13.3章 オアフ島第二次空襲

 第一次攻撃隊の帰投後、直ちに各機動部隊はオアフ島への第二次攻撃隊の準備を開始した。航空基地への攻撃を行っただけでは、まだ攻撃すべき目標は残っている。各航空戦隊司令部は、米戦闘機との空戦状況を確認することで、次の攻撃隊が戦闘機により再び迎撃を受ける可能性を検討した。かなりの戦闘機を撃破したので、迎撃を受けても少数機だと判断した。そのため、一部の烈風改は地上の目標を攻撃するために、25番(250kg)を搭載することとした。


 第二次攻撃隊は、飛行高度を下げることもなく、最も距離の短い直線的な経路でオアフ島の西方と南方から飛行していった。四航戦と五航戦からの第二次攻撃隊は、日本の艦艇にとって大きな障害となるオアフ島要塞の無力化を目的とした。日本海軍は開戦前からハワイに居住している日本人から、要塞砲の詳細な位置と設置している砲の種類について情報を得ていた。その後のミッドウェー島からの偵察により、大口径の要塞砲に対してコンクリート製の覆いが追加されていることを知った。開戦劈頭の真珠湾攻撃時に被害を受けた砲台があり、コンクリートによる覆いを追加していたのだ。従って、一部の爆撃機が搭載する爆弾には、コンクリート製の防御構造物を破壊するための徹甲弾を搭載していた。


 オアフ島要塞への攻撃を目標とした編隊は、南方からオアフ島に接近した。攻撃隊長を務める翔鶴爆撃隊の高橋少佐が、北方にダイヤモンドヘッドが見えてきたところで命令を出した。

「各隊、目標に向けて突入せよ。編隊を解いて突入せよ」


 爆撃隊は、攻撃すべき目標に応じて、数隊の編隊に分離して、異なる方向に飛行していった。


 優先目標は、真珠湾に近づく艦船にとって最も危険な16インチ(40.2センチ)砲だった。真珠湾南方の出入り口西岸に位置するウェーバー要塞に向かって、高橋隊は南方から接近していった。上空から見ると、海岸寄りに巨大な砲身が南方に突き出たコンクリート製の構造物が2つあることが分かった。その建造物の左右にやや離れて、円形の土塁に囲まれた陣地が約10カ所見える。それぞれが単装の高角砲や対空機銃を備えている。

「対空砲を攻撃せよ。手順通りだ。対空砲を攻撃」


 命令を受けて、烈風改が急降下すると噴進弾と機銃で円形の土塁の中の火砲を攻撃した。高角砲と機銃が上空に向けて射撃を始めるが、全てを合わせても火箭の数は10程度だ。特段の装甲防御がされていない3インチ(7.62センチ)対空砲は、あっという間に烈風改の攻撃により沈黙してしまった。上空に向けて射撃をしていた対空機関銃も、20mmの銃撃により破壊された。


 対空砲火が沈黙すると、高橋隊長は爆撃機に攻撃を命じた。

「大口径砲を攻撃せよ。目標は2基の砲台。攻撃開始」


 コンクリート製の砲台に向けて、流星が降下してゆく。徹底的に砲台を破壊するために、100番(1,000kg)4号の徹甲弾により攻撃することが当初から決められていた。赤外線誘導弾ではなく、急降下爆撃による無誘導での攻撃だ。比較的大きな陸上の動かない目標に対して、重量1トンの爆弾はかなりの確率で命中した。4号爆弾は、投下後は推進剤により加速することで、弾着時には音速近くになる。100番4号爆弾は、もともと戦艦の200mm以上の装甲板を貫通することを目標として開発されたので、爆弾の頭部は分厚い合金鋼製であった。


 一方、米軍の要塞砲のコンクリート製のケースメイトは、上部が戦艦の主砲弾に対する防御を想定して、天蓋の厚さが約30フィート(9.1m)あった。急降下により、1トン徹甲弾が命中すると、爆弾は約5mまでもぐりこんだが、分厚いコンクリートが爆弾を途中で止めた。コンクリート製の天井の中で、貫通できなかった爆弾が爆発した。コンクリートは、爆発により円錐状に天井がえぐれて、放射状に亀裂が入った。


 目標の破壊を確認するまで、続けて急降下爆撃が行われた。更に1発が最初の爆弾の近くに命中すると、厚さが減ってひび割れたコンクリートは耐えることができなかった。ついに1トン爆弾が砲塔内に貫通して、遅働信管が内部で爆発した。爆発の衝撃で砲身が砲座から外れたのか、砲塔から前方に出ていた砲口が地面に接地するように垂れ下がってしまった。直後に砲塔の開口部から激しく黒煙が出てきた。但し、弾薬は離れた地中庫に貯蔵されているようで、誘爆は発生しない。同様の攻撃により、残った1門の16インチ(40.2センチ)砲も破壊された。


 同じころ、バーバーズ岬の海軍飛行場の北側に建設されたバレッタ要塞も、別動隊が攻撃していた。この要塞も2門の16インチ(40.2センチ)砲を有していたため、優先度の高い攻撃目標となっていた。紫電改が噴進弾により対空砲を破壊した。次に、流星が100番爆弾の攻撃により、2門の16インチ(40.2センチ)を完全に破壊した。


 次に攻撃されたのは、ダイヤモンドヘッドの射撃観測所だった。山腹に地中四階建ての構造で建設された要塞は、高所から海上を監視して、ダイヤモンドヘッド周囲に配置された要塞砲の照準を行う機能を有していた。紫電改の編隊は、南の海側から近づいて攻撃を行った。


 紫電改はダイヤモンドヘッドの山腹ぎりぎりまで降下してから、斜面に開口した横長の長方形の穴を見つけると、次々に噴進弾による攻撃を行った。長方形の開口部は要塞から海上の観察や照準を行うための窓だ。発射された噴進弾は大部分が山肌に直撃して阻止されたが、数発は長方形の開口部から内部へと飛び込んでいった。続いて穴の中で爆発が起こり、噴進弾の推進剤により火災が発生する。紫電改が攻撃を行った後には、開口部から黒煙が噴き出して被害を与えたことが分かった。別の小隊が離れた位置の開口部を見つけて攻撃を行っていった。噴進弾を発射してしまった紫電改は、別の窓に向けて20mm機関銃で銃撃を繰り返している。攻撃の結果、山腹から立ち上る黒煙は確実に増えていった。一部の開口部からは、内部に発生した火災により炎が噴き出してきた。


 続いて、海岸から見てダイヤモンドヘッド裏側にある要塞砲が攻撃された。北側のルーガー要塞には、旧式の8門の12インチ(30.5センチ)臼砲、2門の12インチ(30.5センチ)列車砲、2門の6インチ(15.2センチ)砲が設置されていた。


 最初に紫電改が対空砲への噴進弾攻撃を行って沈黙させる。続いて、彗星が急降下して80番4号爆弾で攻撃すると、爆弾は12インチ(30.5センチ)砲のコンクリート製の天蓋を貫通して内部で爆発した。これらの砲台の防御は、1000ポンド(454kg)爆弾を想定した防御となっていたので、800kg爆弾が1発でも直撃すれば破壊された。


 ダイヤモンドヘッド西側のデルーシー要塞も同時に急降下爆撃を受けた。ここには2門の旧式の14インチ(35.5センチ)砲と2門の6インチ(15.2センチ)砲が設置されていた。紫電改が高射砲陣地を噴進弾攻撃した。次に流星の小隊が臼砲の砲台に急降下爆撃を行って、バラバラに破壊した。隣のアームストロング要塞の2門の3インチ(7.62センチ)砲も爆撃により破壊された。


 真珠湾の外洋との通路の東方に位置しているのが、カメハメハ要塞だ。真珠湾防衛のかなめとして多数の砲を備えたこの要塞には、12インチ(30.5センチ)臼砲が8門と12インチ(30.5センチ)榴弾砲が2門、6インチ(15.2センチ)砲が2門、3インチ(7.62センチ)砲が2門配備されていた。烈風改の噴進弾攻撃の後に、30機近くの流星隊が攻撃を開始した。次々と80番4号を砲塔の天井に命中させて破壊してゆく。


 全ての砲塔を破壊したので残りの機体が、6インチ(15.2センチ)砲台の北側に建設されていた別のコンクリート製の掩体壕を爆撃した。爆撃後、一瞬の時間をあけて、コンクリートと周囲の土壌を粉々にして吹き飛ばすような大爆発が発生した。きのこ雲のような巨大な煙が立ち上る。砲弾と発射薬を収容していた弾薬庫に爆弾が命中して誘爆したのだ。この様子を見て、すかさず12インチ(30.5センチ)砲の北西方向にある類似の建築物を上空から見つけて、1機の流星が急降下爆撃した。先ほどと同様の大爆発が起こるとともに、隣接していた12インチ(30.5センチ)砲も爆発の衝撃で台座から外れて吹っ飛んでしまった。


 オアフ島の西端と東端には、日本軍の真珠湾攻撃により沈没してした戦艦の主砲を要塞砲として移設するための建設が行われていた。しかし、真珠湾の港湾機能の復旧が優先されたため、工事がはかどっていなかった。それでも日本軍はアリゾナから陸揚げされた2門の主砲を見つけて、彗星が急降下爆撃で、砲塔の天蓋に1発の爆弾を命中させた。爆弾は主砲塔の内部にまで貫通して一撃で14インチ(35.5センチ)の戦艦の主砲を破壊した。


 ……


 一航戦、二航戦、三航戦の第二次攻撃隊の攻撃目標は、真珠湾岸に再建されつつある石油タンク群と海軍の工廠設備、太平洋艦隊の施設だった。真珠湾内に停泊していためぼしい艦艇は既に湾外に退避していたので、攻撃目標にはならない。


 要塞を攻撃している同時刻、一航戦と二航戦から発艦した攻撃隊は真珠湾の上空に達していた。この部隊が最初に攻撃したのは、真珠湾の石油タンク群だった。


 米軍は真珠湾を囲む範囲に3カ所の石油タンク群を建設していた。最も大規模な貯蔵施設は、海軍工廠のドックの南側エリアの石油タンク群だった。この石油タンクは、重油を蓄えていて、開戦時の真珠湾攻撃により、重油火災を発生させて完全に破壊した。しかし、今回の攻撃時には復旧に向けて建設途中で部分的にタンクが完成していた。再建設に伴い、個々のタンクの周りには土塁のように盛り土を追加して、流れ出た重油で一気に多数のタンクが爆発することを防止できる構造に変わっていた。このため、一撃で複数のタンクを破壊するというようなことができない。流星や彗星に戦闘機まで加わって、25番爆弾や噴進弾攻撃により、一つ一つ破壊することになった。全弾ではなく、数発の噴進弾に抑えて攻撃することにより、1機で複数のタンクを攻撃できる。しかも、流出した石油に対して燃焼中の推進剤により着火することがあるので、一石二鳥となった。


 真珠湾東岸の指令部施設に隣接した東北から東南のエリアにも石油タンクが設置されていた。北側には径の大きなタンクを配備して、小さな径のタンクを南側に建設していた。開戦時の真珠湾攻撃部隊が石油火災を発生させて、これらのタンクも破壊していたが、既に7割以上が復旧していた。更にフォード島の東岸にも石油タンクが設置されていた。こちらのタンクには主にガソリンが蓄えられていた。開戦時の真珠湾攻撃時に、アリゾナの大爆発と、ネオショーの爆発により発生した爆風と海上火災を受けて破壊されたが、早期に修理が終わり回復していた。これらの石油タンクも25番と噴進弾の目標となって攻撃された。


 フォード島基地にも石油タンクが設置されていた。これらのタンクには航空ガソリンを備蓄していたため、爆撃しただけで大規模な火災が発生した。流れ出たガソリンがフォード島基地自身の設備も燃やしてゆく。


 真珠湾の南方の工廠設備も攻撃の対象となって爆撃された。爆撃により、クレーンが倒壊して海上に横倒しになった。ドックについては、わざわざ80番爆弾を投下して、コンクリート製の床に巨大な穴をあけた。工廠の工場と判定された長方形の建造物群も攻撃の対象となって、爆弾が投下されると内部に可燃物があった建物からは激しく炎が噴き出した。


 更に、司令部機能を停止させるために、太平洋艦隊司令部の建物も攻撃対象となった。真珠湾の東の海岸と石油タンクに挟まれたエリアの建物が爆撃された。司令部要員は既に退避壕に避難していたために、人的な被害は少なかったが、オフィスビルと通信機器の破壊により一時的に太平洋艦隊司令部の指揮系統が麻痺した。


 また、一航戦、二航戦、三航戦の別動隊は、航空基地を再度空襲していた。航空基地については、第一次攻撃隊の爆撃後に着陸した複数の機体が存在していた基地があった。それらの基地は爆撃効果がまだ不十分だと判定されて、再攻撃の対象となった。


 一航戦の部隊は、爆撃後に着陸した機体が見られたホイラー基地とヒッカム基地を空襲した。オアフ島東部のベローズ基地を二航戦の部隊が攻撃した。三航戦の部隊は、海軍の機体がまだ残っていたエヴァ基地とバーバーズポイント基地を爆撃した。どの基地からも組織的な反撃は既になくなっていた。

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