。

「噴進弾を発射しろ。相手はひよっこだ」


 まず20機の紫電改が、遅れて旋回していた15機程度の編隊に向けて300発以上の噴進弾を発射した。たちまち6機のFO-2が落ちてゆく。そのままFO-2の編隊に向けて突っ込んでゆくと、更に5機を撃墜した。


 フォス大尉は、列機としてついてきている機体を見まわしていた。約15機が編隊を維持してついてきているだけだ。残りの機体は後方でジョージ(紫電改)に襲われているようだ。

「なんてこった、あっという間に半減だ。新米は、経験を積む前にみんないなくなってしまう」


 前方にも別編隊のジョージが旋回しているのが見える。

「ジェットの排気孔が見えたら、サイドワインダーを発射しろ」


 牧野少佐の編隊から離れて飛行していた、亀井一飛曹の無線に隊長の声が聞こえてきた。

「後方の敵編隊に注意しろ。5時方向だ。敵の誘導型噴進弾に注意せよ」


 ハワイ島の攻撃時に米軍が使用した赤外線誘導の噴進弾については、再三注意されていた。5時方向の機体から白煙が上がるのが見えた。誘導弾の発射だ。亀井一飛曹は、12機編隊の列機に向けて鋭くバンクを繰り返しながら、操縦席左側につけられたレバーを思いきり押し倒して赤外線を放射する熱線弾を発射した。周りの紫電改もほぼ同時に熱線弾を発射したので、周りが一瞬でオレンジ色になった。


 亀井一飛曹は後方から自分の小隊に迫ってくる6本の白煙を発見した。一飛曹は全力で操縦桿を右に倒しながら体の方に引き付けた。紫電改は、ロールしながら東南に向けて上昇を始めた。そのまま背面になると上昇した頂点でインメルマンのように機首を下げて急降下を始めた。後方から迫っていたサイドワインダーは、熱線弾で4発が欺瞞されて、更に2発が太陽に向けて飛行していった。垂直に近い角度で急降下すると下方には、サイドワインダーを射撃したFO-2が背中を見せて飛行していた。そのまま20mm機銃を射撃すると、FO-2は黒煙を噴き出して墜落していった。右翼方向では、旋回が遅れた2機の紫電改がサイドワインダーに捕まって、胴体後部に被弾して落ちていった。


 ……


 海兵隊のマギー大尉は、FHファントムに搭乗して、日本軍機の迎撃のために海上に出て西に向けて上昇していた。FO-2シューティングスターよりも速度に劣るファントムはどうしても遅れ気味になる。西側の上空では既にジェット戦闘機の戦いが始まっていた。


 大尉は遠方に見えてきた大型機を攻撃することにした。どういう理由かわからないが、米大陸に一気に接近する気がないような離れたところを飛行している。それでもぎりぎりファントムの要撃可能な距離だ。四発の大型機であってもサイドワインダーを直撃させれば、間違いなく撃墜できるだろう。

「10時方向、遠方に見えている爆撃機を攻撃する」


 左翼側に機首を向けて上昇を続ける。しかし爆撃機の攻撃可能な位置につく前に、上空を飛行していた戦闘機が急降下してきた。


 黒龍戦闘機隊の小林大尉は、前方から米軍機がやってきた時も、連山隊の前方の位置から離れずに飛行していた。米軍の戦闘機にしては、数が少ないと感じたからだ。今までの戦闘経験から、違う方向から別の編隊が攻撃してくるに違いないと感じていた。

「電探警戒機だ。方位100度に米軍機、8浬(15km)まで接近している」


 言われた方向を見ると、案の定、上昇してくるジェット戦闘機を発見した。ハワイでも相手をした双発のジェット戦闘機が30機くらい見える。編隊に指示する。

「下方から上昇してくる戦闘機を攻撃する。恐らく米海軍のジェット戦闘機だ」


 小林大尉の40機の紫電改は、FHファントムの編隊に向けて降下していった。そのままの姿勢で噴進弾を発射する。想定通りに北に向けた旋回で回避した。これで米軍機は、連山爆撃隊をすぐに攻撃することはできないだろう。小林大尉はFHの後方に向けて、左回りに急旋回すると接近していった。経験が少ないのだろう。緩い旋回をしていて、まるで練習機のようだ。一気に近づくと、ためらわずに機銃を射撃した。同様の行動をとった列機もそれぞれFHの後方につけた。一撃で10機程度のFHが煙を吐いて落ちてゆく。


 一方、噴進弾を旋回して回避した前方編隊のFHは、サイドワインダーを発射した。20発以上のサイドワインダーが飛行してゆく。20機の紫電改が後部胴体から熱線弾を発射した。そもそもシーカーが充分な赤外線をとらえる前に、遠方から発射されたミサイルは、半数以上があらぬ方向に飛んでいく。かろうじて紫電改の方向に飛行した10発程度のミサイルも、熱線弾に欺瞞されて何もない方向に飛行していった。サイドワインダーの命中を免れた紫電改は、すぐさま旋回して米戦闘機に反撃を開始した。後方から射撃を受けて6機のFHが墜落してゆく。


 ……


 戦闘機隊の後方で、独立した編隊を組んで飛行していた昇龍戦闘機隊の吉村中尉の編隊は、既に給油母機の流星からの空中給油を受けていた。


 12機の紫電改は、他の戦闘機隊とは違って、空戦に参加せずまっすぐにサンディエゴの軍港上空を目指していた。給油したおかげでサンディエゴ上空まで飛行してもまだ燃料の余裕がある。やがて、前方に細長く入り組んだ特徴的な湾が見えてくると、周りで高射砲弾が爆発を始めた。


 後方の電探警戒機から、通報が入る。

「篠崎だ。米軍の電探に対して電波放射を開始する。電探照準に対する妨害を開始する」


 周囲の対空砲火が若干弱まったような気がするが、高角砲弾の爆煙はまだ周囲で発生している。港湾に接近したところで吉村中尉が命令した。

「アルミ箔を射出せよ」


 12機の紫電改の胴体後部の両側から束になったアルミ箔が火薬によりいくつも放射状に射出された。アルミ箔の束は空中でバラバラになって風に流されてゆく。


 紫電改の編隊は、かなりの急角度で急降下すると、湾の東岸の埠頭に停泊している艦艇に向けて噴進弾を発射していった。いずれも、焼夷弾頭を有する噴進弾だ。噴進弾の命中により、艦船の甲板で火災が発生する。続いて湾の入り口のノースアイランドの海軍基地の建物に向けて電波発信器を投下した。


 ……


 バウアー中佐とフォス大尉が率いたP-80とFO-2の編隊はやっとのことで、日本軍機が見えるところまで飛行してきていた。


 電探警戒機が新たな編隊の出現に警戒を発した。それもかなりの数の編隊だ。

「方位340度から戦闘機の編隊が接近中。ロサンゼルスの流星隊が誘引していた戦闘機隊が南下してきたものと推定」


 FHファントムを追い払った小林大尉の編隊が直ぐに応答した。

「小林だ。北方の米戦闘機を阻止する」


 戦闘が始まったが、さすがに同数以上の数に紫電改はやや劣勢となる。やがて、10機程度の米軍機が戦闘から抜け出して、西方に向かっていった。バウアー中佐が想定したよりも日本の爆撃隊は遠方を飛行していた。


 一方、連山爆撃隊では、頃合いを見て、編隊長の嘉村大佐が命令した。

「全機、飛行爆弾を投下せよ。前方では米軍戦闘機と我が軍戦闘機の戦いが始まっている。投下したら、すぐに、基地に戻るぞ」


 連山隊は、各機が4発搭載していた飛行爆弾を発射していた。サンディエゴの西方沖で28機の連山が112発の飛行爆弾を発射した。


 バウアー中佐は、爆撃機を目指していたが、爆撃機に接近するよりも先に、大陸に向かう小型の飛行体に遭遇することになった。バウアー隊のFO-2とフォス大尉のP-80編隊は、西方から飛行してくる多数の飛行爆弾を発見した。編隊の列機に飛行爆弾の攻撃を命令した。

「小型機を攻撃しろ。無人機だが、撃墜数にカウントするからしっかり撃ち落としてくれ」


 しかし、既にサイドワインダーは撃ち尽くしている。後方から追いかけて、機銃で射撃可能な距離まで接近する必要がある。このため、撃墜効率はかなり悪化した。かろうじて、10機程度の飛行爆弾を撃墜できただけだった。


 ……


 日本軍が米大陸に向けて攻撃を開始したことは、太平洋艦隊司令官のタワーズ長官のところにも報告が入ってきた。すぐに、参謀長のマクモリス少将と副官のウィルキンソン中佐を呼んだ。


「日本機の編隊がサンディエゴに接近している。都市への爆撃ではなく、この軍港を狙うつもりだろう。湾内の艦艇に迎撃命令を出してくれ。今更、出港は間に合わない。停泊したままで防空戦闘だ」


 マクモリス少将がすぐに反応する。

「わかりました。停泊中の艦艇には対空射撃とダメージコントロールの準備をさせます」


「それに加えて、誘導弾への対策だ。日本軍は赤外線と電波の誘導弾を撃ってくるぞ。欺瞞用のロケット弾の装備が間に合った船が停泊しているはずだ。その船に誘導弾の防衛をさせるのだ」


 続いて、ウィルキンソン中佐に向き直る。

「新型機を発進させてくれ。敵はジェット戦闘機と誘導弾だ。我々の手元にある最も高速の機体を出撃させるのだ」


「確かセイバーという機体ですね。ほとんどの試験は終わっています。けれどもまだ配備前で、数も少ないはずですが、いいのですね?」


「戦闘機隊は、ロサンゼルス方面におびき出された。迎撃できる手持ちの兵力は全部投入してくれ。我々は日本軍のおとり作戦に引っかかったのだ」


 タワーズ長官はそこまで話して、違和感を感じた。ロサンゼルスは単に戦闘機隊を誘引するための陽動作戦だったのか。それにしては攻撃機の数が多い。おとりであれば、ロサンゼルス側の数を減らしてサンディエゴに攻撃を集中すべきではないだろうか。


 ……


 サンディエゴ海軍のノース基地から、4機のFJ-3セイバーが離陸した。当初、ノースアメリカン社は直線翼の機体としてこのジェット戦闘機を設計していた。しかし、タワーズ長官からの強い要求により、急遽、主翼前縁で35度の後退角を有する機体に設計変更したのだ。搭載していた新型のJ-47エンジンは2.4トンを超える推力を発揮した。後退翼により、試験機の速度は、620mile/h(998km/h)を超えた。メートル法に換算すれば1000キロ級戦闘機の完成だ。


 セイバーに搭乗していたマカスキー大尉は、ミッドウェーで彼の母艦であるエセックスが沈められて、駆逐艦のそばに着水した経験があった。今日こそは、日本軍機に仕返ししてやると気張っていたが、彼への命令は、飛行している誘導ミサイルを撃墜することだった。ウィングマンのアダムスキー中尉に指示を行う。


「なんと、基地からの指示は飛行爆弾への攻撃を優先せよとのことだ。まずは、サイドワインダーで攻撃する。その次は銃撃で落とすぞ。弾頭は炸裂弾だから、あまり近づくな。爆発に巻き込まれる可能性がある」


 日本の飛行爆弾に比べれば圧倒的に速いセイバーは、難なく飛行爆弾の後方につけるとサイドワインダーを発射した。数をこなすために1発の発射だ。アダムスキー機も別の飛行爆弾を狙って発射する。4機の飛行爆弾を撃墜したところで、銃撃のために接近してゆく。弾頭の誘爆を警戒して遠方から射撃するために、どうしても弾丸の消費が多くなる。合計で6機の飛行爆弾を撃墜したところで、前方から上昇してくる4機の紫電改を発見した。


「2時方向、4機のジョージ(紫電改)だ。我々の機体ならば勝てるはずだ。攻撃するぞ」


 2機のFJ-3セイバーは南東方向に鋭く旋回すると、斜め上方から攻撃する態勢になった。紫電改は上昇を中止して、ロールしながら方向転換しつつ、機首を下げて急降下で回避しようとした。急降下は相手がP-80ならば、恐らく逃げることが可能な機動だろう。しかし、高速のセイバーは、引き離されることなく紫電改の後方に迫って来た。マカスキー大尉が射撃すると、クルリとひっくり返って、オレンジ色の炎を尾部から噴き出しながら落ちていった。アダムスキー中尉も、編隊末尾の紫電改に上空から急接近すると一撃で撃墜した。


 ……


 連山から発射された112発の飛行爆弾は、25発以上が米戦闘機に撃墜された。しかもこれだけの数を発射すれば、不具合により脱落する機体も出てくる。サンディエゴ港の上空に達したのは、約70発の飛行爆弾だった。飛行爆弾の編隊が接近すると、軍港の防衛隊が対空射撃を開始した。港湾に停泊していた駆逐艦からも高角砲の射撃が始まる。


 艦艇の中で、8隻が甲板上に白い噴煙を発生させた。次の瞬間、白い煙を噴き出しながら上空に向かって、細長い飛翔体が上昇してゆく。1隻から発射されたロケット推進の飛翔体は、40発程度だ。2,000メートルあたりまで上昇してゆくと、上空で爆発した。爆発した周囲にキラキラした多数の物体が漂い始める。電波妨害用のロケット弾の発射により、港湾の上空にアルミ箔の雲が広がった。


 わずかの間隔を空けて、同じ駆逐艦が今度はオレンジ色の多数の赤外線源を花火のように打ち出した。多数の熱源が上空に広がってから、ゆっくりと落ちてきた。


 レーダーの電波に反応する飛行爆弾は、ノース基地の対空レーダーの電波をとらえて、数発が基地の無線ビルに突入した。一方、湾の東側に飛行した飛行爆弾は上空のアルミ箔の雲を突き抜けると、対空射撃をしていた駆逐艦の艦橋を目標として突入した。


 タワーズ長官は、日本の無線による誘導弾は小型レーダーを備えて、その反射波から目標を探知して突入する誘導弾だと考えていた。米海軍のBATが採用したのと同じ誘導方法だと考えたのだ。しかし、日本軍の飛行爆弾は電波を受信して、その発信源に向かってゆくという誘導方法だった。従って電波の反射体である金属箔の雲により欺瞞されることはない。米軍レーダーのマイクロ波発信源を捕捉すれば、それに向けて突入した。紫電改が投下した電波発信源を狙うように無線周波数を事前調整した飛行爆弾も存在していた。次々と海軍基地や工廠の建物に爆弾が命中した。


 一方、赤外線誘導の飛行爆弾に対しては、タワーズ長官の対策がうまく当たった。湾内の艦艇が打ち上げたフレアが飛行爆弾を引き付けた。飛行爆弾は海面に向かって落ちる赤外線源に向かって飛行していった。多数の赤外線誘導の爆弾が欺瞞されて海面上に落ちていった。それでも20発程度は、欺瞞されることなく紫電改が発射した焼夷弾頭の火災や噴進弾の燃焼をとらえて、駆逐艦や巡洋艦の甲板に命中した。


 サンディエゴの空襲は、飛行爆弾の一撃だけであっという間に終わった。あちらこちらに煙を上げている建物や艦艇がみられる。湾内には最低5隻の駆逐艦が無残な姿をさらして着底していた。ノース島の飛行場からも格納庫から盛大に黒煙が立ち上っている。それでも、軍港は次第に落ち着きを取り戻していった。

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