13.2章 オアフ島空襲 後編

 四航戦と五航戦のオアフ島攻撃開始と時刻を合わせて、オアフ島西方海域からは一航戦と二航戦、三航戦の攻撃隊が発進していた。赤城と加賀、蒼龍と飛龍、隼鷹と白鷹の艦隊は、総計380機余りの艦載機を擁していた。そのうちの270機以上の機体により、3群の攻撃隊を編制した。


 第一群:紫電改20機、烈風改38機、中部隊:橘花改42機

 第一群攻撃目標:米戦闘機の排除、2隊に分かれて、オアフ島の南と中央から侵入

 第二群:烈風改32機、流星68機

 第二群攻撃目標:真珠湾のフォード島海軍航空基地、エヴァ海兵隊航空基地、バーバーズポイント海軍基地

 第三群:烈風改30機、彗星52機

 第三群攻撃目標:ハレイワ陸軍航空基地、ホイラー陸軍航空基地、オアフ島北側のレーダー基地


 ……


 一航戦と二航戦、三航戦から発進した攻撃隊は、オアフ島の西方から接近したがすぐに米軍のレーダーで探知された。マケイン大将とエモンズ中将の合意に従って、陸軍の戦闘機部隊は全てが西方の日本攻撃隊の迎撃に向かっていた。迎撃する戦闘機隊の後方には、日本軍のやり方にならって、レーダーを搭載した偵察型のB-17を飛行させていた。


 P-47サンダーボルトに搭乗したカービー中佐は、32機からなる戦闘機隊を率いていた。ヒッカム基地から離陸して、オアフ島の南側を海岸に沿って西に向けて飛行していた。本来、ハワイ地区のP-47部隊は、80機以上の部隊だったが、昨日の空母上空での戦闘で大きな被害を受けていた。そのおかげで、迎撃に出せるのは、彼の32機編隊ともう一群の22機編隊だけに減ってしまった。


 偵察型のB-17から無線連絡が入ってきた。

「日本軍の編隊は、南方と中央部の二軍に分かれている。南の編隊を迎撃してくれ。南方の編隊は、オアフ島の真西からバーバーズ岬の方向に進んでいるようだ」


「了解した。まさか、今回も偽物じゃないだろうな」


「問題ない。複数のレーダーを使って、時速300マイル(483km/h)で目標が移動していることを確認している」


 レーダー搭載機からの情報に従い、オアフ島の南岸に沿って飛行してから、バーバーズポイントのあたりから海上に出て西方に進出していった。列機から無線が入る。

「隊長、前方に日本軍機の編隊が見えます。1時方向、同高度です」


 言われて1時方向よく見ると、編隊が遠方に見えてきた。日本軍は、オアフの航空基地を攻撃するつもりだろうが、海軍も陸軍も基地を攻撃されても空中の機体は無傷だ。この大編隊が攻撃されない限り反撃はできるはずだ。


 まさか戦闘機隊への攻撃が目的じゃないだろうな。そこまで考えて、悪い予感がよぎった。P-47の翼を左右に揺らして、胴体の陰で見えにくい下方を確認する。前方の編隊は、おとりだった。斜め下方から接近してくる後退翼の影を発見した。反射的にロールしつつ急旋回に入る。同時に飛行隊の各機に向かって叫んだ。

「下方から敵の攻撃だ。回避しろ。緊急回避だ」


 しかし、彼の言葉を聞いてから旋回を開始した機体には、斜め下方から発射された噴進弾の回避は間に合わなかった。あちこちのP-47の至近で爆発が発生する。


 ……


 宮野大尉は、ミッドウェー海戦から帰って、しばらくしてから搭乗することになったこの機体を気に入っていた。とにかく高速が出せるというということが最大の利点だ。しかも紫電改は、単発機なので橘花改と比べれば、旋回戦闘もこなすことができた。プロペラ機の烈風に比べれば大回りの旋回となるが、450ノット(833km/h)の速度を考えれば充分な性能だ。


 もともと単機での空戦というよりも、複数機の編隊で相互に支援する戦闘法を研究していた宮野大尉にとっては、極限の旋回性能はそれほど重要ではなかった。むしろ短時間で飛行方位を変えるための手段ととらえていた。加えて、機首に4挺備えた20mm機銃は、国産化されたエリコン機銃のファミリーの中でも最も高初速のエリコンFFSを国内で生産した機銃だった。雷電や烈風が装備しているエリコンFFLを基にした99式20mm機銃の長銃身型に比べ、更に長銃身で高初速となっている。つまり、遠距離から射撃しても直線的な弾道で命中率が向上することになる。もちろん給弾は他の20mm機銃同様にベルト給弾方式に変更している。


 彼の率いた20機の紫電改の編隊には、後方に烈風改の編隊が続いていた。戦闘機の編隊がオアフ島に向けて東方へと飛行していた。

「電探警戒機2号機だ。バーバーズ岬の西方30浬(56km)に米編隊が飛行中。そちらの11時方向だ」


 11時方向を注視していると前方に飛行中の編隊を発見した。5,000mほどの高度だ。編隊で直線飛行を続けているが、自分達の編隊を発見しているか否か不明だ。

「正面の敵機を攻撃する。紫電改は下方に降下して低空で敵編隊に接近してから攻撃する」


 スロットルをゆっくり押し込んでゆくとエンジンの回転数がだんだん上がってゆく。エンジンが全開になって降下しながらどんどん加速してゆく。一度高度を下げてから、速度を上げながら飛行してゆくと、宮野中隊の各機は上方の敵機を狙うために、横方向に広がって上昇していった。宮野大尉は機体のシルエットから、昨日の戦闘に参加していた米陸軍のP-47と呼ばれる機体だろうとあたりを付ける。

「敵は、陸軍の戦闘機だ。噴進弾を発射せよ」


 宮野大尉が発射したのと、先頭のP-47が気づいて翼を翻したのが同時だった。P-47の編隊を目指して噴進弾が飛行してゆく。編隊内で爆発が連続して発生する。至近の弾頭爆発により、15機のP-47が煙を吐き出してそのまま落下していった。


 宮野中隊の他の機もそれぞれが狙っていた機に向けて、突撃を開始した。20機の紫電改による銃撃で続けて8機が撃墜された。宮野大尉は、そのままP-47編隊の上空に抜けてゆくと、編隊の後方を飛行していたP-47に向かった。ジェット戦闘機の速度を生かしてあっという間に接近してゆく。既にP-47は旋回して回避しようとしていたが、その機動が終わる前にP-47の背後に接近して射撃した。P-47は、あっけなく、金属の破片を飛び散らせながら落ちていった。


 ジェット機は旋回半径が大きくても、高速で旋回することが可能なためプロペラ機よりも短時間で方向を変えることができる。相手の機体の真後ろを犬追いするのではなく、一度外側に出て旋回半径は大きいが高速で向きを変えてから、相手機に一気に迫るという方法で、P-47の後ろにつけた。急降下で逃げようとしたP-47は更に簡単に捕捉される。圧倒的に高速なジェット機に対して急降下しても、機首を下げたところで追いついてきて、攻撃された。続いて7機のP-47が黒い煙の尾を引きながら落ちてゆく。


 宮野大尉は一度上昇して、戦いの様子を確認した。左翼側には別の紫電改の1隊がP-47と戦闘をしているのが見えた。下方を見ると4機の米軍機が急降下してゆくのが見えた。第1撃で宮野小隊の射撃をかわした機体が編隊を組みなおしたのだろう。前方の紫電改を狙おうとしているようだ。大尉は上方から急降下すると列機と共にやや遠方から射撃をしたが、直進性の良い機銃弾は敵機の胴体に命中した。列機の射撃も最後尾のサンダーボルトに命中させた。2機をあっという間に撃墜すると、再び上空に戻った。残った2機の敵機はどこかに消えていた。


 後方の烈風改の編隊は、別のP-47編隊を攻撃していた。20機余りの米戦闘機を38機の烈風改が攻撃することとなり、約2倍の機数で圧倒した。しかも烈風改の方が速度も優れているので、最初から烈風改が一方的に攻撃する戦闘となった。


 ……


 カービー中佐は急旋回でロケット弾攻撃を回避すると、急降下で敵の攻撃圏から離脱した。敵機と距離がとれたのを確認して、周りを確認すると急襲された彼の中隊はばらばらになっていた。どうやら、ロケット弾攻撃とその後の銃撃で半数は撃墜されてしまったようだ。昨日は新型のサム(烈風)に散々やられたが、今日はジェット戦闘機だ。圧倒的に高性能の敵機に、P-47では全く太刀打ちできないことはすぐにわかった。プロペラを持たず、主翼が後ろに傾いた敵の新型機は、いかにも高速を発揮できそうな形態をしていた。基地の管制官へ連絡を入れた。

「ジョージ(紫電改)の編隊に攻撃された。新型機は非常に高速で我々の機体では全く歯が立たない」


 中佐の機体の周りに何とか攻撃を免れた3機のP-47が集まってきた。4機編隊が旋回していると、上空から2機のジョージが急降下して来るのを見つけた。発見した時はまだ距離があったが、直ちに回避しなければ間に合わないと判断した。なにしろ、とんでもない高速で飛行してくるのだ。

「上空から敵機。直ちに左旋回で回避せよ」


 無線で短く、指示しながら既にフットバーを踏み込んで操縦桿をぐいと倒した。その瞬間、上空から太いオレンジ色の礫が降ってきた。カービー中佐の後方を飛行していた2機のP-47は、中佐よりもわずかに左旋回が遅れた。この2機は翼を傾けた瞬間に、胴体や主翼に20mm弾が命中して、ばらばらと破片を散らしながら落ちていった。


 中佐機は左旋回と急降下で退避したが、ジョージは深追いしてこなかった。カービー中佐は操縦席でため息をついた。もはやできることは何もない。攻撃を免れた幸運な友軍機を引っ張っていって、何とか基地にたどり着くのだ。


 ……


 オアフ島の中部から西の方向を目指して飛行してゆく機体があった。18機のP-80シューティングスターの編隊だ。ウェルチ大尉とテイラー大尉が先頭になって、実戦訓練を兼ねて配備されたばかりのP-80が飛行していた。離陸が遅くなったのは、搭乗員がジェット機に慣れていないことに加えて、整備部隊も機体の扱いに不慣れだったためだ。


 ……


 原田大尉が先頭となってオアフ島の中部を目指して飛行していたのは20機の橘花改だった。電探警戒機から米軍機の接近が通報された。

「前方から米陸軍の編隊が接近中。速度から恐らくジェット戦闘機だ」


 橘花改の編隊が東に飛行してゆくと、すぐに米軍機を発見した。恐らく、オアフ島中部のホイラー基地から出撃した編隊だろう。接近すると米軍機が単発のジェット戦闘機であることがわかった。


 早めに米軍機の前方から噴進弾を発射することにした。ジェット機同士の戦闘では、あっという間に距離が詰まる。そうなれば噴進弾発射の機会を失いかねない。原田大尉は攻撃を指示した。

「噴進弾を発射せよ。繰り返す、噴進弾を発射せよ」


 P-80が編隊を解こうとして相互の距離を開き始めた時に、橘花改から一斉に噴進弾が発射された。22機の橘花改から360発の噴進弾が発射されて、P-80の編隊を取り囲むように飛んでいった。


 噴進弾の発射を見ても回避の遅れる機体が多い。思わず原田大尉がつぶやく。

「この編隊の機体は、動きが鈍いぞ。ヒヨッコが操縦する機体のようだ」


 編隊の中で続けて爆発が発生する。空中の爆炎が収まると、飛行している機体は10機程度に減っていた。既に降下によりP-80よりも高速を出していた橘花改は噴進弾格納筒を投下すると、後方に回り込んで一気に接近した。


 原田大尉は緩慢な旋回で回避する中央の機体に照準を合わせると、一撃で20mm弾を中央胴体に命中させた。P-80は機首の弾薬が誘爆して一瞬で胴体が吹き飛んでしまった。他の橘花改も各々目標を定めて攻撃した。奇襲攻撃を受けたP-80は、急降下で逃げたウェルチ大尉とテイラー大尉を含む4機以外は、消滅してしまった。


 ……


 ヒル少佐はまだオアフ島に来て2週間もたっていなかった。米本土から彼が率いてきた機体は、改良されたP-51だった。彼は、視界が良好で速度も航続性能も優秀なこの機体をたちまち好きになった。中国大陸での戦いで生き残ってきたのも自分の目を信じた結果だと、彼は考えていた。そのため、しきりに機体を傾けて、下方や後方を確認していた。


 しばらくの間、注視していれば、ゆらゆらと揺れながら飛んでいるのがわかっただろう。しかし、彼の苦労は報われた。ヒル少佐は、真っ先に後方から接近する双発機を発見することができた。

「後方から敵機だ。散開せよ。繰り返す。後方から高速の敵機だ。恐らくメドゥーサ(橘花改)だ。みんな逃げろ」


 ……


 赤城戦闘機隊の白根大尉は中隊長となって、22機の橘花改編隊の先頭を飛行していた。電探警戒機の指示に従って、米編隊の後方に回り込んでから接近してゆくと、目標はスマートな単発機の編隊だった。ほっそりした胴体に、抵抗の小さな液冷エンジンを搭載している。噴進弾を発射しようと接近してゆくと、編隊が四散してバラバラに回避を始めた。まだ遠いがとっさに噴進弾の発射を命令した。

「各機、噴進弾を発射せよ。噴進弾を発射せよ」


 22機の橘花改から390発の噴進弾がP-51の編隊に向けて飛んでいった。回避もしないでまっすぐ飛んでいた約40機のムスタングが目標となった。10発以上が命中して、15本の煙を残して墜落してゆく。被害を受けなかったP-51は、ほとんどが急降下により回避しようとした。相手が烈風であればこの戦法は成功したかもしれないが、今回の相手は全速で接近するジェット戦闘機であった。既に450ノット(833km/h)を超える速度で降下していた白根機は、簡単にP-51に追いつくことができた。背後から射撃すると、主翼に命中して外板が飛び散り火災が発生した。次の連射で、胴体に命中すると、胴体上面から一気に多量の黒煙が噴き出た。


 白根大尉は速度計を見てリカバリーフラップの作動ハンドルを押し込むと、翼下のフラップが作動して機首上げの姿勢になった。高速の引き上げ時の重力で一瞬意識が遠のきそうになるがそれに耐えて、機体を余力で一気に上昇させる。周りを見回すとどうやら40機余りの敵機に対して、6割か7割は撃墜したようだ。下方で敵機を追っていった橘花改が目の前の敵機に火を噴かせているが、その後上方からP-51が迫ってきた。思わず危ないと叫んだが遠方の戦闘にできることは何もなかった。


 ……


 ヒル少佐は、自らも急降下しながら回避を指示してから、下方で機首を上げて水平旋回に入った。相手は双発であり、運動性が良好なこの機ならば旋回で負けることはないだろうという読みだ。旋回を続けると、急降下してゆく味方のP-51を追いかけて、日本軍の双発機が降下して来るのが見えた。とんでもない高速で降下してくる日本軍機はあっという間にP-51に追いついた。日本機が射撃をすると火箭が出て友軍機に飛んでゆく。20mm弾の射撃にP-51は耐えられない。一撃で胴体がずたずたになってクルリとひっくり返って錐もみになって落ちてゆく。


 しかし、その間もヒル少佐は急降下による加速も利用して、敵の双発機に迫っていた。6挺の12.7mmが火を噴くと橘花改の主翼に命中して外板が飛び散った。二度目の連射で左翼の漏れていた燃料に火がつくと火だるまになって、オアフ島の海岸に向かって落下していった。中佐は、2度目の機銃を射撃すると同時に左に急旋回を開始していた。墜落してゆく機体を確認するようなことはしない。


 周りを観察すると、友軍のP-51は驚くほど数が減っていた。落とされたのか逃げたのかわからないが、10機程度しか飛んでいない。日本軍機は上昇を始めていた。どうやらオアフ島への攻撃を優先するらしい。ヒル少佐は中隊系の無線周波数で集合を命じた。

「基地に帰投する。集合せよ」


 ……


 第一群の戦闘機隊の戦いが終盤になるころ、第二群の編隊は、それぞれの目標に接近していた。12機の烈風改と24機の流星が、オアフ島西端のバーバーズポイント海軍基地の上空に飛来した。烈風改が基地周辺の対空砲を見つけて降下していって、噴進弾で攻撃を始めた。続いて、修理や整備中の機体、基地内の車両などのめぼしい地上目標を見つけて銃撃を始める。


 次に数機の流星が降下してゆくと、各機が2発の50番爆弾を投下した。滑走路上で連続した爆発が起きて、列になって15m程度の穴が滑走路上に開いてゆく。基地の格納庫や電探を設置した司令塔などの建築物も爆撃目標となって破壊されてゆく。燃料タンクも爆撃で破壊された。航空ガソリンが燃え上がって、激しくオレンジ色の炎と煙が立ち上ってゆく。写真で示されていた鉄筋の構造物も攻撃されたが、今回は爆発しなかった。


 バーバーズポイント基地の上空からは東方のエヴァ、ヒッカム、フォード島の方向からも同様に攻撃を受けて激しく黒煙が上がっているのが見えた。北方を見るとホイラー基地の方向からも激しく黒煙が立ち上っているのがわかった。


 ……


 日本機が引き上げてゆくと、米軍基地では攻撃を受けた滑走路の修復を開始した。消火作業や人命救助が最優先だが、飛んでいる航空機の着陸も必要だ。日本軍の攻撃前に離陸させた戦闘機や爆撃機は、まだ飛行しているのだ。


 陸軍のホイラー基地でも煙が残っている中で、攻撃を免れたブルドーザーやトラックを動かして滑走路の穴埋めを始めた。滑走路全てを修復できなくても全長のうちの半分くらいが修復できれば、飛行中の機体を何とか降ろすことができるだろう。ブルドーザーが埋めた滑走路をすぐにローラーが押し固めてゆく。もちろん、トラックに飛び乗った基地要員も滑走路に出てきて、スコップで穴を埋めてゆく。作業を30分ほど続けていると突然滑走路の真ん中で大爆発が起こった。大量の土砂と共にブルドーザーやローラーが吹き飛んだ。


 基地司令は、修復作業を一時中断して飛行場内の不発弾の処理を命じた。作業員が基地内の不発弾を探索していると、飛行場の北方に外れたあたりで、30分後に再び大爆発が発生した。ここで、基地の司令官は爆発していないのは不発弾ではなく、時限信管付きの爆弾だということに気がついた。すぐに、日本機が落としていった爆弾の近くから避難するように指示をした。しかし、これでは滑走路の修復が進まない。


 もたもたしている間に、戦闘で被害を受けた戦闘機が強引に滑走路に向けて侵入してきた。滑走路の穴の開いていないところを目指して、P-47が着陸してきた。うまく滑走路の穴を避けて接地したが、行き足が止まらないうちに爆弾の穴に足をとられて、機首から裏返った。それでもパイロットはすぐさま機体から這い出して走って逃げてきた。この様子を見ていた上空の数機のP-47とP-51が次々と降りてきた。P-51は、ひっくり返るのを恐れて胴体着陸で降りたが、停止後に漏れたガソリンに引火して火災が発生した。間一髪、操縦席から飛び出したパイロットは逃げることができたが、滑走路の東端の部分が火災で使用不可になった。次のP-47が滑走路の西側を目指して降りてきた。着地直後に滑走路上でものすごい爆発が起きて、機体がバラバラになってしまった。滑走路に投下された25番爆弾の時限信管が作動して爆発したのだ。


 ヒッカムやベローズ、ホイラーなどの他の飛行場でも同様の光景が見られた。作業の途中からは、時間を優先して、不発弾や、時限信管を備えた爆弾は機銃の射撃により強制的に爆破させる処置が実行された。


 ……


 エモンズ中将は、まだ混乱している基地の被害情報と上空の戦闘機の戦いの結果を必死で集めていた。やがて、当面の結論を出した。各基地からの報告に目を通していたダグラス少将に同意を求めた。

「戦闘機も基地も被害が大きすぎる。我々は、日本空母への反撃を行わない。いや、前日からの被害も合わせて反撃は不可能だ。基地機能の復旧と残存している機体の温存を優先する」


 ダグラス少将も強くうなずいた。

「海軍のマケイン長官にも陸軍の決定事項として伝えますが、よろしいですね。我々の戦力をあてにしても、無い袖は振れないと伝える必要があります」


「報告してくれ。私はアメリカ本国に増援の要求をする。特に本国から直接フェリーできる機体が最優先だ」


 ……


 攻撃が続いている間にもオアフ島の上空では、偵察が行われていた。各艦隊が飛ばせた艦偵に加えて、ミッドウェーからの電探警戒機も飛来して上空の米軍機の動きを監視していた。


 オアフ島東岸のカネオヘ湾の上空まで飛行していた警戒機3号機が、電探によりオアフ島の北東方向の50浬(93km)の海上に目標を探知した。想定外の位置に米軍機の編隊を探知したために、電探警戒機は未確認編隊の確認のために東方向に全速で飛行した。電探の反射映像の大きさから考えて、未確認の編隊はかなり大きいはずだ。やがて、遠方にシミのような雲が見えてきた。全速で飛行するとTBFアベンジャーやBT2Dスカイレーダーの大編隊が見えてきた。かなり遠方まで編隊が見えることから確実に100機を超える機体が飛行しているだろう。警戒機3号機は敵編隊の位置と編隊の規模、種類について打電を開始した。


 ……


 宇垣参謀長が警戒機からの報告を受けて山口長官の意向を確認に来た。

「電探偵察機が大規模な敵編隊を発見しました。オアフ島の北東方向50浬に100機を大幅に超える爆撃機群を発見しました。恐らく飛行場の攻撃を避けるために空中に退避していた機体だと思われます。迎撃戦闘に参加していないことから、間違いなく爆撃機です。放置すれば、次はわが軍への攻撃にやって来ることは明らかです。早急に攻撃することを進言します。現状で、オアフ島の東側に近いのは、四航戦と五航戦です」


 即座に山口長官は了承した。

「わかった。直ちに、四航戦と、五航戦に戦闘機隊を飛ばすように伝えてくれ。時間が優先だ。彼らの手持ちの機体で、目標の地点まですぐに飛んでいける機体のみでよい」


「上空の電探警戒機から、戦闘機隊を誘導してもらいます」


「とにかく今は、時間が惜しい。直ちに攻撃命令を出してくれ。」


 連合艦隊司令部から、直ちに四航戦と五航戦に命令が伝えられた。

 大西少将は、想定外の指示を受けて一瞬当惑したが、直ぐに理解した。

「……了解です。オアフ島の北東50浬に敵爆撃機の大編隊が飛行しているから攻撃せよとのことですね。直ちに攻撃隊を準備します」


 大橋首席参謀と三重野航空参謀に振り返る。

「我々のオアフ島への攻撃隊は、帰投途中でしばらく時間がかかる。早急に戦闘機を出撃させるいい案はあるか?」


 三重野少佐が答える。

「上空警戒の烈風改を一度収容して、大至急補給を行って出撃させます。弾薬は消費していないので、燃料の補給だけで再出撃可能です。帰投中の編隊に連絡して、迎撃戦闘可能な機体を抽出してもらいます。その戦闘機には、穴埋めとして艦隊の前面でしばらく警戒をしてもらいます。2時間程度の上空警戒であれば燃料切れにはならないはずです。その間に収容した戦闘機の再出撃ができるでしょう」


 大橋参謀が続けた。

「攻撃隊は直衛の烈風改と流星で編制します。米編隊の距離から紫電改では厳しいでしょう」


 ……


 翔鶴戦闘機隊の宮島大尉は、急遽編隊を組んだ風改と流星を率いて東北東の方向に飛行を開始した。上空警戒機や整備中の機体から集めた烈風改は18機だった。流星は10機が出撃可能となった。


 発艦すると、上空の電探警戒機から宮島大尉に連絡が入る。

「電探警戒機の野中です。これから、米編隊に向けて誘導します。電探で米編隊を探知していますので見失うことはありません」


「了解だ。こちらは高速巡航で飛行している。300浬(556km)でも、1時間程度で飛行できるだろう」


 烈風改の編隊は、1.5時間弱の飛行で米編隊を発見することができた。護衛戦闘機がついていない爆撃隊に対して、噴進弾で攻撃して編隊をバラバラにする。


 烈風隊の宮島大尉が米編隊の様子を見て、命令する。

「敵は爆撃機だけだ。機銃弾を節約して攻撃しろ」


 隊長の指示により、各機は20mm機関銃2門の発射に切り替えた。それでも、20mm弾は爆裂弾なので、単発機が相手ならば、充分撃墜が可能だ。低速の爆撃機は狙われてしまえば、逃げることができない。攻撃を繰り返すことにより、烈風戦闘機隊の各機は3機から5機を撃墜した。空中退避していた爆撃隊は7割以上が撃墜された。逃れられたのは、いち早くオアフ島から離れるように沖合へと低空で逃れた機体のみだった。

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